最近アマプラで観た邦画5作
社会問題を考える、真面目なの(?)が多めかも……
市子
「杉咲花さんがすごい」以外の感想はすべてネタバレになるでおなじみの『市子』。話の根幹にあるのは離婚後300日問題。
離婚してから300日以内に生まれた子どもは"元夫の戸籍"に入らなきゃいけないという法律がある。それに加えて、もし元夫のDVから新しい男の人のところに逃げたとしても、離婚後100日は再婚できないという法律もある。そのせいで無戸籍の子どもが出てきてしまうという問題。日本には、わかっているだけで1万人以上も"無戸籍の人"がいるらしい。
無戸籍の人は住民票もマイナンバーもつくれないから、学校にも行けないし社会に出ても働けない。病院にも行けない。正確にいえば未成年者は手続きすれば戸籍を取れるんだけど、それを知らずに無戸籍のままハタチを迎えてしまったり、相談しても役所の人が非協力的だったり、親の国籍が外国だと書類を取り寄せなきゃいけなかったりして、なかなか骨の折れる作業みたい。
明治時代にできた価値観の古い法律で、日本以外の国にはまずないらしい。そんな人権を侵すような非人道的な法律が、少なくとも『市子』が公開された2023年10月までは変わってこなかった。しかし、2024年4月からついに変わったそう。
『市子』の映画が法改正と関係あるかはわからないけど、すごい進歩。
「プロポーズした女性が突然消える」というよくあるミステリー映画かと思いきや、根底には現実にある社会問題がガッツリ横たわっていて、是枝作品を彷彿とさせるジャーナリズム精神すら感じた。見終わったあとは、ひたすらボーッと浸ってしまう……(後日談:主演の2人の熱愛が発覚!ナイスカップル🫶🏻)。
ある男
『市子』と同じ感じの、亡くなった旦那の真相を追いかけるミステリー系。原作は平野啓一郎さん。「分人」の考え方が反映されているように感じた。
人はワインのラベルを見て「あ〜…これ〇〇産か。やっぱりちょっと苦味があるよね」と味を判断する。でも、ワインのラベルを"別の産地の高級なもの"に張り替えて出されたら「やっぱり〇〇産は飲みやすいね!」と意見が一変する。この話のダイスケも、ワインのラベルを貼り替えるように自分ではない誰かの人生に乗り換えた。
ダイスケほどではなくとも、人はいくつかの顔に切り替えながら生きている。なぜかといえば、社会だったり家庭だったり、いま置かれている環境が窮屈だから。自己逃避かもしれないけど、新しい顔で新しい環境に身を置くのは、窮屈な既存の環境を脱する手段になる。しかも新しく関わりを持った人たちとの絆も、本来の自分の記憶に"たしかなもの"として残る。
原作からして素晴らしいのだけど、難しい役を演じる俳優さんたちが本当に素晴らしかった!!!
ほつれる
ほつれてた……出てくる人たち全員が物腰やわらかい感じなんだけど、じつは保身に逃げながらお互いに殴り合ってるみたいな。そんな映画だった。
個人的にキツかったのは、"優しくておだやかな夫"の皮をかぶったモラハラ夫。「別れたい」「わかった。で?好きな人とどこで会ってたの?空港?空港で何したの?楽しかった?」ずっとこんな感じの質問攻めで綿子(奥さん)をチクチク追い込む感じがホントにキツい。こちらまでストレスで禿げそう!!!
それもあって、綿子が一人で山梨の宿に泊まるシーンは、孤独よりも、夫を始めとした周りのウザい人たちから解放されたようなホッと落ち着く気持ちがギリちょっと勝つ。温泉のポチョポチョとか、グランピングでの焚き火のチリチリみたいな"旅の音"が妙に気持ちよく聞こえる映画だった。
ゴジラ-1.0
先日『オッペンハイマー』を観てから、戦争の歴史に興味津々の今日このごろ。とくに水爆を開発したテラーという男のことが(悪い意味で)印象に残っていた。
水爆実験について調べていたら、お台場のほうに水爆実験に巻き込まれた漁船「第五福竜丸」の実物が展示されているとのことで、見に行ってきた。水爆の威力は原爆の1000倍ともいわれる。これは四国がまるまる無くなるほどの威力。当時の凄惨さが痛いほど伝わってくる展示で、帰るころにはもうぐったりだった。
帰宅したら美味しいお酒でも飲んで、嫌〜な記憶を上書きする選択肢もあったんだけど……逃げちゃイカン。アマプラで『ゴジラ-1.0』を観て、自分を追い込むことにした。
あんまりゴジラシリーズを観てこなかったものの、-1.0のゴジラは思い描いてたままのゴジラ像にかなり近かった。「底なしに暗くて怖いゴジラ」というイメージ。アカデミー賞視覚効果賞をとった作品とあって、街中やら海上やらにゴジラが降臨するシーンは大迫力だった(これはたしかに映画館で観たかったかも)。
ラスト、ゴジラの攻撃から逃げ延びた女性が、マーシャル諸島の水爆実験で生き延びた女性と重なった(さっき第五福竜丸の展示を見てきたばっかりなもんで……)。とある地政学の本によると、「ロシアの核兵器は北海道のすぐ上の海で保管されてる」とのこと。絶対に使われないことを祈る……
Winny
俳優の東出さんが、Winnyを開発した金子さんにしか見えないでおなじみの映画(東出さん、山にこもってから(?)魅力増し増し)。
「ビットコインの開発者は日本人説」があるらしいけど、もし金子さんが裁判で時間を無駄にしていなかったら、2010年代とかに同等の技術が日本から生まれていたかもしれない。Winnyがリリースされたのは2004年のネット黎明期。警察が「なんか怪しいものをコソコソ生み出してる奴」をつぶしておきたくなる気持ちもわからんでもないけど(そもそもその警察が真っ黒だったんだけど)……もったいない!!!
Kindle Unlimitedでも読めるWinnyの本は、当時のネット文化を思い出すようなどこか懐かしい軽快な文体が小気味よい。さくさく読めるから映画とあわせてぜひ!