ベトナムで脱炭素化によるビジネスのチャンスはあるのか.
〇脱炭素化に向けて動き出しているベトナム
ベトナム政府は脱炭素に向けた方針を明確に打ち出している。2021年11月のCOP26ではベトナムの代表として参加していたファム・ミン・チン首相が「2050年までに温室効果月の排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする」と宣言した。これを受けて政府は第8次国家電力開発マスタープラン(PDP8)原案を見直すことにした。著者はまだ詳細を確認していないが2022年4月版の草案では脱炭素化がさらに加速する内容となっている。
脱炭素の内容については欧州にはもちろん及ばない。ようやく日本でも2020年から2021年にかけて脱炭素がキーワードになり、日本政府も欧州のルールがデファクトスタンダード化するのを警戒して2022年4月には経済産業省が「GXリーグ基本構想」なるものを立ち上げた。欧州ではウクライナ情勢でやや混乱しているものの炭素税など関連する法律が何年も議論されている。それにくらべれば日本の対応は遅い。ベトナムのような一人当たりGDPがようやく約3,500ドル(2020、IMFデータ)に達した国であればなおさら遅い。
しかし、ASEAN国内に限っていえば、ベトナムは比較的政府として脱炭素に向けた方針を早めに打ち出している国である。ASEANではシンガポール、タイ、インドネシアが先行してGHG削減計画を発表(2050年から後半にかけてネットゼロ)、ベトナムもCOP26で2050年までにカーボンニュートラルを実現することを発表した。遅れてカンボジアやラオスも2050年までにはネットゼロを実現すると発表している。フィリピンはまだ明確な計画の発表はない。
〇ASEANでは再生可能エネルギーの優等生
2022年5月のJETRO資料では、ベトナムの水力を含めた再生可能エネルギーの割合(設備容量ベース)は55.5%に達している。これだけ再生可能エネルギーの比率が高い理由は水力発電が多い点が挙げられるだろう。ベトナム・カンボジア・ラオスでは水力発電の電源構成比が約3-4割以上と高く、ベトナムでも2020年の電源構成比で水力は30%に達している。これはチベットから中国、ラオス/ビルマの国境、ラオス/タイの国境、ラオス、タイを経由して豊富なメコン河がベトナムに流入しているからである。ベトナムにはその豊富な水を利用した水力発電が6,700か所あるといわれる(ただし、貯水量が10億㎥の大規模なものは20か所程度しかない)。
他では、太陽光発電が高い日照量とFIT制度などで政府が奨励してきた成果もあり,
2020年の電源構成比で24%を占めている。これは2020年の設備容量ベースでいうと太陽光発電だけで約16,504MWにも達し、ASEANでは最大、世界でも第8位にランクされている。風力発電は同0.75%と非常に低いが、ベトナムではこれらに力を入れていく方針で、まだまだ発展していく余地がある。
〇民間でも脱炭素に関連した投資は進んでいる
最近ではJFEエンジニアリングが環境省の「二国間クレジット制度資金支援事業」を利用して北部のバクニン省で廃棄物発電をベトナムのリサイクル企業と合弁で立ち上げることが決まっている。他にも日系企業をはじめ脱炭素関連で大規模な案件も多い。
ベトナム企業で上げるとすれば、ベトナム大手コングロマリットのビングループの子会社ビンファスト(VinFast)がEV車の製造・販売を始めたことだろう。ビンファスト(VinFast)は2017年にベトナム国内で自動車生産をすることを発表し、2019年からエンジン自動車を販売、そして、2022年8月末までにはガソリン車の引き渡しを完了したあとはガソリン車の製造を中止し、100%EV車に切り替えを発表した。発表から2年ほどで自動車生産を開始したのもすごいが、製造を始めてから3年足らずで早々とEV車に切り替えるそのスピード感は驚く。それだけでなく2024年にはアメリカのノースカロライナ州でEV車の生産を始めることを発表し約2700億円の投資を発表しバイデン政権を喜ばせている。また、ビングループのビンES(VinES)は200億円を投資してベトナム国内にバッテリーパックを製造する工場の建設に2020年12月から着工している。同時に全個体電池を開発する台湾のプロロジウムに出資するなどEV車に製造に向けたいろんな布石を打っている。
〇政府の動きには引き続き注視が必要になる
ベトナム政府が民間企業の投資を促す政策として既に実施していることはFIT制度と税制上の優遇措置である。後者は脱炭素に限らず外資の呼び込みのためにいろんな制度があるので脱炭素に限って言えばFIT制度になる。カーボンプライシングなどは今後の課題として議論されており、まだまだ時間がかかるであろう。
ベトナムの政策で注意しなければならないのは、法律の急な実施や変更があることである。ここのFIT制度であるが、ベトナム電力グループ(EVN)の送電線に接続し商業ベースにつながった時期により制度採用の可否が決まるため、2022年1月の時点ではすでに太陽光発電及び風力発電のFIT制度価格は正式にまだ決まっていない状況である。また、関係者に聞いたところではEVN側には電力の買い取り義務がないため、投資にはリスクが伴う。
また、政府の方針が決定しても、その法律の落とし込みをした細かな法律やルールが決まらず全く実行されないケースもある。「ベトナムあるある」であるが、今後どのような法律が制定され施行されていくか注目していく必要があるだろう。
〇リスクは多いが変化のあるところにチャンスはある
当然だがリスクのあるところにチャンスがある。ベトナムは良い例だ。廃棄物発電の例でいえば、ベトナムでは一般廃棄物の処分費用が日本の10分の1以下であるため、利益を出すのはなかなか難しい。廃棄物を回収するにもいろんなローカルルールがあり日本のように上手くはいかない。ビンファスト(VinFast)の自動車事業は当然であるが約1,400億円(2021年12月、税引き後利益)の赤字であり、ビングループの本業である不動産が同約2,400億円稼ぐことで何とかなっている。先行している企業はいろんなリスクを負いつつ、チャレンジしている状況である。
とはいえ、日本に比べれば、東南アジア、特にベトナムはチャンスに満ちている。脱炭素の動きは今後も大きな変化をもたらしいろんなチャンスを提供してくれるので引き続き注目していきたい。
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