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具体的な経験の裏付けがないと、浅い

経営者という職業を15年もやっていると、大抵のトラブルは経験済みです。

対処方法もすぐに分かりますし、何よりその前に「あ、これはやばそうだな」と直感が働くので、事前にトラブルを回避できるようになります。

顧客クレーム、従業員トラブル、怪しい紹介者、競合の参入、赤字・黒字、システムトラブルから、セクハラ、パワハラ、横領、特別背任、暴行、訴訟、ヤクザ、街宣車、産業スパイ、史上最大級の倒産に至るまで、思いつくものは一通り経験してきたので、完全なサプライズということは、もはや滅多にありません。

経営者としてのデータベース(DB)にトラブル関連データが大量に蓄積されているので、過去のDBを参照すれば「あの時と似ているな。だからこうしよう」と瞬時に回避策まで思い浮かびます。

この具体的な経験の裏付けがあるとないので、経営者としての迫力が全く変わってきます。

たとえばM&Aの結果、新しい株主が登場した時。

買収したことも、されたことも何度もある自分は、買う方、買われた方がどう思い、どう行動するのか、瞬時に我が事として理解できます。

なぜなら、実際に過去に「我が事」だったからです。

そのような経験があると、例えば「これはあのパターンだな、必ず失敗するな」ということも一瞬で分かります。

自分が最終決定者であればすぐに対応して失敗を未然に防ぎますが、そうでない場合は関係者に忠告することしかできません。ただ、同じ経験をしたことのない人には、その忠告は理解の範疇を超えてしまいます。

結果、聞き入れられないことも多く、その場合、予想通りの経緯を辿って予想通りの失敗で終わってしまいます。

失敗を回避する「方法」自体は簡単に教えることができますが、本当に大事なのは方法論ではないのです。大事なのは、自身の経験。アドバイザーやコンサルとしての経験も有用ではありますが、何よりもモノを言うのは当事者としての経験。これに尽きます。

当事者としての経験の裏付けがないと、深い部分で理解できていないので、方法論を教わってもそれを貫徹することができません。また何が最重要ポイントなのかも腹落ちしていないので、メッセージがちぐはぐになってしまいます。

結果、ある人に聞かれた時はAと答え、別の人に聞かれた時はBと答えてしまう。嘘をついているつもりはなのでしょうが、自身の経験の裏打ちがないので、聞かれ方一つで答えがブレてしまうのです。

例えば、「買収後、会社の情報システムは(人事制度は、オフィスは・・・)変わりますか?」というシンプルな答えに、一貫した回答を出すことができません。

結果、バラバラな答えが従業員に伝わり、「全然分からない」と混乱するか、「このトップは相手によって言うことを変える嘘つきである」という判断を下され、二度と従業員に信頼されなくなります。

経験豊富なプロマネは事前に全ての落とし穴を見抜き、それらを全て回避してプロジェクトを成功に導くことができますが、彼らがそれをできるのは、実際に全ての穴に落ちたことがあるからです。

一方、M&Aや事業再生といったコーポレートイベントは、通常のプロジェクトと違い、普通の人はなかなか経験することができないので、全ての穴に落ちる前に死んでしまうか、定年になってしまう、という違いがありますが・・・。


別の状況では、こんなことがありました。

今までと全く違う新しい戦略を打ち出そう、という状況です。

自分は似たようなパターンを数種類経験しているので、このような業態のこのような社風であれば、このようなやり方、メッセージにした上で、おそらくこの辺の人たちが不満を持って暴れるだろうから、彼らを仲間に引き入れるために、このタイミングでこれをしよう、その時の最大リスクはこれだろうな、という流れが、すらすらと浮かびます。

自身が構築した「Look-alike model」に投入できる過去データが、大量にあるからです。

一方、データモジュールがなく、フィードするデータもない人がやろうとすると、どうなるか。

「自分は、これからの10年をこの戦略に賭けると決めた!」あるいは「とにかく付いてきて欲しい!」というような情緒的で中身のないメッセージを発するだけで終わってしまいます。具体的な施策が思い浮かばないので、どうしても言うことが薄っぺらくなります。

新戦略がみんなにどう捉えられるか、どのようなハレーションが起きるのか、それをどう克服するのか、そもそもなぜその新戦略が必要なのか、自分は何を犠牲に(どんなpoitlical capitalを犠牲にして)それを実現するのか--。

これらを自分の頭で考えておらず、「Look-alike」の状況も過去に経験していないので、答えが出せない。結果、「えいや」でバンザイ突撃し、玉砕します。

誰もが初日から経験がある訳ではないですし、地位が人を作るのも事実なので、リーダーとしての経験がない人間は絶対にトップに抜擢すべきでない、とまでは言いません。

ただ、せめて新たに抜擢されたリーダーは自身の経験のなさを自覚し、データテーブルの中身がスカスカであることは認めないと、自身の下す判断の危うさを認めることができません。

どんな思想であれ、なぜそれを持つに至ったのか、ヒリヒリするような具体的な経験がないと、どうしても誰かの受け売りになります。

自身の経験に基づかないもの、誰かの受け売りの言葉はどこまでいっても薄っぺらで、到底人を動かすことはできないと、自分は確信しています。

#くじらキャピタル #人を幸せにする資本 #世界を素敵な会社で埋め尽くす

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