Episode #4 幽霊の写真
2019年は井上円了先生a.k.a妖怪博士の没後100年だったそうだ。この写真を撮ったのはその10年前の2009年のこと。井上円了先生が中野に作った哲学堂というものがあって、その入り口は哲理門という。その哲理門の両脇には木で作られた幽霊と天狗の像が奉納されている。現在はレプリカに変わってしまっているが、僕が撮った当時は結構痛んだ状態であったが、オリジナルが置いてあった。
円了先生は明治の頃、今では迷信と呼ばれる多くのオカルト的な出来事を、X Filesばりに科学で解決しようとした人物だ。天狗と幽霊に関しては、天狗が物質界、幽霊が精神界を表しているという。研究に大事な事柄がふたつ、天狗になるな、そして幽霊になるな、つまりミイラ取りがミイラになってしまわないよう、心がとらわれてはいけないという戒めもあったという。
もともと水木しげる先生の「神秘家列伝」で円了先生のことを知ったのだが、人より異常現象と向き合う機会が多いから、その中にはどうしても科学だけでは解明できない出来事や事件に遭遇しているはずだ。だからこそ、この戒めが生きてくるのだと思う。実際哲学堂というものを作るあたりもアンチオカルトというか、真理の論理を研究するというバリアで、世の中のXFilesから身も心も守らなければならなかったのだろう。
この時は8x10とライカで撮影している。8x10で撮ったこの写真は、プリントして額装もして、哲学堂公園の管理事務所に納めさせてもらった。実はの経緯にはもうひとつ別の理由があった。尊敬する写真家、高橋恭司さんが以前、彼の実家のある益子に連れて行ってくれたときのことだった。益子には西明寺という、有名なお寺があるのだが、そのお寺は山の中に建てられていて、入口から延々と本堂まで石の階段が続いている。その本堂の一段下に閻魔堂というものがある。格子の隙間から覗くと大きな閻魔大王の像が鎮座して上から見下ろしている。その脇に脱衣婆の像がある。三途の川では衣服を剥ぎ取る婆さんがいるらしいのだが、その婆さんの像だ。しかしのぞいてもなかなか見づらい位置にある。メインが閻魔さまだから仕方がない。高橋恭司さんはその脱衣婆の像の写真を撮らせてもらったことがあって、その写真は額装されて、お守りなどが売っている階段入り口の事務所に飾ってある。「階段を登るのが大変な人もいるだろうから」と恭司さんは言っていたが、その写真は実物よりも凄みがあると思う。どうしてそうなるかはわからない。写真とはそういうものなのだ。
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若木信吾の「つかずはなれず」写真講座
写真家の若木信吾です。 写真に関するあれこれです。写真家たちのインタビューや、ちょっとした技術的なこと、僕の周辺で起こっていること、それら…
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