渋谷の南 2024 夏
Summary
JR渋谷駅新南口が2024年7月21日に移転し、7月25日には渋谷サクラステージが本格開業する。渋谷の南側の利便性が高まり、注目が集まって今後どう変化していくのかが楽しみだ。
長年渋谷を訪れて、思い入れを強めていったことを我ながら不思議に思いつつ、今回の変化を受けて改めて「渋谷のイメージ」の多様性について思いを馳せながら、新しい街の姿を楽しみたい、と思ったことをいろいろ書き連ねてみる。
新しいゲートの話
2024年7月21日(日)より、JR渋谷駅の新南口改札が移転する。
現行の新南口は1996年の埼京線延伸時以来使われている改札だ。山手貨物線(埼京線・湘南新宿ライン)渋谷駅ホームが2022年に山手線ホームと並列して以降も営業し続けてきたが、いよいよその役割を終えようとしている。
渋谷の南側
私の渋谷との縁は話し始めるととても長くなるので今回は割愛するが、埼京線延伸開業で造られた渋谷駅ホームは高校・大学時代にかなり頻繁に使った思い出深い場所のひとつである。山手線ホームに向かう動く歩道も幾度となく通った。歩道の途中に書店スタンドがあったこともよく覚えている。
新南口はハチ公やスクランブル交差点といった中心部から離れた場所にあり、穴場のような感じで使いこなしている。並木橋交差点付近のらーめん山頭火やうどん店、定食屋など気軽に使える飲食店からも程近いほか、スターバックスコーヒー渋谷二丁目店は渋谷の中で比較的落ち着いた店舗なので、急遽PC作業がしたい時によく立ち寄っていた。
新南口を出て程近い場所には独特の匂いのする渋谷川が流れており、東急東横線が地上を走っていた時代には川沿いの効果を東横線が往来していた。高架橋の上を8両編成の東横線が往来する姿を見上げるのが私は好きだった。
そんな渋谷の南側の改札が無くなるという話だが、改札が消えても渋谷サクラステージの南方から東西をつなぐ歩道橋が引き続き使えるほか、渋谷ストリームの南方が十分整備されていて今でもよく通る場所なので、私自身は渋谷の南側からは縁遠くなるとは全く思っていない。
むしろ、2024年から供用開始された渋谷ストリーム・渋谷サクラステージ間の歩道橋と、今回オープンする新南口改札によって、渋谷の南側の回遊性が高まり、南側をぶらぶら散歩するには良いきっかけになるように思う。
例えば、ストリーム・サクラステージのいずれかを南方、恵比寿方面に向かい、並木橋周辺でランチをとり、その先の金王八幡や氷川神社といった周縁地域にも足を伸ばしてから再びストリーム・サクラステージまで戻ってくるような回遊で素敵な午後が過ごせると思う。
改良湯のサウナで汗を流したり、白根記念渋谷区立郷土博物館・文学館や國學院大学博物館で学ぶのも、好きな人にはササると思う。スピーディーに移動するならLoopを使うのもアリだ。
脚力があれば代官山や恵比寿へ到達して、カフェでも飲み屋でも好きに楽しむという流れも大いにアリだ。。。と、ここまでくるともはや渋谷を超えた地域になるが。
ともあれ、公園通りやセンター街ばかりが渋谷ではないし、最近でこそ「奥渋」と呼ばれる松濤・富ヶ谷サイドも注目されているが、今回のJR新南口開業で渋谷の南側にも注目され、面白がってくれる人が増えると渋谷の人の流れも分散して良いのではないかと思う。
桜丘について
渋谷の南西側、桜丘のエリアは個人的には渋谷の中でもあまり多頻度で足を運んだことのない場所だ。ビルが立ち並ぶ雑然とした場所という印象しかなく、散歩で渋谷から代官山に歩いた際にちょっと通ったくらいの場所だ。
それがいつしか「桜丘地区再開発」といった話が出てきて、ビル群をつぶして大型ビルをドンっと建てることになると聞いて「夢みたいな話だな」という浅い感想を持った記憶はある。
