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【妖怪百科】枕返し

 朝起きると頭と足が逆さになっており、枕もあらぬところに転がっていることがある。これは枕返しの仕業に違いない。あなたが寝ている間に、上下逆さまに動かされたのだ。
 ここまでであると、単なるいたずら妖怪である。しかし枕返しについては諸説ある。夢の世界に魂を引き摺り込み、現世に帰れないようにする。魂を引きずられた者は生きてはいるものの二度と目を覚まさないだろう。これは、夢を見るという事は魂が体から抜け出して、異界に行っていると解釈していた古き日本の考え方から導き出されたのだろう。さらには、宿で殺された男の怨念であると言った説もあるが、少しこじつけのような感じもする。
 眠っている間の出来事なので、枕返しの姿は見ることができないのだが、小さな仁王の姿が定番化している。
 たまに田舎の宿の和室になど泊まる時、なんとなく暗くじめっとして怖い雰囲気がする。闇も都会のそれと比べると深いような気がするし、木造の家屋は家鳴りもうるさい。そんな闇の中からにゅるっと手が伸び枕をぐっと掴まれたらと思うとさらに恐ろしさは増してくる。どこか闇に紛れ枕を返す瞬間を、枕返しが伺っているような気配がしてくるというものだ。そんな時は、枕を奪われないように、しっかりと枕を抱えて眠ったりする。
 江戸の昔、特に侍はきちんとした寝相を保ち、不審なものの気配を感じるといつでも枕元の刀を手に取り応戦できるように眠っていたのではないかと思う。そのような武士が朝起きるとひどい寝返りで逆さまになっていたとしたら。「これは枕返しの仕業だな」と、ひとりごちる姿が目に浮かぶようだ。
 何はともあれ、眠りの後はしっかり現世に目覚めたいものだ。


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