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【ロマンチック】半分愛してる
人類の多くがゾンビになった世界で、イケメンな半ゾンビの男と出会ったローリー。
彼は人間なの?ゾンビなの?
言葉は通じないけど強く優しくイケメンな彼に、ローリーの心は揺れる。
時には命がけの逃走劇、時には息詰まる死闘。
でも、彼の隣にいるとこの終末世界も悪くないかも。
たとえ会話が通じなくても、心は通じ合える。
世界の終わりに咲いた衝撃のサバイバル・ラブコメディです!
*************
▶ジャンル:ロマンチック
▶出演
ローリー:岡田陽子
ハーフゾンビ:二瓶無我
▶スタッフ
原案:斎藤充崇
作・演出:山本憲司
プロデュース:田中見希子
『半分愛してる』シナリオ
登場人物
ローリー(35) アメリカ人女性
半ゾンビ(40) 男性
ローリー「はあ、はあ、はあ(走っている)」
女ゾンビ「ガゥルガゥルゥー」
ローリー「あ!(捕まる)キャーッ! この! この!(枝を振り回す)」
枝が折れる。
ローリー「あ!」
女ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「いやーっ! やめてーっ!」
女ゾンビ「ガゥルゥ! ガゥル!」
ローリー「いやーっ! やだ! ちょっと! や、め、て、よ!(必死の抵抗)」
銃声!
ドサッと倒れる。
ローリー「え?(振り返って)あ、ありがとうござ……(言いかけて)」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「キャー!」
半ゾンビ「ガゥル! ガゥルガゥルガゥルゥゥ」
ローリー「あなた、人間じゃないの? ゾンビなの?」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥルゥゥー」
ローリー「いやーっ! 触らないで!」
半ゾンビ「ガゥルガゥルゥゥー」
ローリー「ちょ、ちょっと、やめて! やめてって!」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「人間なんでしょ? ゾンビじゃないよね!」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「やっぱりゾンビ?」
半ゾンビ「ガゥルガゥルー」
ローリー「見た目人間じゃない! どっち!」
半ゾンビ「ガゥルガゥルー」
ローリー「あ、でも助けてくれたんだもんね。人間か!」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「いや、でも」
半ゾンビ「ガゥル?」
ローリー「なんで? 喋れないの?」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「ねえどういうこと? ゾンビなの? 人間なの? でも、いま銃撃って助けてくれたよね。ゾンビにそんなことできないよね」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「私の言葉、わかる?」
半ゾンビ「ガゥルゥゥ」
ローリー「わ、か、る、ん、で、す、か?」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥルー」
ローリー「それとも、わ、かっ、て、な、い、の?」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「どっちよ!」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「でも、少なくともこの女ゾンビを撃って私を助けてくれたってことは……私を食べようって意思はないんだよね」
半ゾンビ「ガゥルー」
ローリー「うーん、わかんないけどたぶん、イエスって言ったんだよね」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「ありがと。あなたは命の恩人よ。私はローリー。よろしくね」
半ゾンビ「ガゥル」
× × ×
ローリーM「世界の崩壊が始まってすでに二年。人類の多くがゾンビと化したこの広いアメリカ大陸で、故郷のジョージア州を出て軍の施設があると噂されるワシントンDCを目指していた最中に、見た目は人間なのに中身はゾンビのようなゾンビでないような不思議な男と出会った。ゾンビとなった家族を自分の手で殺し、孤独ですさんでいた私に、彼は一時のやすらぎを与えてくれた」
焚き火。
ローリー「食べる? 鳥」
半ゾンビ「ガゥルゥゥ」
ローリー「上手いでしょ、さばくの。昔はニワトリの首をへし折るなんて死んでもできなかったけどね。必要ならできるようになっちゃうもんだよね」
半ゾンビ「ガゥルゥゥ」
ローリー「いらないのね。あなたもしかしてお腹すかないの?」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「それともすくの?」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「うーん、どうやったら話が通じるんだ」
地面に書く音。
ローリー「ん? ワイ……イー……エス。イエスね。言葉通じてるんだね!」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「でも一言にこんなに時間かかるんじゃコミュニケーションは難しいな……」
半ゾンビ「ガゥルゥゥ」
ローリー「なんか簡単なやつ……そうだ! イエスなら一回、ノーなら二回。そうしない?」
半ゾンビ「ガゥ?」
ローリー「じゃあまず。鳥を食べたいですか?」
半ゾンビ「ガゥル。ガゥガゥガゥル」
ローリー「どっちよ」
半ゾンビ「ガゥルー」
地面に書いていく。
ローリー「アイ……ド、ン、ト……ケ……ア……。どっちでもいいの? そっか。そういう答えもあるか……」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「その一回はイエスの一回?」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「そうなんだな。じゃあー、私を食べたいですか? なーんて」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「エッ?」
半ゾンビ「(焦って)ガ、ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「エッ? エッ,エッ、エッ、私を食べたいと思ってるの?」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「どっちよ!」