再開発着手前に桜丘エリアにあった「いきなりステーキ」をランチ時に使い、店を出て池辺楽器などの楽器店が多いことに気づいた、なんてこともあった。
著名な富士屋本店は一度使ったどうか、という感じで、鮮明な記憶がない。(たぶん記憶がなくなる位に心地よく飲みすぎていたのだと思うが)
再開発が始まるとビル群がたちまち消えてクレーンが立ち並ぶ光景が現れた。クレーンの博覧会のようだ、とSNSで囃されたのも今となってはいい思い出だ。視界を遮るものがなくなったので、246沿いの歩道橋からJRの線路を眺めると、恵比寿からやってくる山手線の編成全体が見渡せた。
工事期間中だけしか見られない景色を楽しむ、という「ライブ感」を満喫できる点が個人的に感じる渋谷の魅力の一つなのだが、桜丘のクレーン群と広大な眺めは楽しめた景色のひとつである。
いつしか「桜丘地区再開発」のビル名称が「渋谷サクラステージ」と決まり、2023年11月にはビルが竣工した。
当時は「ハコはできたが中身はこれから」という状態で、昨今の再開発ビルのオープンの流れとしては個人的には珍しく感じた。2023年11月からの7-8ヶ月ものインターバル期間を置いて、2024年7月25日にようやく「まちびらき」と相成る訳で、この”焦らしっぷり”が他にないように思えた。
「渋谷に大型書店を」の夢
特に、2023年1月に東急本店の丸善ジュンク堂が閉店してしまい、大型書店が渋谷から消えてしまって以降「渋谷の大型書店ロス」が個人的には半端なく、サクラステージくらいの大きなハコに大型書店が入ってくれたら良いのに、と期待していた。
ちなみに東急本店の丸善ジュンク堂閉店時にはアツい惜別メッセージを残して閉店を心から惜しんだ。今でもあの広大なフロアで見知らぬ本との出会いにワクワクしながら店内を闊歩していた頃を思い出す。
まぁ、丸善ジュンク堂がなくても渋谷には啓文堂、紀伊国屋書店、大盛堂、TSUTAYA BOOK STOREがあるじゃないか、というツッコミもあると思う。
それでも私には丸善・ジュンク堂クラスの「ザ・書店」でないと物足りない。
そんな「渋谷の大型書店ロス」の最中、サクラステージに「大型書店が登場!」というニュースが入る。何が入るのか、東急不動産のニュースリリースを追うと、入る書店はTSUTAYA BOOK STOREとのこと。
残念、(TSUTAYAさんには申し訳ないが)「ザ・書店」ではなかったか。。。
ただ、東急不動産とCCCとが協定を結んでいる関係で、サクラステージに入る書店はCCCのTSUTAYA BOOK STOREになったという結論かと思う。
私などはいち来街者でしかないので、何を言っても詮なき事。ひとまずは、大型書店がサクラステージに入ってくれるだけでもありがたいので、オープンを楽しみにしたい。
街の変化に私が思うこと
都市の再開発に関しては常に賛否両論がつきもので、宮下公園の改築の時はジェントリフィケーションといった考えを用いて批判的に考察する見方などもあったことは承知をしている。
渋谷桜丘エリアの再開発でも、恐らく表に出ていない所で様々なチャレンジがあったのではないかと推察する。
都市という公共財の在り方については立場によって意見が様々あることは自然なことと思う。
都市のマネジメントに際しては、自治体もDeveloperも、できるだけ多様なステークホルダーの声を聞くことを旨としていると思われる。とは言え、街をより良く変えていく上で決めるべき場面では、リーダーシップを取れる責任と役割を担う者がしっかり意思決定し、推進する必要がある。
