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貸金庫の中の「大切なもの」

最近、メガバンクの貸金庫に関する不祥事が話題になっている。それを見て思い出したのは、僕が営業店勤務時代に体験した、貸金庫にまつわる摩訶不思議な一件だ。それは感動と大爆笑が絶妙に入り混じった、忘れられない一日だった。

逃げる支店長、そして僕の運命

その日は、支店の朝礼が終わるやいなや支店長が突然「これ、今日頼むよ」と僕に言ってきた。内容は、貸金庫の解錠に立ち会え、というもの。

貸金庫の契約者である被相続人のお父さんが亡くなり、相続人の姉妹がその解錠を求めてきたらしい。ただ、ここで問題が一つ。姉妹は絶賛、骨肉の争い中であり、双方が弁護士を立てているのだ。これは一筋縄ではいかない案件と誰もが分かっていた。

当然、支店長は一瞬で「会議だからよろしく!」と言い残して退場。その後、営業役席も「お、急な外回りが入ったんだよな~」と早足で姿を消す。

そして最後に取り残されたのは、なぜか融資担当である僕だった。心の中で「おい、これ俺の仕事じゃないだろ!」と何度も叫んだが、既に姿は見えなくなっていた。

貸金庫室での奇妙な会話

貸金庫室には、険悪な雰囲気を醸し出す姉妹二人と、彼女たちの弁護士たち、そして僕がいた。

「開けてください!」
姉妹の一人がそう言うが、僕は即答した。
「いやいや、僕が開けるんじゃないですよ。相続人さん達でどうぞ。」

しかし彼女たちは、口を揃えてこう言うのだ。
「私たちは揉めてるから、中立的な信金さんが開けるべきです!」

いや、そもそも中立とか関係なく、これ僕の仕事じゃないんだけど?と心の中で毒づく。それでも双方の弁護士までもが「そうですね、中立な立場の方が…」と同調してくる。

仕方がないから、「じゃあ、弁護士さん。僕宛に解錠手続きに関する委任状を書いてくださいよ。であれば受任通知書いてあげるよ笑」と返したところ、「わかりました!」とノリノリで答えてくる弁護士たち。もうここまで来たらやるしかない。

期待の中身は?

貸金庫の鍵を回すと、中から出てきたのは…意外にも軽いボックス。そして、中には二つの桐箱が入っていた。

「金か?ダイヤモンドか?」
姉妹のどちらかがそんなことを呟き、目を輝かせる。PTAの父兄参観にいるようなお母さんっぽい雰囲気のおばさんが「何かすごいものがあるに違いない」と期待に胸を膨らませている様子だった。

渋々ながら桐箱を開けると――そこにはなんと!
干からびたへその緒が二つ!笑
片方には姉の名前、もう片方には妹の名前が書かれている。

想定外の衝撃

「え?、へその、緒?」
言葉にならない姉妹の声が響く。目の前の状況が信じられないのだろう。期待していた金や宝石の代わりに、自分たちの生まれた時の遺物が現れるとは、確かに想像していなかったに違いない。

姉妹のどちらかが「他に貸金庫は契約してないんですか?」と焦った様子で聞いてきたが、僕は毅然として「ありません」と答えた。

そして、都内からわざわざ来た姉妹が「なんなのよ!これ!」と怒り出し、二人の口喧嘩が始まった。

僕は一言、言ってしまう

ここで僕は、ふと思った。このお父さん、一体何を考えてこんなものを貸金庫に保管していたのだろう?年間数万円の料金を何年間も払い続けてまで、干からびたへその緒を守り続けた理由は?

その時、心に浮かんだ答えを、僕は静かに伝えた。

「何年も年間◯万円払って、このへその緒を大切に保管していたんですよ。お父さんがこれをここに入れたのは、あなたたちに伝えたいことがあったからじゃないですか?」

姉妹は黙って僕を見つめる。そして、僕はさらにこう付け加えた。

「仲良くしろ、ってことだと思いますよ。」

貸金庫室の静寂

僕の一言で、貸金庫室は一瞬で静まり返った。なんとも言えない空気の中、二人の姉妹がへその緒を手に取る姿を見て、僕はこの仕事の不思議さを改めて感じた。

正直なところ、桐箱を開けた瞬間は大爆笑しそうになった。でも、それ以上にこのお父さんの深い愛情とメッセージを感じ、胸が少し熱くなってちょろっと涙も出そうになった。

今でも忘れられない瞬間

姉妹がどう和解したのか、その後のことは分からない。ただ、父親が貸金庫に詰め込んだのは「へその緒」だけではなく、確かな思いだったのだろう。

振り返ると、この金融って仕事には時折、こんな予想外のドラマが待っている。

でも正直なところ――ドキドキした笑

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