進次郎放送局的総括〜進次郎の総裁選〜
1.はじめに
進次郎放送局は進次郎構文に注目して2020年に立ち上げたアカウントですが、中の人は政治にも強い興味があるので、政治家・小泉進次郎にも注目してきました。ただ盲信することでもなくただイジるだけでもなく、そんな風に見てきた立場からの意見です。
総裁選とは、
・語るテーマを設定する(テーマ設定戦略)
・説明して支持を得る(テーマ説明戦略)
・選挙戦全体を切り回す(選挙戦術)
の組み合わせだと思っているので、これに応じて記載していきます。
2.テーマ設定は正しかったのか?(戦略1)
進次郎は長年の課題に決着を付けるとして、3つの改革を唱えました。
①政治改革
②規制改革
③選択肢の拡大
①は当然として、②と③もそれぞれ企業と個人を縛る枠を取り払って自由にするというのはとても良い発想だと思ったし、何より明確にテーマと具体的な方針を提示して時限も区切ったのは評価します。具体的な方針をはっきり出すことは時にマイナスに働くし、総論中心でそうした具体策をはっきり提示しなかった候補者もいた中では、潔かった。ただ、テーマ設定は良くとも具体策の選択には問題があったと考えています。
2-1. 政治改革
実態は政治資金改革ですが、これは総理交代の経緯を踏まえれば当たり前。政策活動費の廃止や文通費の使途公開などを早い段階から主張したことで、各候補者も追随せざるを得なくなり、良い流れを作ったと評価しています。
2-2. 規制改革
メインは「解雇規制見直し」。かなり物議を醸したものの、私はテーマ設定としては評価します。ただ、最初の説明が悪かった。
新卒で入った会社でうまくいく、あるいはステップアップしながら転職できる人は良い。けど、新卒で入った会社が合わずに不本意に退職したり、会社が経営不安で解雇されたりすると、労働者はなかなか非正規や低い処遇から抜け出せなくなる。企業は企業で、一旦採用したら全員に一生給与を払う覚悟が必要なので、どうしても正社員採用や処遇向上には二の足を踏む。結果として、高くない処遇の正社員と低い処遇の非正規が増える。これが硬直的な労働市場が生み出す実態。
これを解消する為に、企業の経営不安時などのやむを得ない解雇時には、リスキリングや再雇用支援を大企業に求め、人手不足の中小企業など他社でもしっかり活躍出来る道を設けて就職を支援する、これが労働市場の流動性を創ることだと理解しています。処遇を上げ、失業を防ぐには必要な施策と考えます。
ところが、「解雇規制の見直し」というフレーズは誤解を呼びやすく、丁寧な説明が必要でした。(これは3.で後述)
2-3. 選択肢の拡大
一般論として、国が個人の選択肢を広げる、チャンスを平等に与えることには大賛成。「選択肢の拡大」というフレーズはコンセプトとして良いと思います。
ところが、選択肢の拡大というテーマにふさわしい教育や働き方でなく「選択的夫婦別姓」にフォーカスしてしまった。この賛否というより、総裁選のテーマにしたこと自体が間違いだった。
なぜなら、
・結婚する2人が別姓を望む時に、何ら別姓を強制されず困りもしない他人が邪魔する必要は全くない(賛成派の主張)
・別姓の2人の間に生まれた子は必然的に片方の親と別姓になる、これを生まれてくる子に強制する理由はない(反対派の主張)
は、どちらも正しく、議論したとて折り合う余地などないので、この賛否を総裁選の焦点にするのは適切でなく、完全に失敗。ここで批判を受けたダメージは完全に無駄だったと思う。
3.説明の中で支持は得られたのか?(戦略2)
世論調査で高市早苗候補が進次郎と入れ替わりに浮上するたびに「論戦が進むごとに勢いを失った」という評価がされていました。
まず論戦序盤は、「解雇規制見直しが単なる安易な解雇奨励策でないこと」「答えの出ない選択的夫婦別姓について賛成すること」だけで防戦一方となりました。特に前者については、勘違いしたマスコミから報じられた結果、相当なダメージを受けました。選挙戦中には誤解を解くべく丁寧に説明したものの、それがまた変節だとか後退だとかの批判を浴びた。誤解や悪意ある拡散もあったが、明らかに最初の説明が悪かったのが要因。これは明確に反省すべき点だと思います。とても良い着眼だったが、もったいなかった。
論戦中盤から終盤にかけては、労働市場改革についても一定の理解が進み、大きな点で一致する他候補もいて冷静に議論は進められたと思います。選択的夫婦別姓も賛否こそ分かれつつも議論はきちんとされていました。
ただ、色んなテーマの中で、進次郎が最も説得力があったかと言われればそうではなかったと思います。どのテーマでも淀みなく的確に回答し、自分の意見を述べるだけでなく議論の場全体を見渡しての発言もしていた林芳正候補、閣僚経験1回だけと思えないほど説明の基盤やロジックが明快だった小林鷹之候補らが常に討論会では優位だなと感じていました。
