これこそ山道-皆野アルプスを行く破風山ハイキング⑬
山頂に小さな祠を祀るのは八百万神の国、日本独特の文化だと思う。のんは国内外問わず宗教建築物に非常に興味がある。それに比べたぁは一切の興味を示さない。
「あっ、神様だ。こんにちは。」
祠を見つけたのんは自然と手を合わせる。たぁは近づくことなく、視界が開けた山景色を見、爽快感を得ている。
ご挨拶を済ませたのんもそれに続き、久しぶりの広大な景色を前に解放感を楽しむ。すると遠くから何かを告げるチャイムのような音楽が耳に届く。時間を確認すると12時。
「お昼よぉ~、ランチよぉ~、みんな休んでぇ~。」
二人もお昼といきたいところだがまだコースの1/3にも至っていない。さらにここ天狗山山頂は狭く土が乾き滑りやすい。足元に気を付けながら景色を楽しんでいる状態なだけに快適な昼食場所としては不向きだ。今はこんなにも美しい空だけど雷雨予想も頭の隅に入れておかなければ。とりあえず先へと進むことにしよう。次なる目標は大前山。一気に下がって一気に登る予定。
しかしのんの目の前にはハイキングトレイルとは思えない滑り下りしかない。
これコース?
先へと目をやれば確かにトレイルらしい道が見え、他にそれらしきルートもない。乾いた土にたくさんの小石。転ぶ要素満載な道にのんは恐怖を感じながらも前進を試みる。
こりゃぁ楽しい尾根道ハイキングとは行かないな。
後で転ぶくらいならと最初からお尻をついて滑り進む、彼女なりの試行錯誤。すると目の前にこれ幸い、ロープが出てきた。早速手を伸ばし、補助の元、急な斜面を下っていく。ロープがあるいかで安心度は大きく異なるのだ。取り付けてくれた人の労力と配慮にこれまた感謝。しばらく進むと頼りのロープは姿を消すも道はまだまだ急な下り坂。のんは必死に降りていく。
「おいおい想定外だよ。」
弱音が簡単に口から洩れる。たぁからの返答はない、彼も気を付けながら着実に下っている。再び見えたロープに飛びつくのん。ロープがあれば勇気3倍と歩が進むものの、なくなればどうやって降りるのか途方に暮れる。
ズリっ。
へっ?
瞬時に後ろを振り向けばたぁが後ろで軽く滑ったらしい。
「気を付けて。」
不安を掻き立てられたのんの言葉に鋭さが含まれる。
「へへっ、うん。」
照れ隠しか本人はさほど気にしていないのかたぁの返答は薄い。こんなマイナー山道で彼に何かあったらとのんの心は一瞬で険しさに覆われる。折角の美しい木々に囲まれながらも今は楽しむ余裕がない。