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UNSUNG HEROESーVol.2_浦野 龍基

アンサング・ヒーローズ。名も無きヒーローたち。シャイニングアークスにも、普段スポットライトを浴びることなく選手を陰で支える、縁の下の力持ちとも言えるスタッフがたくさんいます。そんな彼らに、少し陽の当たる場所に出てきてもらうシリーズ企画です。第二回目の登場は、データコーチの浦野龍基氏。

コンサルティング会社勤務を経て

慶應義塾大学ラグビー部員だったのですが、卒業後に経営コンサルティング会社で3年間働いていました。もともと、いずれはラグビーの指導者になりたいという大きな目標がありましたので、3年ぐらい働いたら一旦キャリアを考え直そうと思っていました。そこで、指導者への一歩目のキャリアとなるコーチやアナリストの仕事を探していたところ、慶應ラグビー部の先輩であるシャイニングアークス元コーチの栗原徹さんや元監督の林雅人さんからチームにつないでもらいました。ちょうど前任のアナリストである立川さんが移籍するタイミングだったので、面接をしてもらって採用され、3年目の今年から肩書きが「アナリスト」から「データコーチ」に変わりました。

それまでアナリストの勉強は特にしていませんでした。ただコンサルティング会社勤務時代にクライアント企業の売り上げ状況だとかマーケティングデータとかを分析する仕事をやっていたので、考え方であるとかエクセルのスキルとかはかなり役に立っています。

自分の能力を客観視した時に、ラグビーに対する知識がまだ全然足りないし勉強不足だとわかっていましたので、仕事をしながらしっかり学びたいという思いでアナリストの道を選びました。あとはコンサル会社勤務時代の経験から、分析力はキャリアを乗り越えられる唯一の武器だと感じていました。ですからラグビーの分析をする仕事は、自分の将来のためにもなると考えていました。

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独学でアナリストとしてのスキルを習得

シャイニングアークスに入って、基本的には独学で学んできました。誰も教えてくれる人がいませんでしたので、前任者が残していったデータをひたすら解読して再現していく中でスキルを高めていきました。

大学ラグビー部時代は、戦術に関して専門的な分析はほとんど無かったです。S&Cに関してはプロのコーチがいたのですが、僕らの時代は最先端のラグビーに明るい指導者がいたわけではなかったので、今のシャイニングアークスの分析のレベルから比べると、ほとんどしていなかったというぐらいのものでした。

3年間やってきて、一番スキルアップしたと思うことは、ラグビーの分析の仕方、言い換えれば分解の仕方がわかってきたことです。

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アナリストとしてのアイデンティティの確立

いまチームの分析班の中で共通認識としてあるのは、「分析ってなんだろう」ということに対して、明確に答えを持つことです。それは、知りたい対象を要素に分けて考えることであると定義しています。つまりアナリストとは、物事を要素に分けて考える専門家であると考えています。ビデオを撮影することや分析ソフトを使うのが上手いとかではなく、どうやったら物事をうまく分解して考えられるかにフォーカスを置いています。

ラグビー1試合を分析する専門家として、ラグビーをどの切り口でどの深さで分けて考えると求めている結論に至るかの、分け方の軸が明確になってきたと思っています。

例えばラグビーのポゼッションを分けて考える時に、時系列で云えばポゼッションを得てから失うまで、失ってから再獲得するまでと考えればいいし、さらにその中でポゼッションを得たときのアタックのソースがスクラムなのかラインアウトなのかターンオーバーなのか7種類ぐらいあって、そこからポゼッションが終わるまでのプロセス、フェーズが何フェーズで、それが何メートルゲインしたのかできなかったのか、そして終わり方としてスコアできたのか、もう一回攻撃権を獲得したのか、ボールを失ったのか、などというような分け方と見る優先順位の精度が上がってきたと思います。

簡単に言えば、情報の取捨選択がうまくなってきたと自分自身感じています。情報量としては分析チームが一番多くの量に触れて、取捨選択したデータだけをコーチに渡し、そこからさらに1/3とか1/10に絞り込んだものを選手に渡すというイメージです。むしろ渡さないほうがいいという選択もできるようになってきました。

