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UNSUNG HEROESーVol.5_新田 博昭

アンサング・ヒーローズ。名も無きヒーローたち。シャイニングアークスにも、普段スポットライトを浴びることなく選手を陰で支える、縁の下の力持ちとも言えるスタッフがたくさんいます。そんな彼らに、少し陽の当たる場所に出てきてもらうシリーズ企画です。第5回目の登場は、ハイパフォーマンスマネージャーの新田 博昭氏。

S&Cを学ぶために大学卒業後渡米

日本体育大学柔道部に所属していたのですが、高校時代からS&Cを学びたいという思いがあり、1996年に日体大を卒業後アメリカに渡り、サンノゼ州立大学の大学院に入学しました。そして大学院在学中に、自分のS&CスタッフとしてのキャリアをUCバークレー大学でスタートさせました。そこでは主にアメリカンフットボールチームを担当しながら、ラグビーやサッカーチームにも関わっていました。卒業後、そのまま1年間はアメリカに残ることができるビザを持っていましたので仕事を探していたところ、バークレー大学時代の同僚の紹介でUCLAのS&Cスタッフとしての職を得て、1年間働きました。

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アメリカでのS&Cスタッフ修行時代

当時日本にはS&Cを教えてくれるところは無かったですし、アメリカに行けばそれなりに教えてもらえると思っていましたが、そんなことはありませんでした。運動生理学など原理原則の授業はありましたが、結局、実践的なことは現場で学んでいくしかなかったです。
下積みから始めて、丁稚奉公のようにスキルを積み重ねていきました。薄給で下働きをこなして上にのし上がっていくということに関しては、アメリカは日本より遥かにシビアだと思います。

コーチのキャリアをスタートしたばかりの当初、「S&Cのいろは」を学んだのは、U CバークレーのヘッドS&Cコーチからでした。当時は、クリーンとかスナッチとかの所謂オリンピック・リフティングを中心に行うプログラムでした。爆発的な筋力と柔軟性を伸ばすという意味でいえば、どのスポーツもある程度共通すると思いますので、個々のスポーツに合わせた特別なトレーニングはやっていませんでした。味付けの違いはもちろんしていましたが。

学んだトレーニングを自分でも試してみると、生涯で足が一番早くなりました。ですから「このトレーニングをやれば、パフォーマンスが上がる!」という確信を持っていました。

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帰国後、ラグビーチームS&Cコーチに

その後帰国して、日本での仕事を探していたところ、またバークレー大学時代の同僚がサントリーラグビー部コーチと繋がりがあり、紹介してもらって入部しました。

サントリーラグビー部には、トータルで11年間在籍していました。その間に清宮克幸さんとかエディ・ジョーンズさんとかその後シャイニングアークスのコーチも務めた大久保直弥さんなど、錚々たるヘッドコーチの元で働きました。12回決勝に行って、6回勝つことができました。

11年間居てそろそろ環境を変えたいと思っていたところ、ワールドカップイヤーの2015年に日本代表から声がかかってスタッフ入りし、ワールドカップ本大会を経験できました。メディアなどでハードトレーニングの様子が伝わっていたと思いますが、あまりにも忙しすぎて記憶が曖昧になるくらい濃厚な時間を過ごすことができました。

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S&Cコーチとしての転機

色々とトレーニングのトレンドがある中で、自分のコーチングではなかなかパフォーマンスが上がらない選手を目の当たりにし、根本的にもっと自分が成長しなければいけないと思っていたところ、サントリー時代の2014年頃にオランダ人のフランス・ボッシュという人の存在を知りました。彼のトレーニング方法を知った時、直感的に「これだ!」と思いました。そして、すぐにオランダまで会いに行きました。

その後、ボッシュ氏は日本代表チームのコンサルティングをするようになりました。日本代表チームの菅平合宿があった時に自分もお手伝いという形で参加し、その合宿期間中は、ボッシュ氏のアシスタント的な形で過ごすことができました。彼は大学で学んだわけではなく、本や文献から知識を得て自身の理論を構築した人です。そしてその理論を今は大学で教えているという、いわば天才肌な人です。

