友井川拓note 〜ラグビー以外〜 Vol.4『飛行機人間たれ』
グライダー人間でなく、飛行機人間たれ。
グライダーと飛行機は遠くからみると似ている。空を飛ぶのも同じで、グライダーが音もなく優雅に滑空しているさまは、飛行機よりもむしろ美しいくらいだ。ただ、悲しいかな、自力で飛ぶことができない。・・・中略。人間には、グライダー能力と飛行機能力がある。受動的に知識を得るのが前者、自分で物事を発見するのが後者である。・・・中略。グライダーにエンジンを搭載するにはどうしたらいいのか、学校も社会もそれを考える必要がある。
『思考の整理学』 外山 滋比古
外山滋比古先生の『思考の整理学』でのグライダー人間と飛行機人間の話が面白い。”自力で飛ぶ”ということはスポーツにおいても非常に重要な要素だと思います。今回は、グライダー人間と飛行機人間をスポーツに置き換えて考えてみたいと思います。
かつて天才だった選手たち
スポーツにおいてトップのカテゴリーで長きに渡り活躍し、多くの人々を魅了する素晴らしい強者たちがいます。
片や学生時代に各カテゴリーの日本代表に選出されるなど、将来を有望視されながらも社会人やプロといったトップのカテゴリーで息を潜めてしまう、もしくはルーキーイヤーは活躍するもその後は出場機会に恵まれずに早くして引退してしますような”かつて天才だった選手たち”を多く見てきました。その違いは何なのか...。
同様にビジネスにおいても、入社1、2年目は目を見張る成績を出したり、素晴らしいアイデアを企画したりと、将来が期待されるもその後はなかなか活躍の機会を得られないような社員もいるのではないでしょうか。
スポーツで考えると、もちろん大きな怪我が要因となり引退を余儀なくされるというケースも多くあります。それ以外の要因で考えると、成長し続けられる選手であるかどうかがトップカテゴリーで活躍する為の大きな要素だと私は思います。
ある程度メジャーなスポーツであればトップのカテゴリーでプレーする機会を得られる選手はすごい選手の中の更にすごい選手です。つまり、選び抜かれた選手たちの集まりで能力の高い選手は巨万といる世界だということです。
もちろん中には圧倒的な能力だけで活躍している選手もいます。ただそれは限りなく少ないのが現実です。
そんな過酷な世界でどう生き残るか。何が違いを生むのか。
それは自ら考え行動する力だと思います。『Vol2. チームの為にすべきこと』でも書きましたが、ジコウ(自ら考え、自ら行動する。自考と自行)する力をつけられるかが大きな違いになると確信しています。
外山先生のいう、飛行機人間として『自力で飛ぶ』ということは、まさにジコウできる選手や社員ということに言い換えられると思っています。
飛行機人間となり『自力で飛ぶ』。
それはスポーツにおいてもビジネスにおいてもとても重要なことだと思います。
飛行機人間たれ。
「自分で考えなさい。」
私の大学時代のラグビー部監督が「自分で考えなさい。」という言葉をよく使っていました。私の大事にしている言葉です。他の教えは何にも覚えていませんが。笑
現在、私は幸運にもコーチという仕事に携わらせていただいています。
そんな中で私が思うコーチのチャレンジは、”コーチが必要のない選手”を何人育てられるかだと思っています。つまり選手自身が自分自身のコーチになるという、セルフコーチングができるようになる助けをすることです。
未来の目標を達成するために、今何が必要で、どう行動し、行動をどう習慣にすべきかを自ら問いを繰り替えし考え続けるという力(スキル)が成長する為には必要です。
勿論、成功する全ての選手が初めからそのような力が備わっているわけではありません。...が、それが必要だと気づいた選手が長きに渡りトップのカテゴリーで活躍していると、多くの選手達と接してきてわかったことです。
逆に活躍せずに終わってしまう選手は、上手くいかない状態が続くと、「考える」という訓練をしてこなかった為、何をどうすればいいのかすらわからないという悩みから抜け出せずに成長せずに現役を終えていきます。
自分で考えるということが選手の成長を加速させ、長きに渡り活躍できる選手になる為の大きな助けになると思います。そして、指導者の役割はそれを助けるだけ。
先日の『FOOT×BRAIN』で((テレビ東京系、毎週土曜24:20~))スペイン・ビジャレアルの指導方法について、現Jリーグ理事 佐伯夕利子氏(スペインの男子リーグ史上初となる女性監督)が指導者が一方的に「教える」ではなく、選手が「学ぶ」「学びあう」環境を作ることを大切にしているというお話がありました。