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シーズン中の1週間の過ごし方

例えば日曜日が試合だとすると、当日やることは撮影とリアルタイムの分析の二つです。その準備をするために会場に早く入って、撮影するスタッフとソフトで分析するスタッフとに分かれて試合中は作業しています。今はハーフタイム中に必要な映像やデータを選手に見せるので、前半が終わるまでにその用意はしておきます。試合が終わった後は、分析ソフトで映像とデータがリンクしたものをコーチにシェアして、その後で詳しい分析作業をその日中に行い、コーチ陣にレポートを提出します。

そして、月曜日は、次の試合相手の前節終わった試合の分析を行います。それと作ったレポートを見返して、コーチに伝える内容や気づいたことをまとめたり、気になる映像を調べたりしています。

火曜日は、午後からチームの活動がスタートします。午前中にコーチのレビューミーティングがあるので、その前に分析チームで集まって考え方をまとめます。そして、火曜日から水曜日にかけて、次の次の試合の相手のレポートを作り、水曜日中に提出します。

木曜日から金曜日にかけて、水曜日に出した次の次の試合の相手のデータをチェックし直して、コーチのプレビュー・ミーティングに話す内容を固めます。それに並行して、次の次の次の試合、来週出すレポートの準備を始めます。

ですから、1週間で3試合分の準備を並行しながら行っています。

試合前日の土曜日は少しゆっくりできます。でも時間があればレポートの準備をします。試合が終わってから二日間ぐらいは怒涛の作業量になるので、その負担をなるべく減らしておきたい思いで、できることをやっておきます。

今の時期は、シーズン中に出すレポート内容の設計をしています。シーズン中は、あまり休みは無いです。その分、オフの期間に休みます。笑

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仕事の喜びやこれからのビジョン

まずは、チームが勝つことです。さらに自分たちが分析した内容をもとにコーチがプランニングしたことが具現化して勝った時は、なお嬉しいです。あとは普段の練習の中で、分析チームが濾過した情報を届けることでコーチや選手たちの頭の中が整理されたり、それによってチームに良いことが起こることもアナリストの喜びです。

シャイニングアークスらしさは、良くも悪くも若いというところじゃないですか。いいところは、伝統とか過去の価値観に囚われないで先に向かっていくところです。またその若さを自覚した上で、より前を見ようとしているところだと思います。このクラブハウスもそうですが、新しいことに対してチームとしてもどんどん前向きなチャレンジや投資をしていくところ、未来へのポジティブな姿勢が我々の良さであり、らしさではないでしょうか。悪いところで言うと、いい文化や伝統が足りないところだと思います。

チームがこれからもっと強くなっていくためには、勝てる仕組みを作ることが必要だと思います。チームの強さを分析すると、選手能力の総和(純粋な戦力)が順位に対して一番影響が大きいことがわかります。そのチームに所属する選手の保有する総キャップ数や、特別枠の選手がどのくらいいるかなどでチームが抱える戦力を大まかに可視化してみると、多くの場合チーム順位と戦力の順位はおおむね比例しますが、中にはその間にポジティブなギャップがあるチームがあります。特に代表選手の数が少なかったり特別枠の選手があまりいないのに、継続的に上位にいるチームはやっているラグビーのスタイルをはじめ、抱える戦力以外に勝利の仕組みを持っているチームです。我々はそうなるべきだと思っています。

そのためには、独自のラグビースタイルの確立、リクルートや育成プランとのリンク等、中長期的な視野に基づいたオリジナルのチームスタイル、仕組みを作っていくことが大事だと考えます。

最終的には、指導者としてトップレベルになりたいということが自分の大きな目標としてあります。あとはどんな立場であれ、このチームを日本一にしたいと思っています。

その中で、ただ勝つのではなく、一番面白いラグビーをたくさんの人に届けたいという強い思いがあります。どうすれば自分たちのラグビーを観たお客さんに「あー、面白かった!」と感じて帰ってもらえるのか、が今後追い求めたい永遠のテーマですね。


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