スティーブンショアのモダンインスタンスModern Instances
「ためになるものへの警告」と僕は読む
スティーブン・ショアは写真家としてはもう巨匠なのだが、アメリカの今の若い人たちにとっては大学の先生の一人だと思っている人もいるかもしれない。僕ら写真集好きにとっては、もうこれまでの素晴らしい写真集の数々でも圧倒されてきたのに、未だ精力的に撮影を続けている憧れの写真家のひとりだ。最新刊の写真とエッセイの組み合わされた「Modern Instance」というタイトルの本は、多くある写真について書かれた本の中でも僕にとってバイブルの一冊になりそうな予感だ。
冒頭にはチェスの世界チャンピオンの「戦術のみに頼るもののイマジネーションは弱くなる」的な言葉で始まるように、この本は「読めばためになる」ものを否定することから入っている。そして追い討ちをかけるように、ロバート・アダムスの著作「why people photograph」で書かれた一部分を紹介し、ショアのこの本が、ためになることを求める人のものではないことを伝えている。それはこういうエピソードだ。詩人フロストが彼の詩のある部分の意味を教えてほしいという質問者に対して「君はこれがためになると言って欲しいのかい」と答えたというのだ。
また別の部分では、エグルストンやフリードランダーが自らの写真の説明を求められたときに直接の返答をしない例を挙げ、ためになる言葉への警告を促している。
この最初の数ページだけで勇気づけられる写真家達はおおいことだろう。僕もその1人だ。あまりにも今の世の中が、何かしらの価値、特に分かりやすく得られる知識を求め過ぎていると感じている僕に救いを与えてくれた。もちろん自分の写真を説明しないことは怠惰だと思われてしまうかもしれない。しかし自分の撮った写真について言葉を使って考えないことは怠惰だが、その写真があたかも多くの人に価値をもたらすようなもののように説明を加えるのはしてはならないようなことな気がする。
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若木信吾の「つかずはなれず」写真講座
写真家の若木信吾です。 写真に関するあれこれです。写真家たちのインタビューや、ちょっとした技術的なこと、僕の周辺で起こっていること、それら…
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