個人的には「何が何でも反対、許せない」みたいな万年野党的思考は相容れないが、共感の得られない言説は主流になりづらいので、合理的な落とし所に落ち着いて今の街があるのではないか。
まちづくりの結果、もたらされる便益の評価はステークホルダーによってevidence-basedで科学的に実施し、スパイラルアップしていくと思われる。
少なくとも、私のような都市経営に関して門外漢の人間が「それっぽいこと」を述べたとて、何も変えられないと思う。
それでも、いち利用者の目線で自分の好きに感じたまま、街への想いを綴るのは許容されるだろう、と思って、いま渋谷の街で徒然なる想いを綴っている。
多様な「渋谷」のイメージ
「渋谷」には多様なステークホルダーが集まる。在住者、通勤通学者、来街者、自治体、事業者等々。
もちろん、新宿でも丸の内・大手町・有楽町でも、多様なステークホルダーが集まっていると思うが、いま例示した街の「多様」とは少し異なる、渋谷ならではの「多様」があるように思う。
この感覚は、渋谷に幾度となく来て、なんとなくそう思う、という話で、科学的に説明のつくアイディアではないと思っている。しかし、こうした情緒的な街の考察も、人間味があって良いのではないか。(という自己正当化をしている次第。)
そんな、渋谷ならではの多様さは、多くの人が語る「私が渋谷に抱くイメージ」の多様さにもつながると思う。
「若者の街」という枕詞が令和の今ではそぐわない、と思う人も居るし、「渋谷系(音楽)」というのも遠い過去の話になりつつある。
「ビットバレー」という呼称もそのうち「E電」並にネタにされる時代が来るのだろうか。
オフィスビルが増えて丸の内・大手町並みになってきた、という見方もあれば、円山町のような淫靡な空気も間違いなく「渋谷」だ、と思う人も居るだろう。
何より、一般的には雑然として人が多すぎる渋谷の雰囲気や、来る度に動線や景色がドラスティックに変わる渋谷の変化を嫌う人も少なくないように思う。
私は多様なイメージがあっても良いと思っていて、むしろ一概に街のイメージを単一に定義できないところに渋谷の面白さがあると私は思う。
かく言う私も、渋谷に抱くイメージは未だに容易に言語化ができない。
「若者の街」でもないし、オフィス街とも違うし、買い物には便利だが「何かが足りない」とも感じるし、とは言え裏道には見知らぬ発見が転がっているし、何と言っても渋谷駅改良工事・再開発で変化する街そのものはいつ見ても楽しい。
何なら、「上物」を取り除いて純粋に渋谷の地形そのものに興味を抱くと、ビルや商業施設といった”ソフトウェア”の変化に関わらず、自然地理・人文地理の観点で渋谷という土地そのものの興味が尽きず、ずっと飽きることがない。(地理好きという私の特性に依る考えなので、一般的な見方ではないと思うが)
ただ一つ確実に言えることは、幼い頃から「来街者」の立場で幾度となく渋谷に触れてきた私としては、不思議なほどに渋谷への思い入れが強い、ということだ。
渋谷で生まれ育った訳ではない自分が、渋谷からそう遠くない場所で暮らしながら適度な距離感で渋谷に親しみ、その蓄積が渋谷への思い入れを増幅させていった。
かつて私が住んでいた場所に近い池袋や、通学時によく通った新宿、今となっては勤務地や新幹線乗車時によく使う東京駅周辺とは全く異なる思い入れの強さが、渋谷にはある。
なぜそうなのか、という話は、何か機会があれば書き残しておこうかと思うので今回は割愛する。
百人百様の思いが集まる渋谷で、馴染みの景色が消えると共に、今までと違う彩りが加わって、新しい当たり前が始まる。
安定よりも変化が好きな私には、こんな街のダイナミズムの中に飛び込んで泳ぐことも楽しい。
渋谷の南側の「新しい当たり前」がどんな風景を映し出し、如何なる物語を綴っていくのか。楽しみたい。