【妖怪百科】二口女
二口女なんかを見ていると、江戸の絵師が妖怪を作り上げていく欲望がなんとなくわかる。後付けっぽい、さもありなんといった逸話はあるが、どうも一部の妖怪は絵師たちの化け物を描きたいという欲望が先行しているように思う。手の目や豆腐小僧も同様の妖怪だろう。
妖怪というものは、縁や因果を結ばずとも、なんとなく存在してしまうものだが、なぜなんとなくの存在が許されたのかという原因に絵が先行して存在したからと言えなくもない。姿は誰も見たことがないという逸話から妖怪が生まれるんだもの、逸話はないが姿がある状態から生まれても不思議はない。
それはさておき私は結構二口女が好きだ。逸話はともかく、デザインが良い。一つ目や三つ目のように、目が増やしたり減らすデザインは容易い。鼻を増やすのはなんだかカッコ悪い。口を増やすのも難しいのだが、二口女のデザインにおいては、髪の毛を使い実に美しいデザインとなっている。そして何よりエロティックなのだ。二口男だとグロテスクに感じる。恐らく二つ目の口がどことなく女性の性器を連想させることと関係しているだろう。いささか虚勢コンプレックスの男性目線とはなるが、ヴァギナ・デンタタのようなイメージを二口女は内在しているといえよう。しかし、そこは流石江戸の絵師たち、あからさまな恐怖表現ではなく、美しさの中になんとなく不気味さを漂わす見事なデザインに仕上げている。無論フロイト登場以前の江戸時代において、そういった深層心理に対するアプローチなんていうつもりはなかっただろうが、江戸妖怪が持つ特有のエロスはこういった分析にも耐えうるデザインである事は間違いない。
妖怪とエロスの結びつけに唐突さを感じる方もいるかと思うが、私は妖怪とエロスの結びつきについて興味がある。澁澤龍彦を読み耽っていた学生時代にはうまく結びつける事はできなかったのだが、最近妖怪画を描く進めるにつれ、妖怪というものは官能的だと感じる。まだ体系立てて妖怪とエロスを論じるには自らの論理の整理がついていないが、このテーマを深く掘り下げていくことで、妖怪というものが持つ魅力をより一層理解できるのではないかと考えている。
動画においては、江戸の男性社会における女性の食欲という観点においてテキストをしたためたが、エロスという視点で見てみるのも楽しいのではないかと思う。