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【妖怪百科】小豆洗い


 小豆研ぎましょか? 人とって食いましょか? ショキショキ…
 幼少の頃よりこのフレーズがとにかく好きだった。小豆を研ぐことと、人をとって食うことが等価として比較検討されている。そして、ショキショキと聞こえるということはすでに小豆を洗い始めている。彼は小豆を研ぐか人を食うか検討しているのではなく、「今私は小豆を研ぐと決定し、それを実行しているが、実は人をとって食う実力があり、今回たまたまそれを選択しなかっただけで、今そこで聞いているオマエ、本当は人を食うことを選んでいたかも知れず、その場合はオマエが餌食になったわけで、なかなか運のいいやつだな! 次は私の気分次第でどうなるかわからんぞ!  」という、脅しの気持ちが込められていると思われる。
 しかし、実際に小豆洗いが人を食う性質の凶悪な妖怪として語られることは少なく、人をとって食うなんてできないくせに、ビビらせるために去勢を張っているとも考えられる。そう考えるとなかなか憎めないやつだ。ただし、小豆洗いに遭遇し、焦った人が足を滑らせ川に落ちて死ぬという言い伝えはあり、害がないわけではない。
 妖怪の話では多いのだが、小豆洗いは「音だけが聞こえ、その姿を誰も見たことがない」類に属している。だが、小豆洗いは全国に伝承があり、姿は竹原春泉から水木しげるへと受け継がれ、もう今の日本で小豆洗いといえばこの姿が定着している。誰も姿を見たことがないので、もしかすると、小豆洗いは美少年かも知れないし、大きな髪がふさふさの男である可能性もある。しかし、山でたとえその大男が例のフレーズを口ずさんでいても、見た人は「小豆洗いの真似をしている大きな爺さんがいる」と言うふうに理解してしまうだろう。もう、小豆洗いは、小さく、禿頭で、大きな目、修験道の衣装をきていなくてはならないのだ。本人にとって幸か不幸かはわからないが、この姿のお陰で多くの人に広く、長く愛されていることは事実だろう。

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