脳を裸に
うひひひひ、すげーよ。次から次へと言葉が沸いてくる。朝目覚めたときの俺の目尻についたヤニ、すなわち目脂のように言葉が沸いて瘡蓋のように固まって文章となる。うひひひひ、こりゃたまらんな。俺は言葉の魔術師か!とか声に出して言ってみるのだ。
虚しい。悲しい。いや、寂しいのか?俺にそんな能力などありはしない。そもそもが俺の視力はマイナス二・二なのだ。でもそれは関係ない。言葉の魔術師だなんて、そんなことはケツが裂けても言えない。言えない。相応しい言葉が全くもって見つからないのだ。
んん!んん!喉がイガイガする。咳が止まらない。のど飴を飲み込んだ。失敗だ。飲み込んではいけない。のど飴は舌の上で舐め舐め転がさなくてはいけない。ぐぁさっ!と声に出して言ってみろよ!いけないわっダメよ!そんなこと言っちゃ。でも「!」のマークを出そうとして失敗して「1」とか書いちゃダメよ。でも一回だけならいいわよ。その代わり乳首はおあずけね。だったら乳首だけでもいいってか2。2って何だよ。
意味がわからんことでもいいから言葉をどんどん出せ。言葉を吐き出せ。そしてちょうど良さげなところでセーブ・保存しろ。おまえのやっていることは威力業務妨害だぞ。というか実際にはセルフ威力業務妨害だ。妨害ダンス。寒すぎて勃起するのは左右の乳首。勃起。勃興。大きなイチモツをください。仕事の話はもういいから、大きなイチモツをください。既に焼かれたイチモツはいりません。
窓の外にはひらひらと舞う白く美しい裸の女性。まるで雪のようだった。もう小一時間ほども降り続けている。地面はすっかり真っ白になって、裸の女性で埋め尽くされている。女性たちはその寒さに震えながらも背筋をピンと伸ばして立っている。その乳首も堅くなって立っていた。女性たちの中にはオナニーに励む者もいた。そうすることで精神的満足感を得、ぐっすりと眠ることが出来た。オナニーによる満足感はダイエットにも効果的なのだった。オナニーのやりかたを知らない者はオナニーのやりかたを知っている者に教えてもらっていた。おしっこが出そうになる気持ちが寒さのせいなのかそれともオナニーの快感によるものなのかわからなかった。ボランティアの人たちは女性たちにベッドを用意してくれた。そのおかげで快眠を得られた。幸せな一族だった。
言論の自由よ。俺たちには本当に自由などあるのだろうか。俺はポエトリー・リーディングをするアフリカ系イギリス人女性と知り合い、そして恋人どうしとして付き合うことになった。彼女は詩の朗読をしていた。特にお気に入りなのが「愛」についての朗読だった。彼女の読む「愛」はどういう訳か最後にはいつも何かに縛られ、その束縛から逃れたいがための苦言が出、その後暴言となって叫ばれる。「欲しいのは自由よ!」「あなたのその大きなイチモツじゃないわ!自由よ!」俺のイチモツは拒否されてしまった。彼女は太くて長い釘とハンマーを持ってきて俺の大きなイチモツを摘んで引っ張り出し、そのイチモツを壁に押しつけ釘をぶっ刺しハンマーで打った。俺の身体は壁とイチモツとがつながった状態で宙に浮いていた。彼女は叫んだ。
「幽体離脱!」
「いや、そうじゃない。」
「優待離脱!」
「そうでもない。」
「それを英語で!」
「No,No,No!」
「早よ寝ろ!」俺たちは眠ったのだった。齧る日、ではなく明くる日、俺はゆうべ酔っていたのだろうか。見たこともない記憶にないファイル名がタイプライターに保管されていた。何だろうと違和感を抱きながらも恐れることなく開いたファイルの中身がこれだった。
とても美しいと感じたのはそれが脳を裸にしたような文章だったからだ。生まれたての赤ちゃんですら見せることの出来ない脳の裸。俺はそれを目に見える形で排泄じゃなくて排出、排出?日本語合ってる?させたのだ!これほど美しい文章を自分が書いたとは思えなかった。俺はマイナスの視力を最大限駆使して煙草を一本取り出した。ライターに火をつけたつもりが炎が見えなかったのでライターに目を凝らして、もっと凝らして、さらにもっと目を凝らしてライターに近づきすぎて炎が目を焼いた。俺は地味に「あっつ。」と声に出した。誰にも見られていないのに恥ずかしかった。視力がマイナス二・二というのは不便だと改めて命を失いそうになるほど身に染みた。
まだ始まったばかりだと思っていたのに、どっちかと言えば、すっかりもう始まったという感じだ。間違えた日本語というのを見ると苛々させられるものだが、わざとおかしな日本語の文章を書くという挑戦はどこまで続くのか。どこまで、どこまで、どこまで、どこまでも。