見出し画像

ITベンチャーで一山当てた私が農家を志す理由

IT業界においては運良く一定の実績を築き、地位も得ることができた自分が「なぜ農業をやろうと思ったのか」という質問をよくいただきます。

自分の中でもあまり整理できていなかったので、整理のために&初心を忘れないために、いったんまとめておくことにします。


ITに飽きた

前職であるITベンチャーを卒業することを考え始めたのは、これがきっかけでした。人に聞かれた時には、最も端的に答えられることもあり「ITに飽きた、手触り感のあることをやりたくなった」ことを理由として返しています。

この感覚をもう少し言語化してみると、後述するような「身体性を伴う喜び」に対する憧れのようなものだったのだと思います。

私が20年以上生業としてきたソフトウェア開発は、その「形がない」という性質上、一人の人間の創造性を極限まで発揮することができる営みの一つであり、その点は今でも非常に魅力的だと感じています。

一方で、ソフトウェアは「作る」プロセスにも、「成果物が提供する価値」にも、「身体性」を伴わないことに物足りなさを感じるようになりました。

「幸せ」って何だろうという問い

表題の通り、私はITベンチャーの創業に参画し、いわゆる「一山当てた」人間です。

しかしながら、結構な規模のキャピタルゲインを得たとて、それによって幸福感が得られた感覚は全くと言っていいほどありませんでした。

もともと派手な生活をしたいタイプではなく、また日々の生活はあくまでも毎月の収入ベースで構築しているため、before / after での暮らしぶりもほとんど変わっていません。

また、仕事のやりがいは十分で、創業から退任まで、だいたいいつも exciting で interesting な時間を過ごしていましたが、これもまた「幸福感」とは少し違うものでした。

そんな中、こどもが生まれ、なんやかんやあって夕飯作りの担当になりました。きっかけは奥さんの第二子の妊娠中、つわりがキツいタイミングで夜ご飯を作り始めたことです。それがなんだか妙にハマってしまい、今ではすっかり「キッチンは俺の部屋」状態です。

日々スーパーや青果店・鮮魚店・精肉店で食材を購入し、素材の当たり外れに一喜一憂し、ネットでレシピを眺めては気になるものはブックマークして実際に作り、こどもの反応にまた一喜一憂する。そんなことを繰り返すうちに、「幸せって、日々のご飯が美味しい」みたいなことがめちゃくちゃ重要なんじゃないか、と思うようになりました。

日々の生活に「官能」と「センス・オブ・ワンダー」を

美味しいものを食べた時の幸福感って、官能的というか、社会によって作られた幸福感ではなく、完全に自分の身体から湧き上がる幸福感、と言う感じで何にも変え難いものがあると思うのです。

さらに、美味しいフルーツや魚介類を食べた時、自分は上記の「官能」に加えて、自然のすごさに対する驚きを感じます(注1)。英語で言うところの「センス・オブ・ワンダー」というやつでしょうか。こういうものを作り出し、届けることを仕事にしたい、と考えるようになりました。

注1)もちろん、フルーツの場合はもはや人工物と言ってよいほど人の手が加わってはいますが。

ものづくりがしたい

私は取締役という立場でありながら、創業期はともかくとして、会社が大きくなってからもしばしば「手を動かしてものづくり」をしていました。私のポジションからすれば本来の仕事は「経営」や「マネジメント」であり、自分で手を動かすことは往々にして「悪」とされる行為です。

それを頭では理解はしつつも、やはり自分にとって「執着」し、「没頭」できることは「ものづくり」でした。それを許容してくれた周囲への甘えもあって私はものづくりを続けていました(ものづくり以外でのバリューをあまり出せなかったと言う現実もあるかもしれませんw)。

そんな私は、10年以上勤め続けた会社を卒業することを考え始めたタイミングで、その後にやることを色々検討しました。

上述の通り、IT以外のことをやりたいと思っていた私は、不動産(大家さん)業、小規模企業をM&A、キッチンカー、漁業、興味のある領域について片端から本を読み漁ってみました。しかし、どれもピンと来ませんでした。紹介される事例を見ても、自分が「そうなりたい」と思えなかったのです。

そんな中で、数少ない「そうなりたい」と思える事例に出会えたのは以下の2冊です。共通しているのは、「ものづくり」であるということでした。ここに至り、「自分はものづくり以外には興味がないのだ」ということを確信しました。

「ものづくり」を生業にすることの最大の難しさ

「ものづくり」でお金を稼ごうと思った時、一番の難関はなんでしょうか?

それは、「売れるもの(ニーズのあるもの)を作る」ということです。これは当たり前のようで難しいことで、ソフトウェア(主にWebサービス)を作っていた時代に、私自身も数えきれないほど「売れないもの・使われないもの」を作りました。

「売れないもの・使われないもの」を作り過ぎた結果、「作る」ことに対して異常なまでに慎重になりました。エンジニアとして「作る」ことが仕事であるにも関わらず、「これって本当に作るべきものなんですかね?」という問いを突き詰めて行った結果、自分の仕事(「作る」こと)をなくしてしまったことも数知れず。そのくらい、「売れないもの・使われないもの」を作ってしまうことはありふれていました

そういった経験の反動もあって、多かれ少なかれ「必ずニーズがある」かつ「流通の仕組みが整っている」農作物は自分にとって非常に魅力的に見えたのです。

その後農業について色々と調べていく中で、農業の「儲からなさ」はかなり見えてきましたが、とはいえ、上記の「作れば売れる」という根本的な部分の魅力は依然として自分の中に残っています。

最後に

といったように、農業に対する解像度は極めて粗いままに「農業をやろう」と思い立ち、今は色々と農業について調べたり、人に話を聞いたりして調査を進めています。

その過程でわかってきたことは、農業で他業種と同じような労働生産性を実現する(=従業員に平均程度の給与を払って、かつ利益を残す)ことは思ったよりも難しそうだということです。

しかしながら「それでもやりようはあるだろう」とも思っていますので、前職で培ってきた知恵と経験を活かして、まずはやっていき。


いいなと思ったら応援しよう!