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【小論文の書き方】バーバラ・ミントのピラミッド原則で論文を書く:その1

論文あるいは小論文と言われるようなきちんとした文章を書くためにピラミッドストラクチャーを使っています。原典はバーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』。最終原稿だけでなく、そこに至るプロセスも解説します。

小論文のタイトルは、『ネット社会は、リアル社会と同じように実名であるべきか?』。2011年2月にトレーニングを受けたときに書いた小論文なので、当時の世相も垣間見れると思います。

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バーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』について

考える技術・書く技術』の原題は、『The Pyramid Principle: Logic in Writing & Thinking』。”技術”と訳されてますが、原題には”Logic”とあり、邦題のサブタイトルにも「Logic in Writing, Thinking, Problem Solving」とあるように、ジャンルでいえばCritical Thinking(批判的思考)について書かれた本ですので、結構難しい内容だし、日本語訳もこなれていないので正直読みにくい。でも、原典つまり1次ソースを押さえるというのはとても大事なので、やはりここは読んでおきたいところ。

さらっと知りたいならこちらが参考になります。

しっかり知りたい方は、こちら。

小論文のピラミッドストラクチャー

ロジカルに文章を書くというのは、より明確にキーメッセージを伝えるためであり、コミュニケーションを円滑にするためです。立派な文章にすることが目的というわけではなく、相手に伝わるように書くということ。そのためには、以下のようなピラミッド型の文章構造を推奨します。もちろん、Narrativeに物語を語るスタイルもありますが、ビジネスシーンではやはりこのピラミッド型の方が適しています。

- Thema
- Thesis
- Introduction
- Body1
- transition1
- Body2
- transition2
- Body3
- transition3
- Conclusion

ピラミッド原則の詳細は以下の構造ですが、これを当てはめようとするととても難しいので、上記のように簡略化して考えると文章内容そのものに集中できます。

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出典:https://www.powerusersoftwares.com/post/2016/07/31/give-a-brilliant-structure-to-your-presentations-with-the-pyramid-principle

構造の説明は上述の通りですが、これではまったくイメージが湧かないので、詳しい解説の前に全体像をまずは眺めて下さい。

ピラミッド型小論文の骨子

- Thema
 - ネット社会は、リアル社会と同じように実名であるべきか?
- Thesis
 - リアル社会同様に使い分ければいい
- Introduction
 - ひと昔前にはなるが、旅行で盛んに使われていたトラベラーズチェックは、名前を書き込むことで貨幣と同等の価値を持った。一方で、現金買いの時に紙幣に名前を書く人はいない。
- Body1
 - FacebookとMixiがネット社会で実名か匿名かで覇権争いをしている
- transition1
 - ネットで実名を晒すメリットが、日本ではあまり無い
- Body2
 - 新聞の社説でも、記名の場合、無記名の場合がある。
- transition2
 - 裏書きとしての実名の価値
- Body3
 - 一般人が実名で医学知識をひけらかしてもリファレンスとしての価値は持たない。患者として受けた治療行為の記録は、たとえ匿名であっても同じ病気を持つ人には価値を持つ。
- transition3
 - 名前の持つ属性とコンテンツが組み合わさって初めて価値を持つ。
- Conclusion
 - 既にネットは実生活の一部になっているのだから、実名が是か非かという議論に留まっているより、適切な使い分けが出来るサービスが必要。

まずは、問題意識が何か、はっきりさせる

何を小論文として書くのかは、どんな問題意識をもっているかが発端になります。今回取り上げた小論文では、

匿名のMixiやWikiLeaks、実名のFacebook、どちらも使えるTwitterやブログなど、ネットのサービスとして実名かどうかで勢力争いの様相を呈している。

という2011年当時の状況に対して、自分の主張を書くことにしました。これが、ピラミッド構造のINTRODUCTIONの一部であるQuestionに当たります。SituationやComplicationは、その問題が起こっている背景や問題として取り上げた理由を書くといいでしょう。

”Thesis”はあまり馴染みの無い語句ですが、ピラミッド構造のINTRODUCTIONにある"Answer"にあたり、自分の主張、命題、キーメッセージということになります。骨子の中では、「リアル社会同様に使い分ければいい」とシンプルに書いていますが、小論文全体の論旨としては、

匿名か実名かで対立する必要はないと考えている。
ネット社会に限らず、実社会でも匿名のものはたくさんある。匿名か実名かの二元論ではなく、名前が持つ付加価値に着目し、どのような場合に付加価値となるのか、あるいはどのような場合にリスクとなるのかを観点として考えてみる。

