「〇〇(地元)は良いところ」は誰目線での「良いところ」なの?
今回は私の地元である長崎県の「対馬」についてマーケティングトレースを行います。
ちなみに対馬がどこにあるかというとこちら。
さらに拡大。
知らない方のために説明すると、対馬は九州の北部、韓国との国境付近にある島です。
通常であればマーケティングトレースを行うのは一般企業なんですが、今回は地元をマーケティングトレースすることにしました。
そのきっかけはこちらのニュースです。
1999年に対馬-韓国との間で定期船航路が開港して一気に韓国人観光客が訪れるようになりました。
その数は年々増え続け、昨年だけでもおよそ40万人に上ります。
島民の人口が約3万人のためおよそ13倍の人が韓国からやってきます。
出かけると行く先々で、韓国人の方が大所帯で観光バスに乗り、対馬中を観光している状態です。
しかし、最近の日韓関係の悪化やウォン安の影響もあり、韓国人観光客が激減しているとのこと。
そこで感じたことが3つ。
・果たして対馬を「観光地として客観的に見た時」に他の観光地に負けない魅力的要素はどのくらいあるのか
・島民や出身者が言う「対馬はいいところ」は誰目線で「いいところ」なのか
・マーケティング視点で考えると、対馬がこれからやるべきことは何か
これらを考えた時にマーケター視点で、実際に対馬を調べてみることにしました。
まずは、すでにお伝えはしておりますが、ざっくりと対馬の概要から。
対馬について
・韓国に近く「国境の島」と言われている
・人口は3万1,010人
・日本書紀にも登場する古くからの歴史ある島
・対馬(厳原港、比田勝港)ー韓国(釜山港)の定期船航路開港(1999年)により韓国人観光客の増加
【対馬の主な歴史の数々】
・竜宮伝説
・平安時代に敵船か交易船かを見極めた防人たち
・鎌倉時代の蒙古襲来における蒙古・高麗軍の大軍との壮絶な戦
・江戸時代まで続いた朝鮮通信使や国書偽装事件などの朝鮮半島島との古からの交流
・日露戦争でバルチック艦隊と激突した場所
実は知られていないだけで、各時代において日本の歴史でも重要な役割を担ってきた土地でもあります。
島民さえこれらの歴史はなんとなくはわかっているけど、、、といったようなレベルです。
歴史好きの人からすると非常に魅力ある島らしく、島を出てから実際に知人から羨ましがられたことは何度かあります。
さて、ここから本格的に対馬をマーケティング視点で見ていきます。
顧客セグメント
・年間40万人もの韓国人観光客(観光客全体の8割を占める)
・残り2割の歴史、自然が好きな国内外の観光客
ここ20年は韓国からの観光客で潤っていました。
しかし、冒頭に挙げたここ最近のニュースからわかる通り、7月以降はかなり苦戦して、県からの支援も出ている状態です。
さらに対馬を知るために分析していきます。
3C分析
Customer【市場・顧客】
・8割が韓国人観光客
・残りの2割が国内外の対馬の自然や歴史に興味を持った観光客Competitor【競合】
・ユーザー視点から同等レベルに感じる自然や魚介類が豊富な近隣エリア
・格安航空が利用できるエリア
Company【自社】
・国境の島として韓国に一番近い
・古くからの歴史の数々
・北海道を除く漁獲高全国一位の長崎県内随一の漁獲高を誇る
※参照:対馬の魚介類図鑑
PEST分析
Politics【政治】
・韓国を輸出管理のホワイト国から除外、GSOMIAの破棄通告による日韓関係悪化やウォン安
Economy【経済】
・2019年上半期国内観光客の消費額は10兆1,110億円 ※観光庁調査
・2019年上半期外国人観光客の消費額は2兆4,326億円となり過去最高 ※観光庁調査
Society【社会】
・旅行代理店発信でなくてもSNS上で今までに見たことがない旅先での疑似体験が可能
・近隣エリアでも楽しめる情報が詰まったメディアが乱立して選択肢が増加
Technology【技術】
・格安航空や翻訳機、スマートフォン普及による海外旅行の簡易化
・地球全土でからネットを通して旅行の疑似体験が可能のため比較対象が膨大
5Forces分析
新参者の脅威【上】
・なるべくお金をかけずに、もしくはお金をかけてでも体験できることがユーザーの近隣エリアで構築される
買い手の交渉力【上】
・歴史や名産品は知ればその特殊性を感じ取ることができるが、知らないユーザーに関すればその他一般と同じ立ち位置となる
代替品の脅威【上】
・歴史背景以外では対馬の魅力を与えることができる「魚介類」や「自然」はほとんどがユーザーの近隣で解決できる
売り手の交渉力【中】