それから私も日本代表スタッフに加わりましたが、先ほどお話した地獄の合宿と言われた宮崎合宿にもボッシュ氏は参加していました。

彼には今まで自分が信じていたことを全部ひっくり返されました。頭の中がカオスになりました。自分が今までベースに置いてきたオリンピック・リフティングだとかスクワットだとかが、「それは選手のパフォーマンス向上に本当に繋がるのか?」と彼から問われた時に、曖昧な回答しかできませんでした。すると「お前のやっているトレーニングはジェネラル(一般的)なもので、真にパフォーマンスに繋がるスペシフィック(特化)なものではない」と返されました。

「走る動作の時に筋肉にかかる負荷を本当に再現できているのか?」「いや、それはわかりません」「できてないだろ。ハムストリングの構造をお前はわかっているのか?」「ハムストリングは膝を屈曲させる‥」「いや、違う。ハムストリングはお尻の力を下腿に伝える役目なんだ」‥という具合に、解剖の絵を見せられながら説明を受けました。

今となっては恥ずかしいのですが、当時の自分はそこまで考えていませんでした。筋肉の構造まで考えて、それだったらこういうトレーニングがいいという発想になったら、そのトレーニングはパフォーマンス向上に直結するものになっていくと教えられました。

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そして、シャイニングアークスでの新しい役割

ラグビーW杯2015大会終了後に次の仕事を探していたところ、縁がありシャイニングアークスで働くことになりました。

チームの現場では主に、S&C、メディカル、そしてラグビーコーチが選手のパフォーマンスに関わる仕事をしています。この3つの役職がそれぞれ協力し合うことによって、チームはベストなパフォーマンスを発揮する事ができます。色々な経験を経てきた自分がその3者を繋ぐハブ(中心)になることを考え、「ハイパフォーマンスマネージャー」という役職でチームに加わりました。そういった視点で見た時に、チームに加入してまずわかったことは、ロッカールームからトイレまでクラブハウスが汚い。選手やスタッフがそれを汚いと感じていないということは、スタンダードが低いんだなと思いました。

時間をちゃんと守るとか、しっかり片付けるとか、そういったところをきちんと積み上げていってこそ、チームカルチャーができると思います。ですから、「この汚さでは無理だな」と思いました。治療中に選手がスマホをいじっていることも許されていて、日本人の感覚でいったら違うだろうと思いました。しかもチームに長くいる人ほどダレてきてしまっているところがありました。

今は当時とは全く違って、改善されています。ただもっと改善していくために、自分の中ではスタートの時からの歴史は覚えておこうと思っています。改善していかないと、組織は死んでしまうと思いますから。必要とあらば、選手にだけではなく、コーチ陣に対しても発言するようにしています。「また新田さんがなんか言ってるよ」と思われているかもしれませんが、それでいいと思っています。そういう人間がチームには必要だと思っていますので。

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これからのシャイニングアークスへ

勝利の追求はもちろんですが、それと共に新しい価値を作っていくことも大切に考えています。例えば先ほどお話ししたUCバークレー大学の同僚で自分をサントリーラグビー部に紹介してくれた人間が、いま「スパルタ」という測定システムを世界中に広めていこうとしています。それは、床反力を測ることができる「歪み計」なのですが、200万件以上の実験を重ねて、得られたビッグデータから、個人個人に必要なトレーニングメニューの処方ができるようになりました。シャイニングアークスにもこの「スパルタ」を導入し、選手のパフォーマンス向上はもとより、地域の方々の運動能力向上や健康促進にまで広げていきたいと考えています。

どんなビジョンを持ってラグビーをやっていくかの「価値観」をチームとして創っていくことが、チームカルチャーになっていくのだと思います。



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