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「ミリオンモデル」という 想像力の底なし沼 | 連載:ソフビ考現学③

毎年一度だけ新作を発表するミリオンモデル(旧名義は イルイル/ウズマーク/眩ム圖 など多数)が、8月の創作ソフビ決起集会で披露した新作のひとつ「大面獣」を紹介します。

このピンク・バージョンの他に黒バージョン、赤バージョンが存在して、選考当選者は自分が欲しい色を先着順に選ぶ、という受け取りスタイルでした。ブースには大面獣の五円引きブロマイドのオブジェやテーマ曲のレコードジャケットも展示されてい、その作りこまれた展示に衝撃を受けた人も多かったようで、ブースの前は写真を撮る国内外の入場者の人だかりが絶えませんでした。

昭和のプラモデルを彷彿させる、レトロなボックスアートと直立的なプロポーション(おそらく1960年代に発売されたオカモト模型のゼンマイ歩行プラモデル「怪人フランケン」「怪人オオカミ人間」のオマージュでしょう)。それでいて、顔や体表などのディテールの造形は極めてリアルで現代的。その絶妙な二面性が、見る者の時間感覚に亀裂を作り、なにか暗い想念がバグのように心に深く侵入してくるのです。

ミリオンモデルは2010年代に、大面獣の小サイズ版ともいえる「人面獣」という作品シリーズを「ウズマーク」名義で発表していました。〈昭和に公開された『人面獣』という映画に登場した怪獣のソフビ〉という設定で発表され、映画のポスターやスチールもあわせて公開されたため、そのような映画が過去に本当に存在したのかと信じかけてしまったものでした。

今回の大面獣は、「ミステリーモンスターシリーズ」という怪奇ソフビの第三弾という設定で、箱絵には「怪奇 毒郎」「怪奇 汰々淋坊」という魅力的なラインナップの画像が掲載されています。これらも実際には世に出てはいない架空の商品ですが、これらの魅力的な化け物にも、それぞれに奥深い背景設定が存在しています。

こうした妄想世界の作り込みを、ミリオンモデルはもう10年以上、全て1人で行っています。幻想的なコンセプトを、繊細な造形力と画力とデザイン力で毎年1回形にするその創作スタイルは、まるで作詞作曲と全ての演奏を1人で行い、毎年クオリティの高い作品を発表し続けたプリンス・ロジャーズ・ネルソンのようでもあります。特に画力が卓抜しているので、画集を出してほしいほどです。

ミリオンモデルは、現在のソフビ・ブームの中においても個性が際立つ孤高の存在です。その世界観の奥行きの広さと深さは、他のソフビ・クリエイターの追随を許しません。これは単なるソフビではなく、ソフビの背後に広がる狂気スレスレの想像力の底なし沼であり、そこに沈み込む快楽を味わってしまうと、これを知る前の自分にはもう二度と戻れなくなるのです。。。

来年の新作がいまから待ち遠しいです。

ソフビ考現学① 「ソフビ」ブームが世界を席巻!玩具とアートの融合が生んだ日本発の文化現象

ソフビ考現学② 2000年代の平成インディーズソフビ・ブームを振り返る


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