(音楽)トムウェイツが好き
トムウェイツとの出会いは、デビッドボウイがアンディーウォーホル役を名演している映画「バスキア」の挿入歌だった。アンディーウォーホルの死を知り、バスキアがビデオを観ながら悲しむシーンだっただろうか。記憶は定かではない。この映画は、ジョンケイルのカバーする「ハレルヤ(Hallelujah)」も感動的だった。
トムの話に戻そう。まずは声。ハスキーボイスという表現では間に合わないダミ声。もはや歌が上手い下手という領域にない声。独特の英語の発音。喉に残るビブラート。次に楽曲。フォーク、ブルース、ジャズ、ロック、アメリカのポピュラーミュージックを凝縮しながらも、素直なコード進行。ピアノ、ギターの弾き語りから、バンドサウンド、なんだかよくわからない民族音楽っぽいものから、サイケデリックなアレンジまで変化自在のスタイであるが、歌い始めるとトムの世界観にまとまっていく。総じて胡散臭い。そして、最後に歌詞に魅入られたらもうトムウェイツ中毒になっていることだろう。
何度この声に憧れ、トムウェイツになろうと歌ったことだろう。圧倒的に私の声はか細く、曲の途中でゴホゴホとむせて話にならないのが関の山だ。歌だけでは飽き足らず、ブッシュミルズを飲み、バーで酔い潰れる日々を繰り返す。そんなことをやっていても彼のように曲は書けない。私はトムウェイツではない。そう気づくまでに数年費やした気がする。あの胡散臭さ、虚構性をほんの少しだけ手に入れた気もする。そういった思い込みが音楽の動機なのかもしれない。現在自分の作る音楽はトムからかけ離れてはいるのだが。
トムウェイツのファンはミュージシャンにも多く、本当に数多くのカバーがある。先日紹介したチャーリヘイデンの娘ペトラヘイデンが、ビルフリーゼルとのデュオアルバムでカバーしていたり、大橋トリオがライブでカバーをしていたり、軽く記憶を巡らせるだけでもすぐに思いつく。ホリーコールは、全曲トムウェイツのカバーアルバムを作成している。どのカバーも素晴らしく、トムウェイツの楽曲の素晴らしさは余すことなく表現されているのだが、あの質感、胡散臭さはなかなか難しいようだ。虚構に満ちたトムの世界をもう一曲聞きながら終わりにしよう。次回はトムがその歌詞、世界観において深く影響を受けたとされる小説家、チャールズブコフスキーについて書ければと思う。