進次郎はというと、他との違う観点を出したいが為なのか、確かに質問の意図のど真ん中でなく周辺部のような回答をしている場合が時々ありました(日米安保について聞かれて横須賀米軍基地の話をする、というような)。質問に答えてない、みたいな批判はここから来ているはずです。
ただ、これはごまかしてるとか分かってないということでなく、話したい優先順位のような気がしています。単なる理念を語るというより、日本中を周って人に会って見て聞いて話してきた具体的な経験からの説明が随所に見られ、そういうことを先に話したくなったのだろうと思います。ただ、時間のない中での説明だと、散発的に何かを話しているように聞こえてしまった面があると思います。
これまでも討論番組に出ることは少なかったし、一方的に演説するのは得意でも、論戦という点ではまだまだ改善の余地があると思います。ただ、論戦後半には他候補やMCから厳しい質問が飛ぶ中でもある程度対応できていたと思います。選挙演説などで人の心を掴む稀有の不思議な能力はもともとある人なので(これはなかなか後から身に付かない)、あとは話す優先順位やより深い論理展開などを鍛えてほしいと思っています。
4.選挙戦の切り回しは適切だったか?(戦術)
4-1.世間の評価にどう対応したか
出馬会見でフリーランス記者の失礼な質問にうまく切り返して評価された瞬間、残念ながらあれが選挙戦ではピークであり、その後は上述の通り徐々に後退を強いられたのが事実だと思います。
序盤から出馬会見で目立ち、解雇規制見直しと選択的夫婦別姓が格好の攻撃材料になってしまったことをうまく切り返せずに、形勢逆転するに至らなかった。ここは陣営として未熟な面があったと思います。
両政策に関する説明書や動画を配布して正しく理解を得る、世の中の反応を見ながら政策の中身を徐々に詰めていく、一回と言わず二の矢三の矢で政策を放っていく、何らかの工夫があったのではないかと。愚直過ぎたのではと感じます。
また、特定候補支持者のごく一部からの執拗な誹謗中傷に対しても有効打を打てていなかったと思います。事実でないことが垂れ流されて事実として語られる、これで失った票がどれだけあったか。支持者を巻き込んだ泥試合に応戦しなかったのは素晴らしいが、品良くすることと無策であることは違う。これも陣営として公式に事実を伝える努力はすべきだった。
4-2.派閥との関係
まず菅前総理の支持を受けて出馬したこと、これは別に悪くないと思います。菅総理時代の最後に官邸を訪れて説得しに行ったくらい関係の近い大先輩に、支持して欲しいと頼むのは普通かと。
もし菅さんが近しい議員に指示して無理に進次郎に入れさせたとしたら間違いなく派閥の弊害ですが、それがあったかはわかりません。ただ、菅さんに近い議員票は数としては多くなく(10〜15票くらい?)、無派閥中心に推薦人を構成しながら各派閥から多数獲得した議員票のうちのごく一部。本当に派閥の力で勝つつもりなら、最初からもっと他派閥向けにやってたはず。多くの他候補は全員どこかの派閥に過去に所属しており、最初からそうした推薦人含めた議員票は見込めたことも考えると、菅さんの支援を求めてもやっと等条件程度で、誰を出し抜いたものでもないと思います。
一方、最終局面で、関係が近いわけでも政策が似てるわけでもない麻生元総理に支持を求めに行ったのは、間違いなく派閥に頼りましたね。無派閥と言ってきたことと違うと言われても仕方ない。
ただ、最後あと一歩のところで、派閥領袖に理念や政策を説明して、少なくとも敵に回さない努力をするのは、綺麗事ばかりでない権力闘争の中では理解はできる。きれいにやって負けるのか、最後まで手を尽くすのか、迷って現実策を取ったのでしょう。この報道を聞いた時、進次郎も政治家やってんなー、青臭いだけじゃないんだなーと思いました。
5.進次郎放送局的選挙総括
進次郎は負けるべくして負けました。また、なんとなくの人気で勝って総理になったりしなくて良かったとも思ってます。
出馬会見後の高揚感のままさすがに勝利まで行かないだろうと思いましたが、テーマ選定の研究不足、論戦での攻撃力不足、後退ムードを挽回出来なかった陣営としての作戦不足などでやはり敗北したわけです。
しかし、テーマを果敢に設定して1年でやり切ろうとした発想、全国で国民と対話して得た実経験、最後に派閥との対応で見せた動きなど、荒削りながら新しい意外な面も見せたと思います。
これまでなら出馬も出来ない年齢・当選回数での出馬ですから、勝てなくて当たり前、負けて失うものなし。決戦投票にも進めなかった3位は、今後諦めも過信もしない最高の結論だったと思います。
また何年かわかりませんが、政務や党務でしっかり国の為に汗を流す中で成長してもらい、これからに期待したいと思います。
(最後に)
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