P&G、楽天、 Facebookで学んだ「人を動かすプレゼン十則」
こんにちは。長谷川 晋です。
今回は「人を動かすプレゼン十則」についてお伝えします。
メーカー、テック企業、グローバル企業、日本企業、マーケティング、経営など20年以上にわたり、様々な組織でいろんな役割を経験し、試行錯誤した末に実践しているプレゼン自分ルール十則です。
なので、環境や立場に関係なく「人を動かす」プレゼンのなんらかのエッセンスが、ある程度は集約されていると考えています。
組織の巻き込みに課題を抱えている、プレゼンが上手くいかない、そんな悩みを持った方々に少しでもお役に立てれば嬉しい限りです。
さて、「人を動かすプレゼン十則」は前回のnote「正解を探すより、腹を決めよう!」の続編になります。「ビジネスの戦闘力」について体系的に理解をしたい方は、ぜひ前回のnoteにも目を通してください。
おさらいですが、私は「ビジネスの戦闘力」を次の公式で表現しています。
ビジネスの戦闘力 = 腹を決める x 巻き込む + 段取る
今回のnoteは「巻き込む」について深掘りになります。それでは始めていきましょう!
結論|人を動かすプレゼン十則
さっそく結論を提示しますが、私のP&G、楽天、Facebookでの試行錯誤の経験から導き出した「人を動かすプレゼン十則」はこちらになります。
第一則|想定オーディエンスは1人に絞るべし
第二則|プレゼン前後の感情・行動の変化を明確にすべし
第三則|キーポイントは3つに絞るべし
第四則|スライドの枚数を先に決めるべし
第五則|スライド構成を紙に書くべし
第六則|最も重要なキースライドに魂を込めるべし
第七則|何を捨てるかをシビアに判断すべし
第八則|リハで緊張しなければ、リハになってないと心得るべし
第九則|スライドを読む = オーディエンスは寝ると覚悟すべし
第十則|プレゼンは演じるべし
第一則|想定オーディエンスは1人に絞るべし
まず最初にやるべきことは誰に対してプレゼンを行うのか、オーディエンスを考えることです。
P&Gで働いていた時、よく言われたのが「オーディエンス アナリシスはしたのか?」でした。自分がプレゼンする相手はどんな人なのか、どんな関心事を持ってるか、を事前に把握してるかを何度も確認されました。
具体的には2つのコツがあります。
<コツその1:無理やり絞る>
たとえ大多数に向けてのプレゼンでも、無理やり1人にメインのオーディエンスを絞ってください。ボヤッと不特定多数のままだと、彼ら・彼女らが何に興味を持っているか具体的に思い描けないので、効果がありません。
オーディエンスの絞り方は、
- キーマンが決まっる場合:簡単です。そのキーマンをロックロンすればOKです。
- キーマンが決まっていない場合:オーディエンスの中で、自分が一番動かしたい人に絞り込む。幅広い層に対してプレゼンをする場合、多くのバラバラのニーズを全て満たすことは現実的ではありません。であれば、自分の意思で絞ることがオススメです(そして、経験上そのように絞って尖ったプレゼンの方が結果的に幅広い人を動かすことも多いです)。
ちなみに、私はトレーニングなどのプレゼンを行う時は、事前に期待するオーディエンスは、こういう人ですと伝えるようにしています。逆に言うと、そのオーディエンスに当てはまらない人は参加する必要がないということです。前もってオーディエンスの期待値を告知することで、お互いに貴重な時間を無駄にしないようにしています。
<コツその2:繰り返し言うことを逃さない>
オーディエンスの関心事を把握するのは、実際にやるのは難しいもの。そこでオススメな方法は、その人が繰り返し言うことを捉えること。人は関心を持っていることを無意識のうちに何度も言ってしまいがちです。オーディエンスの絞り込みで設定した人が何をよく言っているか、様々な会議を通して共通の質問をしていないか、アンテナを張るように心掛けてください。
第二則|プレゼン前後の感情・行動の変化を明確にすべし
第二則では、プレゼンをすることでどんな感情・行動を期待するかをクリアにします。ここもコツが2つあります。
<コツその1:Pre / Postで考える>
1人に絞り込んだオーディエンスがプレゼンの前 (=Pre)にどういう感情を持ち、どんな行動を取っているのか、とプレゼンを聞いた後 (=Post)にどういう感情になって、どんな行動を期待するかをクリアにする。特にPostについては、オーディエンスがプレゼンのどんな点に興味を持ったのかを入れ込みましょう。
