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【妖怪百科】手の目
手の目は一言でいうと盗賊に殺された盲人の幽霊である。江戸時代を現代と比較すると、痘瘡や麻疹などの熱病、ビタミンAの不足、医療の問題があり目にまつわる病は圧倒的に多かったと予測される。その中で視力を失うものも現代より多かったと考えられる。江戸時代の盲人の仕事として、針やあん摩、琴や琵琶の演奏が主だったものだと考えられる。政府公認で金貸し業を営んでもいたようだ。
こういった時代背景の中で、手の目なる妖怪は現代とは違うリアリティーを持っていたのだろう。
特に手の目と関連があるわけではないが、泥田坊においても、その登場の背景には貧困という問題が見え隠れする。平安時代の貴族や、戦国時代における武士、江戸時代の町人文化や侍など一見華々しく見える日本の歴史であるが、多数の国民においては、貧困や不自由さや今の社会では考えられないような闇を抱えている。そういった闇は葬られた部分もあれど、史実として残っているものも多くあり、我々はそれらを断片的にであれ学んできた。しかしながら、史実としてではなく、時代の闇を体現する形で生まれてくる妖怪がいる。妖怪そのもののメッセージではなく、その妖怪を取り巻く背景から受け取ることができるメッセージがある。個人的な恨みを起因とする妖怪や、英雄譚を成立させる要素としての妖怪ではなく、時代の闇が生み出した妖怪といえよう。時として目を背けたくなる時代の不条理の岸辺から、「私たちを忘れるな」とでも言っているかのようだ。
無論、手の目がそう言ったメッセージを一身に背負っている妖怪といわけではない。あくまでも手に目がある妖怪だ。ススキ野原に現れることもあり、前に突き出した目のある手と、ススキの垂れ具合が素晴らしいコントラストを描き出しており、なんとも素晴らしいデザインの妖怪であることは確かだ。
手の目の形状の面白さに見惚れるもよし、その背景にある時代の闇を除いてみるもよし、長い時間何世代にも渡り語り継がれてきた妖怪の楽しみ方は奥深い。
あなたは手の目から、何を覚えただろうか。