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山の中の集落-皆野アルプスを行く破風山ハイキング⑪
大きな窪みの上に竹で出来た一見頼りない橋がある。しかし実は丈夫な彼ら、コース上に設置されていることをありがたく感じる。
坂道続きで森ハイテンション中ののんの足にも軽い疲労が感じられてきた。疲れに任せて軽い休憩とばかりに止まるのはたやすいこと。しかし下手に止まれば次の一歩を踏み出した後すぐにまた疲労感を感じ、また休みたくなる。気づけば疲労に飲まれ前進が拒まれる。疲れた時は歩幅を小さくちょっとずつ進みながら体を休めることが歩み続ける良い方法。
木の横からアピールする子発見。
がぉーっ!
多分、枯れ木の根の部分だろう。全長1mほどの体を大きく広げ、バっと襲い掛かろうとする姿に見える。
嬉しい。
のんから笑みがこぼれる。森に住まう生命の個性豊かな表情と空想がコラボして、彼女なりの森との対話。エンターテイナー登場のお陰で疲れも忘れる。たぁに伝えれば、同じフィルターは共有しなくともその表情を一緒に楽しんでくれる。
気づけば落葉樹と常緑樹は再び入り混じり、木々の間から青空が望める。
なんて豊かな森なんだ。
「ちょっとストレッチ。」
たぁの声が聞こえ、我に返る。
「あっ、うん。」
のんは頭の中には足の疲労⇒ストレッチという図が抜けている。一緒に行うも良い生徒ではないため、すぐに飽きて森へと気を移す。惜しみない自然を目に焼き付けたい、全部残しておきたいと写真を撮り続けるも、その時の体感までは残せない。だからまた体が望めば森へと足を運ぶ。
ストレッチ中のたぁの姿が目に入る。
たぁがいて、森がいる。
森の中にたぁしかしない。
「動物はたぁだけであとは全部植物。」
彼も周りを見渡す。
彼の目にはのんしかない。
自分の姿は見えない、見えるのは森と互いの姿のみ。
「本当だね。」
微笑みあう二人。
良かった、このコース選んで。
良かった、この素敵な場面を理解できて。
しかし先には悲しい現実が目に飛び込む。道脇の川にペットボトルなど人工的なゴミが落ちている。こんな森の中にどうして?と疑うも答えは先で知ることになる。
まっすぐ伸びる杉の中に自分もと肩を並べる竹の姿、交わる個性がたまらない。竹が姿を消し、久々の看板、“←大前・上沢辺バス停→”。二人は大前へと向かっているらしい。
「大前?」
バス停前の休憩所でもらった地図をリュックから取り出す。ハイキングアプリは便利なるものだが各ポイントの名は載っていないのでこんな時はやはり地元マップが役に立つ。
大前はコース一番初めに出てくるポイントのようだ。「うん、道は合っている」と二人は確認すると、気づけば周辺は背の高い杉だらけ。
道は脇に草や枯れ木があり、歩ける幅は30cmと言ったところか。
狭いなぁ。
あっ、家が見えた。近づいてみると外壁塗装はところどころはがれているものの電球も窓も割れおらず林業を営むものの臨時住まいかな?
すると向かいから人が。突然現れた姿にびくっと反応し、軽く動物の気持ちになったよう。彼女、軽装だ。ハイキングというより近くをお出かけするような恰好している。
この細い道をどうやって行き交えばいいのかなぁ?
短い間にのんの頭はぐるぐる動く。すると彼女は慣れた様子でちょっとしたスペースへと移動し、道を開けてくれた。
「こんにちは。助かります。」
「あー、いえいえ。」
たぁが通るまで待っていたくれた彼女に感謝。細い道を登り続けると別の家々が現れ、車道まで出てきた。
えっ、車道???
マップ答え合わせで納得。ここは大前集落。ハイキング前に余念なく調べているのは山のレベルと所要時間、そして交通アクセスについて。コース詳細は流し読みのため、来てみてびっくりはちょくちょく起きる。ただがんばって登ってきた山の上にコンクリート舗装道路があると心がげんなりするものだ。