<コツその2:主語はオーディエンス>
Pre / Postの感情と行動の変化を考えるとき、必ず主語は設定したオーディエンスにし、そのオーディエンスが実際に使いそうな言葉で記載してください。あなたのプレゼンを通して、最終的にオーディエンスに行動を取ってもらうことが目的なので、主語は自分ではなくオーディエンスになります。
ここで、感情・行動変化の良い例とダメな例を記載します。
クライアントの部長に新しいサービスのプレゼンをする場合を想像してください。
良い例|オーディエンス目線
Pre:正直この新しいサービスのことよくわからないし(チームからも聞いてないし)、現サービスでままでいいかな。
Post:なるほど!新しいサービスに変えたらコストが半分になるのか!今期中に導入できるように次の社内会議でチームに伝えなきゃな。
ダメな例|自分目線
Pre:今期の売上目標が足りない。ギャップを埋めるためにプランを追加しなくちゃいけない。
Post:新サービスを次のクライアント打ち合わせで導入させ、売上目標を達成する。
第三則|キーメッセージは3つに絞るべし
第三則は、設定した1人のオーディエンスに対して、期待する感情・行動の変化を起こすために、どんなキーメッセージを発するべきかを考えるパートです。
私はどんなに多くても3つに絞るべきだと考えています。このキーメッセージのことを伊藤羊一さんの著書『1分で話せ』ではプレゼン全体の要旨を包み込む「超一言」、また澤円さんの著書『世界No.1プレゼン術』ではプレゼン全体の世界観やメッセージが伝わる「核」と表現されています。
ここで、オーディエンス、感情・行動変化、キーメッセージの参考例を1つ見てみましょう。オーディエンスを1人に絞り、期待する行動を明確にすることで、プレゼンの肝となるキーメッセージに繋がっていくことを感じていただければ嬉しいです。
第一則|オーディエンスを1人に絞る
数ヶ月前に入社したばかりの新入社員Aさん(プレゼンは新入社員50名ほどに行いますが、想像しやすいように1名に絞ります)
第二則|プレゼン前後の感情・行動の変化
- Pre: 俺は外向的で学生時代サークルとかバイトでコミュニケーションで悩んだことないし(むしろ得意)、社会人になってからも大丈夫でしょ。
- Pos: このままのコミュニケーションしてたらまずい!短くシンプルに。結論から言えるように心掛けなきゃ。
第三則|キーメッセージ3つ
i. 学生と社会人のコミュニケーションスタイルの違い
ii. なぜその違いが起きるのか
iii. じゃあ具体的に社会人はどういうコミュニケーションを取るべきなのか
ここまでお伝えした内容をまとめると、どのような興味関心を持った人にプレゼンを行い、プレゼン後にどんな行動変化を起こしたいか、そしてそのために伝えるべきキーメッセージを3つに集約する、ということです。
当たり前だろと思うかもしれませんが、意外と出来てないこと多いです。時間がない中で、プレゼン資料を完成させなきゃと焦る。前提条件をクリアにすることなく、すぐにパワポを触り始める。結果途中で進まなくなり、何時間もパワポを開いたままになっている。
「あ、ヤバい。明日プレゼンなのに全然終わってない。。。(前日深夜)」
断言します。第一、二、三則が明確になるまでは、「1秒」たりともパワポを触ってはいけません。このやり方が最終的な作業時間が短くなりますし、プレゼンの内容も断然良くなります。
第四則|スライドの枚数を先に決めるべし
第三則まで決まったら、私は先にスライドの枚数を決めることにしています。通常のプレゼンであれば1スライド = 1-2分と決めているので、自分がプレゼンする時間から逆算して先にスライドの枚数を決めるようにしています。持ち時間が30分であれば一旦20枚でやってみようという感じです。
枚数を先に決めるメリットはたくさんあります。そもそも時間に対してあまりにも枚数の多すぎるプレゼンは、重要なポイントが埋もれてしまい、オーディエンスの頭に残りません。また、時間が足りないので誰も咀嚼できないスピードでひたすらスライドを進めるという事態が起こりがちです。
もう1つのメリットは「重要なポイントにスライドの枚数と時間を配分できる」ことです。第三則で述べたキーメッセージを3つのポイントに絞れていれば、それをしっかりと説明するためのスライドの配分を予め決めることができます。
最後に、先に枚数を決めることで、散々時間を使って超大作のパワポ資料を完成させた後に、持ち時間に対して現実的でないことに気づき、後から泣く泣くスライドを削るという無用な手間がかかることも防ぐことができます。
