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僕のお店が考えるヴィンテージの価値観

今回はヴィンテージの価値観について考えました。
この手のテーマは賛否両論あるかと思いますが、あくまでも古着屋店主個人による1つの考えとしてお読みいただければ幸いです。

まず初めに僕はヴィンテージの年代や産地という希少価値にそこまで魅力を感じていません。
なぜならその希少価値というものは、お客様が本来知らなくても何も問題ない部分を"店側から「これは価値があるんだよ」と無理やり理解させられて"植え付けられていると感じるからです。

ミリタリーやワークアイテムは年代ごとにモデルチェンジや生地や縫製のマイナーチェンジがあります。皆さんも古着屋さんで「この数年間だけはボタンの数が1つ少なかった」とか、「このミリタリーパンツの前期型は綾織のコットンだった」とか、「このフレンチワークはリネンとコットンの混紡生地でメティスと呼ばれていて希少価値が高い」とかそんなウンチクを聞かされた事があると思います。
これら全ては僕から言わせれば、「だからなんだよ」って感じなんですよ。
もちろんそのストーリー自体は僕も服飾史的面白さを感じます。ですが僕としてはそうした魅力は6-7番手くらいの立ち位置なんです。
純粋に"着る"ということに全く影響の無い話と思うんです。

というか希少価値云々の話だけなら軍服や労働着なんて何1000万人という人の為に作られてるいるじゃないですか。
それなら90年代くらいのマイナーブランドが作った柄シャツの方が絶対数的に考えて希少価値高いですよね?同じ物を見つけるのも難しいですし、その上ヴィンテージ品より遥かに価格も安いです。
じゃあそれならそっちで良いじゃんと僕なら思っちゃいます。(近年ではそうした古着もレアレギュラーなんて呼ばれてしまっていますが)

昔、ある古着屋さんですごくシルエットが綺麗なヘリンボーンツイルのウールコートを見つけた事がありました。ですが中々良いお値段で迷っていたらそこの店主さんが「これ1960年代のなんでこの値段なんですよぉ」って言ったんですね。
その時僕は「え?高い理由それ?」って思ってしまったんです。
だったら買い付けに行った時の旅費が結構かかっちゃったからとか、コレクターから大枚叩いて無理に譲ってもらったからとかって理由の方がまだマシだと思ったんですよ。
(まあ正直それに関してもお金を出すお客様側からしたら何の関係もない話なんですけどね)
1番最初に来る理由が古くて希少だからって言われた時点で「知らないよそんなの」って僕はその服にもそのお店にも気持ちが冷めちゃったんです。
そんな話より、どうせ話すならその買い付けた国の音楽とかご飯とかカルチャーの話でもして欲しいと僕は思いました。

こんなこと言いますと、
「大きなお世話だ、なにが好きかは人の勝手だろ」と言われてしまうかもしれません。
もちろん僕もお客様がどの部分に魅力を感じるかはその方の自由だと思います。

ただヴィンテージのウンチクをその服の直接的な価値にして店側が販売するのは僕はなんか違うなと思うんですよ。
なぜならそうした価値は全て作られたものだからです。
ある日この年代から縫製が変わっていることに気付いて、じゃあこれを特別なものとして販売しようと考える人がいたりします。ですが、そんなのは全然オルタナティブでもなんでもないです。目先の利益の為に見出された物に過ぎないです。
特に男性特有の収集欲や知識欲、自己満足感を利用した手法と言っていいですね。
そもそも、その服を着て出かけた時にいちいちその情報を人に話さないじゃないですか。
もし仮に他の人からそのヴィンテージ服を褒められたとして、恐らくその方は服のルックスやいかにその人に似合っているかを褒めると思うんですよ。

服は着心地が良くて見た目が好みで、それでいて着る人に似合っていて、着る人の気分が上がればそれで良いんです。
それ以外の付加価値は僕にとってはオマケに過ぎません。

ただ誤解しないでいただきたいのは僕は決してアンチヴィンテージではありません。ただ1番の魅力がそこではないという話なんです。

僕がヴィンテージに魅力を感じる部分は純粋な素材感とルックス、この2点です。
例えば当店でも取り扱っている100年ほど昔のアンティークリネン。

ドイツ製アンティークリネン生地を使ったリメイクイージーパンツ


1日織っても数10cmしか作れなかったり、大戦前の物であるという希少価値はありますが、僕が1番に魅力を感じるのはそこではありません。
アンティークリネンは、昔の各家庭で織られた手織り機によって綿密で空気を含んだ丈夫だけれどプルプルと弾力を感じる柔らかさがあります。
そして手織りによる生地の表面に浮き出たリネンの節、これは風合い豊かな柔らかさの中に武骨な雰囲気を感じるルックスをしています。
僕はもちろんお店で普段このような話をお客様にさせていただいてます。ですが最終的には実際に着て良さを体感していただくんです。
その年代ならではのシルエットも魅力ですしね。

ヴィンテージ以外の洋服もそうです。色だったり柄のユニークさだったり、着ていく場面だったり、シルクやコットンの天然繊維以外のレーヨンやポリエステルなど各生地の特徴だったり、そんな話をお客様にお伝えしています。

お客様の中には「最近の古着市場は何にでも価値を付けて騒ぎ過ぎだ」と苦言を呈する方もいます。
そのお気持ちは僕もよく分かりますし、そうしたお声はしっかりと受け止めています。
僕はどこかの古着屋で働いて独立したとかでは無いですし、自分を古着業界の人間だとは今だに思っていないんですよね。
自分が好きで勝手に始めたからこそ、
お客様の立場や考え方に近いのかなと思います。

先程も言いましたが、
着心地が良いか・見た目が好みか・自分に似合っているか・気分が上がるか、この部分がハマれば誰でもその服を大切に着るはずです。希少価値が先行して手に入れた服は、きっとそのうちネットフリマ等に売りにだして手放してしまうでしょう。
多分僕はそれが1番嫌なのだと思います。
自分のお店で選ばれて旅立った服がそんな末路を辿るのはとても悲しいからです。
希少価値や服飾史的価値は頭の片隅に据え置いて
服自体の魅力をシンプルに感じ、お客様自身がその服と出会ったストーリーを大切にしていただくのが1番だと思います。その方が絶対楽しいです。

今回も長くなってしまいましたが、
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
お疲れ様でした。

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