というように、主張の方向性を先に決めています。この方向性が定まっていないとその先の”Argument(論点)”がぶれてしまってぐだぐだな文章になってしまいます。あれこれ書きたい気持ちをぐっと抑えて、この”Thesis”を背骨にして考えていきます。

骨子の冒頭にある”Thema”は、タイトルそのもの。文章を書き始めるときに決めるよりも、全部書いてから最後に相手が読みたくなるようなキャッチーなタイトルを考える方が引き締まります。もちろん、”Thema”の文章表現は、新聞に載るのか、ブログに書くのか、noteに書くのかなどそれぞれ適したスタイルがあるので、それも踏まえて書く必要がありますね。

”Introduction”の部分は、起承転結の”起”にあたり、読み進めたくなるようなトピックスやその後の”Thesis”が引き立つようなパートにします。

ひと昔前にはなるが、旅行で盛んに使われていたトラベラーズチェックは、名前を書き込むことで貨幣と同等の価値を持った。一方で、現金買いの時に紙幣に名前を書く人はいない。

ここでは、ネット上での匿名/実名問題を”Question”として取り上げているのにトラベラーズチェックという一見関係のないトピックスを持ち出して「え?なに?」と疑問が沸くようにしているのと、”Thesis”のベースになっている「名前が持つ付加価値」を提示しています。

ここまでがピラミッド構造のINTRODUCTIONのパートに相当します。

本文は、3つの論点で”Thesis”を支える

次は、本文です。
Body+Transitionというセットが3つあり、この3セットで本文を構成しています。ピラミッド構造では、SUPPORTING ARGUMENT1/2/3となっているパートに相当します。

3つの異なる論点・観点で、”Thesis”を導いた考え方を説明していくのですが、本来はこの3つがMECEになっているのが理想。とはいえ、なかなかそんなにうまくまとまらないので、あれもあるし、これもあるし、さらにこんなのもあるから、こういう主張になりましたとなっていれば大丈夫です。
今回は、実名、匿名のキーワードから連想されるトピックスを集めて構成しています。

”Body”は、本文そのものですが、ここは自分の意見や主張を述べるのではありません。客観的な事実やデータなど、揺らがないものを書きます。SUPPORTING ARGUMENTとピラミッド原則で説明されているように、自分の主張を支えるための自分以外の論拠を書くことで説得力が増すのです。そうしないと、全文が単なる自分の勝手な宣言になってしまい相手の理解を促すことはできないですし、正当な反証もできなくなってしまうのです。このあたりが、批判的思考の大事なポイントです。

”Transition”というのは、BodyとBodyの間をつなげる接着剤のような文章を示しています。異なる論点・観点のパラグラフがただ並んでいても読みづらいだけでなく、それが”Thesis”を支える(supporting)していることが分かりづらいので、前のBodyの要約であったり、後のBodyの前振りを書いて、文章全体の流れを整える役目を果たしています。

最後は、”Thesis”と対になっている”Conclusion”

”Conclusion”は、新たに何かを書くのではなく、”Thesis”を言い換えている程度です。骨子に書かれていたのを読み返してみましょう。

- Thesis
 - リアル社会同様に使い分ければいい

- Conclusion
 - 既にネットは実生活の一部になっているのだから、実名が是か非かという議論に留まっているより、適切な使い分けが出来るサービスが必要。

骨子の段階で十分推敲したら、あとは文字数制限なり時間制限なりを考慮して、構造を崩さないように各パートを肉付けしていくだけです。

また、このような論理構造をもった文章にしておけば、1分間の立ち話でも2時間のセミナーでも、膨らませ方が変わるだけなので即座に対応できるようになります。

さて、ここまでで解説は終わりです。
この後は、最終原稿を全文掲載しておきます。10年前のネット界隈の事情がわかる内容もなかなか面白いですが、ぜひピラミッド原則を意識して分析しながら読んでみてください。

小論文:『ネット社会は、リアル社会と同じように実名であるべきか?』

ひと昔前にはなるが、海外旅行では身の安全のために現金を持たず、代わりにトラベラーズチェックを使うのが常識であった。トラベラーズチェックは、あらかじめ名前を書いた部分と、支払いの際にその場で名前を書き込む部分があり、ふたつの名前が一致することで貨幣と同等の価値を持つ仕組みになっている。一方で、空港で両替した紙幣を使ってタクシーに乗った時に、わざざわ紙幣に名前を書く人はいないし、もちろん名前を書かなくても運転手は支払いとして受け取ってくれる。

