980円で散髪したら疑心暗鬼になった話
IWASAKIという美容室で、980円で髪の毛を切ってきた。
まずはそのビフォーアフターを見てほしい。
もうこれでよくないですか……?
切った直後の第一声はこれだった。
なんせ、安くて早い
まず、早い。なのに、安い。
"タイムイズマネー"という考え方が正しいのであれば、本来は「高くて早い」が価値のあり方として正しいと思う。それなのにIWASAKIは、「安くて早い」の追求に余念がない(???)。
たしかに4〜5人待ちで30分くらいは待ったけど、いざカットが始まった途端、凄まじい早さでシャギー?を入れていき、ものの5分でアフターの状態になっていた。「え……?もう終わり?」と拍子抜けしているヒマもなく会計に案内され、気づいたら家に着いていたのである。
雑そう。クオリティが心配……と思う人もいるだろう。でもよく考えてみてほしい。この早さなら1日何十人もカットできるだろうから、美容師さんはかなりの手練れなはず。何をもって"カリスマ美容師"と言うかその定義はわからないけど、あらゆる髪質や髪型に対応してきた経験からして、もう"カリスマ美容師"と呼んだっていいんじゃないだろうか?
少なくとも、上京してすぐのころにパーマを当てて髪の毛をチリチリのラーメンみたいにしてくれた原宿の一等地にある美容室の"自称カリスマ美容師"よりはカリスマみがある。
カリスマ美容師に5分でカットしてもらえる。しかも980円で。じゃあもうこれでいいじゃん、と率直に思った。
今まで、何だったの?
そこでこんな疑問が湧いてくる。
あらゆるサービスって、わざと時間をかけてるんじゃ……?
だってただ美容室にカットしに行くだけでも、やれカウンセリングだの、「あなたの骨格的にこの前髪がいい」だの、「どの雑誌がいいですか?茶いります?」だの、仕上げに髪の毛巻くだの……終わるころには外も暗くなっていて、混み合う表参道でやっと電車に乗り込み、乗り継ぎ乗り継ぎ……気づけば貴重な日曜日が終わっている。ちょっと待って、IWASAKIは5分だったよ???
もちろん丁寧さとか大事にされてる感はあるけど、果たして全員がそれを求めているのだろうか? 私みたいにそうやって気遣われる感じが苦手で、「茶のサービスとかいいから早く切ってくれよ」と内心思っている人もいるのではないか??
それでいうと、歯医者も甚だ疑問だ。一回で右奥歯と左奥歯を治療すれば、通う労力や恐怖心も一回で済むところを、「今回は右奥歯やります」「次回は左奥歯やりましょうね」って引き伸ばし引き伸ばし……こんなこと思いたくないけど、思ってしまう。
まさか回数増やして診療費とりたいだけじゃないよね……?
先生によってはそんなこともなくて、「親知らず2本ありますね〜どうします? 今日2本とも抜いちゃいます?」と無邪気な提案をしてくる先生もいたりする。「2本一気に……? ちょっと待ってください、心の準備がまだ……」と、それはそれでたしかに冷や汗ものではある。
でも意を決して2本同時に抜いた結果、両頬が3日ほど腫れただけで歯の痛みもすぐ取れたし、何よりも「あと1本、奥歯に爆弾をかかえている」という呪縛から解放され、心が軽くなった。この安心感は、「やろうと思えば2本一気に抜けるよ」という提案をくれた先生への信頼につながった。
提案時の「できる」か「できない」かの説明があるかないかで、お客さんの安心感は変わるのだ。
今回IWASAKIで髪を切ったことで、本当は「カットは5分で終われるもの」「980円で切れるもの」だということがわかった。にもかかわらず、これまで通ってきた数々の美容室は1時間もかけて、5000円くらいの料金を取って切っている。ということは、足元を見られているのではないか。
もしくは、「お客さまは神様」の過剰なサービス精神が行きすぎているのかも。
お金をたんまり持った富裕層は茶や雑誌でおもてなしされるのが当たり前かもしれないし、そういう"神様サービス"を求めるのかもしれない。でも私は神じゃないし、別に茶や本を持参してもいい。いや、むしろそのほうがリラックスできるかもしれない。
ずっと「HSPだから美容室が苦手」だと思って生きてきたけど……このたび、「こういうサービスが好きなんだろ!?」という押し付けが苦手なのかもしれない説が急浮上してきた。
謝罪
この文章を一部抜粋してTikTokにあげたら、めちゃくちゃバズッてしまった。
「このクオリティで満足できるなら980円でいんじゃない?」みたいな初めての誹謗中傷も受けたし…
「歯医者です」「美容師です」みたいなガチ勢が参戦してきて、マジレスされたりもした。(プロのみなさんすみません)
いろんな意見を知れてよかったなと思う。と同時に、1000円カットと5000円カットの4000円の差を"気持ちの問題"として捉えてる人が多いと思った。
私は髪の毛に絶対的なこだわりがないから「980円でいいや」って思ったけど、髪の毛にこだわりがある人は「1000円カットは安すぎ、4000円をプラスしてでも信頼できる人に切ってほしい」と思っている模様。
かくいう私も、安すぎるマットレスと美容液は怖いから買いたくない。
原価に上乗せされた付加価値は祈り・願いみたいなものだと思う。「こんだけ払うんだからこうであれ」みたいな気持ちとか、「自分がこうなったらいいな」みたいな期待。期待にお金を払っている。
今回私が「980円でいいじゃん」って思ったのは、「その値段ならガタガタにされても仕方ない」と思って恐るおそる行ったのに、「あれ…期待を上回ってきたぞ……???」と感じ、「980円でここまでやれるんじゃん!!!」という新発見があったからにほかならない。
これがガタガタの仕上がりだったら、別に「だよね〜」くらいの感想で、この文章を投稿しようと思ってすらなかったと思う。
つまり私は、期待代を払わなくても期待を超えてきたIWASAKIに感動したのだ。
と同時に、「じゃあ5000円を払って失敗されたあの経験ってなんだったの?」と過去の美容室体験に違和感を感じて、この違和感がなんなのかを見つめてみたくなった。そしてこの文章ができた。
モノやサービスを通して何を祈り、どんな願いを叶えたいかは人それぞれ。だから美容室に3万払う人の美学は素敵だと思うし、なんなら私も100均の絵の具で描かれた絵を5万で買ったことがあるから「そういうのあるよね〜」と思う。(比べると私の美学のほうがやばい気がしてきたけど、それは置いといて……)
何が言いたいかと言うと、カット5000円の美容室をディスりたい意図はないです。そういう見せ方になったのは、私の性格が悪いから。ただそれだけ。もし傷ついた人がいたらごめんなさい……
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