選手は自ら考える、指導者はその助けをする。それがスポーツ選手がグライダー人間で終わらずに、飛行機人間となり長く活躍する近道だと考えます。
考える。について
では考えるうえで大事なことは何か。
考えるとはどういうことかを考え出すと哲学的な話になってしまうので(笑)、私が『自分で考える』うえで大事にしていることを少し書きたいと思います。
1つ目は批判的思考を持つこと。2つ目は正解は人それぞれであり、平均は正解ではないということ。そして3つ目は自分で考えるということは一人では出来ないということです。
1、クリティカルシンキング(批判的思考)。
クリティカルシンキングとは物事について考える際、「なぜなのか」「本当に正しいか」といった批判的な『問い』を持つことです。自分の意見、そして他人からのアドバイスも「間違っている可能性もある」という固定概念に囚われない柔軟で批判的な視点を持ち続けることで、より自身にとって有益なものになります。
日本語にすると「批判」とネガティブな印象を受けますが、必ずしも否定を意味しません。コーチや上司からの提案は謙虚に受けなければなりません。ただし、鵜呑みにせずに本当に自分にとって有益なものか『問い』を重ねることで自分の力にしていくことが大事です。
私はもとよりひねくれた性格の為、意識せずこういう考えを持っていましたが...笑
2、正解は人それぞれ違う。
前述した、批判的思考と重なる部分も多いですが、正解は人それぞれ違うという視点を持つことは非常に大事です。
スポーツで例えると、ポジションも違う、体格も違う、経験も違う、育ってきたチームなどバックグラウンドも違う、思考のクセ(ネガティブなのかポジティブなのか)、メンタルの強さも違う、目標・目的も違う。誰一人同じではないということです。
そのうえで特に大事なことは、『平均は正解ではない。』ということ。
例えば、どんなスポーツでも180cmならこのくらいの体重が必要とか、体重が90Kgならこのくらいの重りをトレーニングであげるべきなど。多くの選手がその平均値を目指そうとします。がゆえに備えている強みを活かし切れずにパフォーマンスが出ない、そんな選手を多く見てきました。
元メジャーリーガーの吉井理人氏も著書『コーチング論 〜教えないから若手が育つ〜』でこう書いています。
『トラックマン(高性能弾道測定器)の導入により、ボールの回転数を測れるようになれたことで、多くの選手が回転数を上げることを目指した。しかし理解すべきことは平均値に近いということは多くの打者が見慣れている球であるということ。目指すべきは「非常識な球」だ(要約)』
回転数が多ければ打者の手元で浮き上がる為、バットはボールの下を通って空振りになる。が、大谷選手のような160キロの速球の割に回転数は普通といった球を持つ選手もおり、伸びが少なく空振りよりもゴロで打ち取ることが多いといいます。野球のことはまったくわかりませんが...。
ただし、平均値や型から外れるということは覚悟が必要です。それを理解したうえで、自分の考えを強く持ち、挑戦し続けることで新しい道が開ける可能性が多いにあると思ってます。
3、自分で考えるということは自分一人では出来ない。
自分で考えるということは自分一人では出来ないということです。矛盾しているように思いますが...。
しかし、考える際に大事なことは色々な意見を取り入れるということです。それは人でもいい、本でもいい、様々な角度の意見に触れたうえで自分の考えを持つことが『自分で考える』ということだと思います。
自分の意見を疑い、自分が常に正しいという確証バイアスに陥らず、自分に有益なことは何なのかを『問う』ことが必要です。
最後に。
飛行機人間として一度飛び出して終わりではなく、現状維持せずに試行錯誤しながら多くの成功と失敗を重ね、より高く、より遠くに飛べるようになることが最も大事だと思います。
その為には、自分が自分自身のよきコーチとなって、どうしたらもっと高くとべるか、どうしたらもっと遠くにとべるか、そのような『問い』を繰り返し、自分の頭で考えることが1番の近道だと思います。
あくまで私の意見です。
GOOD LUCK!! 新海 元(木村 拓哉)
最後までありがとうございました。
【参考文献】
1、『思考の整理学』
出版:ちくま文庫
著:外山 滋比古
2、『吉井理人 コーチング論 教えないから若手が育つ』
出版:徳間書店
著:吉井 理人