犯罪者と呼ばれた日本ダービー馬クライムカイザー 〜名馬たちの記憶9〜
今から半世紀ほど前。
日本競馬界では、
トウショウボーイ
テンポイント
グリーングラス
それぞれの頭文字を取ってTTG3強世代と呼ばれた時代があった。
それぞれが、天馬・貴公子・緑の刺客と呼ばれ、この3頭がスターホースとして一時代を築いたことは競馬ファンのみならず、ご存じの方も多いはず。
そんなスターホースがゴール前を競い合う光景をファンは望んでいた。
また、実際に3頭が競うレースは、大いに盛り上がりを見せた。
しかし、
そんな3強に割って裂く馬がいた。
名をクライムカイザーといった。
彼は、全てのホースマンが目指し、競走馬にとっても一生に1度しか走れない。日本ダービーで、それをやってしまった。
今回はスターホースたちの間を割ったばかりに犯罪者(当然だが、決して犯罪者ではない)扱いされた、そんな彼の遠い記憶を振り返りたい。
彼の父は、イットーの父として知られているヴェンチアで現役時は名マイラーだった。
母はクインアズマ。母の父がシーフュリューという血統。
イットーがハギノカムイオーとハギノトップレディを出したことでヴェンチアは種牡馬として、また母の父として、それなりの実績を残した。
そんな父の血を受け継いだ彼は、レースには勝てないが、大負けもしない。
いわゆる、堅実馬として活躍を魅せた。
一方でテンポイントやトウショウボーイ。後のスターホースが台頭し始めるのである。
年が明け、彼は皐月賞までに重賞を3走し2勝する。
3つのうち唯一敗戦したレースは、テンポイントに軽く捻られる形で2着だった。
しかし、
重賞2勝2着1回の成績を挙げた彼も一躍、皐月賞の有力馬に取り上げられた。
ところが、
その皐月賞では、3戦無敗のトウショウボーイと5戦5勝でこちらも無敗のテンポイント。
世間は、当然この2頭の無敗対決に注目した。
それでもクライムカイザーは両馬の影に隠れるようにして3番人気に支持されたのである。
レースは、トウショウボーイがテンポイントに5馬身差を付けて圧勝。
4戦無敗の皐月賞馬となった。
天馬対貴公子
それは、ファンが期待する形となり、どちらが勝とうが皐月賞は大いに盛り上がりを見せた。
ちなみにクライムカイザーは、勝ったトウショウボーイから0.8秒遅れての5着だった。
もちろんファンは、次走の日本ダービーの焦点もトウショウボーイが勝って無敗の二冠馬になるか、それともテンポイントが皐月賞の雪辱を果たしダービー馬となるか。
世間の話題は、どちらが勝つかに絞られた。
さて、迎えた日本ダービー。
1番人気は無敗の皐月賞馬トウショウボーイ。
2番人気は、打倒トウショウボーイの1番手であるテンポイント。
クライムカイザーは皐月賞よりも1つ人気を落とした4番人気だった。
レースはスタートから押し出される格好でトウショウボーイが先頭に立った。それでも桁違いのスピードにて、逃げてレースを引っ張る形となる。
そして、
迎えた東京競馬場の長い最後の直線。
余裕の手応えで内ラチ沿いを走るトウショウボーイ。対して外から一気に馬体を合わせるクライムカイザー。
仕掛けどころを探っていたトウショウボーイが、馬体を合わされた瞬間、一瞬怯んだ。その隙を突いた彼が一気に先頭へと躍り出た。
実は、当時トウショウボーイは他馬に並ばれると一瞬怯んでしまうという弱点があったという。
それをトウショウボーイの主戦騎手が周囲に漏らしていた。
それを彼の主戦騎手が耳にしていた。反則にならなければ、相手の弱点を突くのも勝者になるための策。
怯んでしまったことにより緊張が解けたのか、トウショウボーイが体制を立て直す間、クライムカイザーが押し切った形で見事、日本ダービーを制した。
天馬に勝ったことで犯罪扱い。
最後の直線、失格ギリギリの強引な斜行。
無敗の皐月賞馬トウショウボーイを撃破した代償は予想以上に大きかった。
そして、
世間はクライムカイザーのことを犯罪者扱いする。
「犯罪皇帝(CrimeKaiser)」
しかし、
何を言われようとも列記としたダービー馬である。
今後、日本ダービー馬としてファンが納得するレースをすれば何の問題もない。
それによって、犯罪者の汚名も返上出来るだろう。
ところが、この日本ダービー以降、彼に勝利の女神が微笑むことは1度もなかった。
世代で1番運があった彼は、まさにダービーを勝つために生まれてきたと言っても過言ではない。
ましてや、倒した相手が相手である。
半世紀近く経った今でも語られるTTG世代の頂点に立った馬。
その事実は誰にも覆すことの出来ない。
そして、
トウショウボーイ
テンポイント
グリーングラス
この希代のスターホースたちの争った世代が語り継がれる限り、
この年のダービー馬は?
との質問に彼の名は、永遠に消えることはないだろう。
クライムカイザー
父ヴェンチア
母クインアズマ
母の父シーフュリュー
21戦5勝
主な勝鞍 日本ダービー
如何でしたでしょうか?
今回は、昭和の一時代を築いたTTG時代のダービー馬を取り上げました。
現役時に疾走したクライムカイザーの姿を目にしたことはありませんが、
それでもトウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスといった日本競馬史に永遠と輝くスターホースの中でダービー馬となった名馬を書きたいと思った次第です。
今後も色々な名馬の記憶を辿る記事を残していきたいと思っています。
皆さん、引き続き『名馬たちの記憶』と併せて『記憶に残る名馬たち』シリーズも宜しくお願いします!