名前というラベルは、このようにリアル社会においてうまく使い分けされることで利便性を提供している。それがネット社会においても気軽に出来るようになれば、一層その価値が高まり、生活者の利便性が更にあがるはずである。

FacebookとMixiが、ネット社会で実名によるサービスか、匿名によるサービスかで覇権争いをしている。それぞれが、ネット社会における匿名の優位性、実名の優位性を主張し、自らのサービスのみが正当であるかのような態度を取っている。匿名だからこそ成り立つ2ちゃんねるに代表されるように、これまでネットでの投稿は匿名で行われることが当然と思われていた。名前を伏せてしか主張できない内容には、重大な告発もあれば誹謗中傷や個人攻撃もあり、インターネット上の情報に多くの”ノイズ”が混じる状況を生んだのである。一方で、社会的弱者あるいはマイナーな趣味嗜好のユーザが、匿名ゆえにネット上で繋がりをもつことが可能になり、その結果として大きなムーブメントを引き起こすことが出来るのも、ネット社会の大きな特徴と言える。
チュニジアのジャスミン革命に端を発する中東の反政府活動では、意外にも実名登録を特徴とするFacebookが大きな役割を果たしている。当然ながら、実名のままでは当局の摘発を受ける可能性が大きくなるが、ファンページという個人と切り離したページを使い分けることで、デモの”ビラ”のように情報共有の役割を果たした。

ネット社会で実名を晒すメリット・デメリットをうまく組み合わせる工夫が、リアル社会では越えることの出来ない壁を乗り越えさせたと言える。

リアル社会の代表的なメディア、新聞に目を向けてみよう。ほとんどの記事は無記名であり、内容には新聞社が責任を持つという暗黙の了解がそこにある。新聞の記事の中でも社説は少し位置づけが異なり、記名の場合と無記名の場合があることはよく知られている。内容についての責任は執筆者当人にあるとして、断定的な、時に右翼的な提言なども、公の紙面を使って発信されるという使い方である。また、有識者のオピニオンは、そのオピニオンが有識者個人のものであることを示すために、当然のことながら名前入りで掲載される。このような名前の使い方は、「保証ラベル」という意味合いを持ち、たとえ内容に誤謬があってもその責任範囲は限定されることになる。
先に挙げたトラベラーズチェックの例でも、名前は「保証ラベル」の役割を果たし、名前があることによって信用取引を可能にする。世界中どんな場所でも通用する、単純ながら優れた仕掛けは、名前の価値をもっとも良く表している。いまでは、クレジットカードの普及によってトラベラーズチェックを使うことは少なくなったが、クレジットカードもやはり名前が重要な役割を果たしている。

このように、実名はいわゆる”裏書き”として、リアル社会ではうまく使い分けされている。

一般人が実名で医学知識をひけらかしても、リファレンスとしての価値は持たない。たとえば、一般の人が、ブログで詳細で正確な医学知識を公開していたとしよう。その情報は、リファレンスとして信用されるだろうか?たとえ実名を付記して公開していても、専門的知見を持っていることを示す”医師”というラベルがなければ、コンテンツとしての信頼を受けることは難しい。一方で、同じ情報を患者という立場で自ら受けた治療行為を公開しているならば、匿名であっても一定レベルの信頼を受けるだろう。このように、実名だけがラベルとしての価値を持つのではなく、名前に代表される個人の属性全体がその時々で重みを変えて「保証ラベル」の役割を果たしているのである。その意味では、”匿名”もひとつの属性として考えた方が、その価値の捉え方を間違うことはないであろう。

実名も匿名も、コンテンツに保証を与える属性のひとつに過ぎないのである。

実名と匿名のどちらが優れているかという考えではなく、既にネットは実生活の一部になっているのだから、実名が是か非かという議論に留まっているより、適切な使い分けが出来るサービスの方が自然に感じるはずである。さらにその使い分けは、ネット社会とリアル社会という区分も越えて自由に出来ることが、これからは求められる。
=========================ここまで

まとめ

バーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』で書かれたピラミッド原則に則した文章を書けるようになると、他者とのコミュニケーションや議論が生産性の高いものになります。さらに、自分の主張を、1分の立ち話でも5分のPitchでも2時間のセミナーでも即座に話せるようになるはずです。



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桜谷慎一|GrabFuture
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