以上、メリットだらけの「スライドの枚数を先に決める」という手法ですが1つ注意点があります。それは「1スライドあたりの時間は、プレゼンをする環境や内容によって変わる」という点です。
私は比較的1スライド = 1-2分でプレゼンをする機会が多いですが、楽天時代、全社会議でプレゼンしていた頃は会社全体の会議のリズムが非常に早いのでこれだと遅すぎます。1スライド = 20-30秒くらいでやっていました。
一方で、少し感情に訴えかける内容やユーモアを交えたカジュアルな内容の時は、オーディエンスの反応を見ながらゆとりを持って進めたいので1スライド = 2分以上取ります。
自分が心地よく話せるスピードも人それぞれだと思いますので、自分なりのベストな1スライドあたりの時間を見つけていただくことがオススメです。
第五則|スライド構成を紙に書くべし
スライドの枚数が決まったら、それに合わせてスライドの構成を考え始めます。まだパワポは触りません!私の場合はオールドファッションですが、紙とペンを使って、スライド全体のフロー(役割・順番・枚数)と各スライドのタイトル・キーメッセージを下書きします。
こちらは私が過去に行ったスライド構成の実物になります。
いかがでしょうか?けっこう雑だなと思われた方もいらっしゃるでしょう。けど、このレベルで良いんです。このステップでは、素敵なスライドを作ることが目的ではなく、スライド全体の流れがどうあるべきか、各スライドのキーメッセージを一言でどう落とし込むべきかを筋書きすることこそが目的です。
第六則|最も重要なキースライドに魂を込めるべし
全体のフローだけでなく「キーとなるスライド」についてしっかりと考え抜きます。私の経験上、人が1時間のプレゼンで人が覚えているのは、2-3枚のスライド = 2-3つのキーメッセージだけです。
であれば、そのキースライドについては、最もパワフルで印象的なものになるように魂を込めるべき。コツは言葉だけでなく、ビジュアルの使い方です。言葉だけだと理解しづらいものを、写真、図、グラフなどを活用することで、オーディエンスがイメージし易く、結果として記憶に残るように工夫しましょう。
私がキースライドを考えている過程の下書きの実例をお見せします。どんなビジュアルを見せたら効果的かを考えているところです。
第七則|何を捨てるかをシビアに判断すべし
構成が出来たら、ようやくパワポを開いて、スライドを作り始めしょう。ただ、詰め込み過ぎには要注意!伊藤羊一さんの著書『1分で話せ』でも、人は80%話を聞いておらず、「スッキリ・カンタン」な言葉選びやスライド構成が必要だとおっしゃられています。
情報が多すぎると、以下のようなデメリットが考えられます。
- 最も伝えるべきキーメッセージが埋もれてしまう
- 1枚あたりの時間が減る
- プレゼンの目的が「なんとか最後までたどり着く」に
- 押し付けがましくなる
- 遊びがなくなる
なので、スライドに情報として「何を入れるか」と同じくらい「何を落とすか」をシビアに判断します。
第八即|リハで緊張しなければ、リハになってないと心得るべし
さて、スライドが完成しました。ここで満足してプレゼン当日を迎えるわけにはいきません!私はリハーサルが命だと本気で考えています。
澤円さんの著書『世界No.1プレゼン術』の中でもリハの重要性が説かれています。リハを通して、自分が無意識でやっている動きや言葉に気付き、それらを意識してマネジメントできるようになることで、自分のイメージする姿に近づけるとおっしゃっています。
私がリハを本気でやるようになったきっかけは、P&Gに入社して一年目の時「プレゼンの神」と呼ばれていたアメリカ人のGeneral Managerが朝早く、誰もいない自分の部屋で声を出してプレゼンの練習をしている姿を見てからです。「プレゼンの神ですら声を出して練習している。」「神でもない平凡な自分がサボったり、声を出すことを恥ずかしがっている場合じゃない!」と吹っ切れました。以来、本番以上の本気度でリハをやります。
リハでやる事リストは以下の通りです。ポイントはプレゼン本番のごとく「超リアル」にやること。緊張しなければリハではないと思っています。緊張する仕組み作りとしてリハの様子を録画するのをお勧めしてます。
- 当日と同じ部屋(無理ならば似ている部屋)
- 時間
- 声の大きさ・スピード・トーン
- 立ち位置
- 表情
- 間の取り方
- スライドとスライドの繋ぎ
