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【妖怪百科】ろくろ首

 ろくろ首は寝ている時に首が伸びるというが、私は違う気がする。伸ばそうと思ったときににゅっと伸ばせる者は相当な熟練者に違いない。まだまだろくろ首として熟練の域に達していない者は、いつ首が伸びるのか?
 私は、一定以上集中している時、無意識に伸びてしまう説を提案したい。一定以上の集中状態とはいかなる状態か? 人(?)は集中ゾーンに入ると、みずからの身体性を失う。アスリートや、音楽家は誰しも体験したことがあるのではないだろうか。何も考えることなく、自分の意思が働いているのか曖昧な状態で、体は自然に動きゴールを決めたり、難解な運指を刻々とこなしていく。その時自分の意思は、どこか身体から離れている。そう言った状態の時、きっと首が伸びる。
 という、独自のろくろ理論から導き出されたのが、この絵となる。女が三味線を弾いている。おそらく、初め首は伸びていなかったのだろう。三味線の演奏が深まる中で、徐々に集中状態となり、意識が体を離れていく。手は動かそうとしなくても、修練を積んだ手は曲を自然と弾いていく。「ああ、気持ちいい」と悦に入った時、首がニョキニョキと伸び始める。恐らく女は、「いつもと視野が違うわね」くらいにしか思わず、まさか自分の首が伸びていようとは。

 小泉八雲の怪談を読むと、ろくろ首は完全に体から首が離れる、幽体離脱系の妖怪として描かれている。こちらのタイプは中国から輸入されたろくろ首で、歴史も古い。類似したものが、ペナンガランなども含め中華圏を中心とし東アジアに点在している。しかしながら、個人的にはどうしても江戸の見世物として確立した、首がニョキニョキ伸びるタイプのろくろ首が好きだ。そういえば、幼少の頃読んだおばけの本で、ろくろ首の「ろく」を数字として捉え、より長いものをはちろくび、短いものはごろ首、よんろ首などと呼ぶといった説明がなされていたが、あの説はいったいどこへいったのだろうか。

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