・強みを持っている歴史背景、魚介類、自然は「正しく最適な形でユーザーに届ける」ことさえできれば差別化できる
業界内の競争【上】
・旅行単価はここ数年は四半期ごとに上がってきているものの、比較サイトの乱立によりユーザーの選択肢が増えたため、各旅行先の魅力がユーザーまで届くことが難しくなった
※参照:日本人国内旅行消費額(観光庁データ)
SWOT分析
Strength【強み」
①歴史、魚介類、自然などまだまだ知られていない観光資源の魅力が多い
Weakness【弱み】
①福岡と長崎以外からだと直通便がないため乗り継ぎのため旅費と手間がかかる
②ひとえに「歴史」「魚介類」「自然」など観光資源をセグメントで分けても、その土地ならでは魅力や体験が伝わらない限り「その他一般」と同等になる
Opportunity【機会】
①航路の手間をかけてでも行きたい魅力を感じさせる
②リピート顧客を増やしていくために、「また行きたい」「行かないといけない」と思わせる
Threat【脅威】
①観光客の減少などによる市自体の経営破綻の可能性
②人口減少と高齢化による市の島民支援増加により観光資源の投資コスト削減
クロスSWOT分析
もし、自分が対馬のCMOになったら
強み×機会=①×①②【積極化戦略】
・対馬の名産品が直接ユーザーに届くようなECサイトを再構築する
・名産品を作る人達の想いや住人の空気感が伝わるようなメディアを構築する
ex)オウンドメディアで紹介する
ex)YouTubeなどの動画でプロモーション
※回転式イカ干し機の動画で住人の空気感を伝える
・旅行代理店やウエディングプランナーと協業して、過去にないユーザー体験ができる内容を作成する
ex)イカ釣り漁船の同乗体験
ex)対馬縦断自衛隊訓練疑似体験
ex)スキューバダイビング挙式、登山挙式
どこかで見たことあるような単なる紹介メディアではなく、「島民の生活を身近に感じるもの」、または「外部から見た時に不思議な習慣」などを紹介することで、対馬を身近に感じて愛着が湧いてくれるのではないかと考えています。
そして、メディアを更新し続けることで、一度訪問したユーザーに対しても「また来たい」と感じてもらうように、また新たな情報を与えていきます。
強み×脅威=①×①②【差別化戦略】
・漁獲できた魚介類を都会の高級レストランなどと直接取引ができる販路を拡大していくことで漁師の収益を上昇させる
・UターンやIターンの支援を積極的に行い、島外移住者を受け入れる体制を整える
・企業誘致を積極展開する
・在宅可能企業で対馬に住みたいと考えている人たちを受け入れられる体制づくり
ex)イメージは和歌山県の白浜
弱み×機会=①②×①②【段階的戦略】
・最寄りの空港から対馬空港まで年間で乗り放題のサブスクリプションモデルを形成する
・東京からの直行便を提案して、直行の条件を達成するためのフェーズごとに切り分けて目的へ向かう体制づくり
・観光客と島民が交流することで双方にメリットが生じる施策を展開する
弱み×脅威=①②×①②【専守防衛・撤退】
・地方産業について実績がある顧問をつけることで、現在のリソースから住民のアイディアが広がる環境づくり
・自営業でも無理なく生活できるモデルケースを作成して、気軽に相談できる窓口を設置する
私のやりたいことのひとつに「地元に貢献する」ということがあります。
いま対馬の状況は決して明るいものではありません。
しかし、その打開策の大きな解決策としてマーケティングが含まれているのは確かです。
例えば、いくらプロモーションを打ったとしても、伝えるべき人に伝わらいと無駄なコストが生じ、改善策も見つけられないまま財政が疲弊するようなまさに火の車状態が続くことになります。
それを防ぐために、まずは全く無関係の人から「対馬を選ぶ決定的理由」から洗い出さないと、ユーザーに届きません。
さらには、仮に一度来てくれたとしても、「また来たい」と思わせる何かを与えていかないと一時的な成果でしかなく、かけた投資も回収できません。
そういった本質的な課題を解決できずに、また一回きりの訪問をしてもらうために様々な施策を展開して、投資額を回収できずにコストのみが消えていきます。
それは観光業にとどまらず、島内に住んでいる人、住みたいけど仕事がないため住む選択肢がない人が、安心して住むためにはどうすればいいかというアイディアも然り。
全てがマーケティングで解決するとは思いませんが、収益を生むための最適なソリューションを生み出すマーケティングは、地方が潤う大きなヒントとなりえるはずです。
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