- オーディエンスとの絡み方
リストの中で忘れがちなのは「スライドとスライドの繋ぎ」と「オーディエンスとの絡み方」です。
「スライドとスライドの繋ぎ」
リハで各スライドの内容をスムーズに喋る練習はすると思うのですが、各スライドをどう繋いでストーリーを作っていくかでオーディエンスの巻き込み力は変わります。皆さんがプレゼン上手いなって人の動画を見返してみてください。必ずスライドの間を上手に繋ぐストーリーを入れているはずです。
「オーディエンスとの絡み方」
オーディエンスを飽きさせないプレゼンをするには、一方的に話すのではなく、所々でオーディエンスに問いかけ、双方向のコミュニケーションを意識すべきです。これを本番で上手くやるためには、「このスライドでこの人にこうやって話を振ろう」「おそらくこんなリアクションが来るから、こういう回答を用意しよう」のようにセルフリハをする。本番で実際にオーディエンスが入ると緊張しがちですが、リハすることで緊張も和らぐと思います。
第九則|スライドを読む = オーディエンスは寝ると覚悟すべし
スライドの内容を読むという行為は絶対に止めるべき。理由はシンプルで、オーディエンスが目で読むスピード > 自分が口で説明するスピードだから。既に読んだ内容と同じ内容を聞かされたら、そりゃ退屈ですよね。退屈になると、オーディエンスはスマホをチェックしたり、眠くなってきてプレゼンに集中することが難しくなります。この状況を避けるためには、スライドにはキーメッセージやビジュアルだけを残し、口頭でそのスライドを補足していくべきです。
私はあえて、大事なことをスライドには書かないということもやります。そして口頭で「これはスライドには書いてないのですが、非常に重要なポイントです。」と前置きをした上で話すことで、皆さんにしっかりと聞いてもらったり、ノートに書いていただくことで理解していただくことがあります。
第十則|プレゼンは演じるべし
プレゼン当日は、ぜひ俳優や漫才師になったとつもりで情熱を込めて演じきってください。
日本人は苦手な方が多いと思います。ただ、何度も申し上げている通り、プレゼンの目的はオーディエンスの行動変化を起こすこと。また、冷静にプレゼンの時間は多くても1時間くらいです。プレゼンの後の始まる何ヶ月単位のプロジェクトの成功を考えたら、オーディエンスの行動を引き起こすために1時間は頑張って演じきりましょう!
ここで2つプレゼンの例を紹介します。何度も見ても勉強になるプレゼンの教科書です。
1つ目は非常に有名なSteve JobsのiPhone発売のプレゼン。スライドはシンプルな構成で、喋りでストーリーを語り、オーディエンスを熱狂させた最高にカッコいいプレゼンです。
もう1つ目は、ジャパネットたかたの高田社長のプレゼン。何がスゴイって、売り込んでいる商品が「水」です。水をここまで魅力的にプレゼン出来る人は日本にはいないんじゃないかと思わせるほどの圧巻のパフォーマンスです。
最後に
最後になぜこれほどまでプレゼンの伝え方を工夫するべきなのか、その理由を簡単にお伝えします。
プレゼンを聞いて感情が高ぶり行動したい!と思わせる量をアウトプットと定義した時に、アウトプットは以下の掛け算で表現できます。
アウトプット = 知っていること x 伝え方
いくら知っていることが多くても、伝え方をミスすると、アウトプットの量が小さくなってしまう。つまり、プレゼンの中身(=知っていること)が素晴らしくても、その伝え方が良くないと期待する行動変化を起こせないんですね。だからこそ、伝え方には細心の注意を払うべきなんです。
もう1つの理由は、そこまで工夫すると、やっぱり覚悟や想いがオーディエンスに届くから。精神論的な話かもしれませんが、私はこのポイントは重要視しています。「この人のプレゼン、なんかすごい熱量だ」って感じると、自然と惹き込まれ、感情が揺さぶられ、結果として行動を起こしてしまうものです。
長くなりましたが、以上が「人を動かすプレゼン十則」でした。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
また、日々Twitterを通してビジネスリーダーの方々が「#ビジネスの戦闘力」を上げる情報を投稿してます。宜しければ、@ShinHasegawa8を覗いて、フォローしたり周りにオススメいただけると大変嬉しいです。
最後の最後に、今回のテーマであるプレゼンに関連したオススメの本を紹介します。ぜひ読んでみてください!
では、また次回のnoteでお会いしましょう。