半ゾンビ「ガゥルガゥル」
ローリー「ノーだよね」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「えー? それイエスじゃない!」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥルゥゥー」
ローリー「わかんないって!」
半ゾンビ「ガゥル……」
ローリー「落ち込まなくていいから」
ローリーM「二、三日かかって彼から聞き出したことは、どうやらこの人は百パーセントゾンビなのではなく、半分だけゾンビなのだということだった。ウイルスが全身に回る前に噛まれた腕をきつく縛ったおかげで、人間の意識を保っているという。シャツに縫い付けられていた名前から、私は彼をシェーンと呼ぶことにした」
夜の虫の音。
ローリーM「しかし、夜中にふと目を覚ますとシェーンがじっと私を見ていることがあって、その時はゾッとする。ゾンビは寝ないらしいが、彼は半分人間なので、夜は夢うつつの状態のようだ。でも、本性というのはそういう時に出るものだ。ほんとは私を食べたいと思ってるんじゃないかということもたびたびある」
ローリー「(目覚める)ハッ……今見てたでしょ、シェーン」
半ゾンビ「ガゥルガゥル……」
ローリー「ほんと?」
ローリーM「でも、一番困ったことは、彼が私好みのイケメンだということだ。彼は私がほかのゾンビに襲われそうになっても、噛みついたり殴り殺したりして私を守ってくれる。彼は半分ゾンビだからか、彼自身が襲われることはないのだ」
焚き火。
ローリー「今日も結構歩いたね、シェーン」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「(地図を広げ)見て。ワシントンDCまであともうちょっと。ゾンビの大群を避けるためにだいぶ遠回りしちゃったけど……」
半ゾンビ「ガゥル……」
ローリー「でも、がんばろ! きっとワシントンDCに着けば医者がいて、あなたのこと治療してくれる。人間に戻れると思う!」
半ゾンビ「ガゥル……」
ローリー「どうしたの? 人間に戻りたいんだよね、シェーン」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「そうね……たとえ医者に診てもらえたとしても、治るという保証はないよね。わかる。不安なんだよね、シェーン。でも、今は信じるしかない。きっと治るわよ」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「そしてあなたと話せることが私の夢なの。夢って言っちゃいけないな。目標。うん、目標だね。そのためにがんばってワシントンDCを目指そ!」
半ゾンビ「ガゥル」
× × ×
ローリー「(パッヘルベル『カノン』に乗せて歌う)
月明かり 揺れてる
想いだけ 募ってく
ゾンビじゃない 人間じゃない
触れたい あなたの手に
胸の鼓動 止まらない
ゾンビじゃない 人間じゃない
知りたい 瞳に映ってる私
教えて 心の中の気持ち
響け 愛しい声よ
届け声 あなたに
ゾンビじゃない 人間じゃない」
× × ×
ローリーM「ところが、何日もかけてようやく到着したワシントンDCは、すでに崩壊していた」
ローリー「うそ……うそだ……」
半ゾンビ「ガゥル……」
ローリーM「おそらく最近まで軍人や救出された人々が籠もっていたと思われる地域はバリケードが破られ、完全にゾンビたちの住処になっていた」
ローリー「(しくしく泣いている)」
半ゾンビ「ガゥル……」
ローリー「……ごめんね、シェーン。私が甘かったわ。ここからどこに行けばいいのかしら……もう、希望がなくなってしまったわ」
半ゾンビ「ガゥルガゥル……」
ローリー「(投げやり)こうなったらもうゾンビに食われていっそ死んじゃったほうがましよ」
半ゾンビ「ガゥル? ガゥル!」
ビンタ!
ローリー「エッ?」
半ゾンビ「ガゥル! ガゥルガゥルガゥルガゥルガゥルガゥルガゥル! ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「シェーン……」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥル! ガゥルガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「だって! だってしょうがないじゃない! 私だって生きたいよ! でも、じゃあどうしたいいのよ!」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥル!」
ドア、バタンと閉まる。
ローリーM「シェーンは何かを言い捨てるとこの廃墟を飛び出していった。ひとり残された私は、夕日に染まった崩壊したワシントンDCの街をぼんやり眺めていた」
瓶が置かれる。
ローリー「シェーン!」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「どうしたの? これ、どこで見つけたの? こんな高そうなお酒!(蓋を開けて)あ、まだ全然行けそう」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「さっきはごめんなさい。私、どうかしてた」
半ゾンビ「ガゥル」
ローリー「これからのことはまた考えよう。シェーンも一緒に来てくれるよね」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「ありがとう! 今日は飲もうね!」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー・半ゾンビ「(楽しげな笑い声)」
× × ×
ローリー「(目覚める)うーん……」
ローリーM「油断していた! 目を覚ますと、私たちはゾンビの大群に囲まれていた。シェーンが懸命に戦ってくれている。でも、ゾンビの量が尋常じゃない!」
ローリー「シェーン!」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「きゃー!」
ゾンビ達「ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「しまった……」
ゾンビ達「ガゥルガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「シェーン!!」
ゾンビ達「ガゥルガゥルガゥルガゥルガゥル!」
ローリーM「隙を見て窓をぶち破り、廃墟を抜け出した。けど……」
ローリー「はあ、はあ(走っている)」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「待って。もうついていけない」
半ゾンビ「ガゥルガゥル!」
ローリー「ここまでよ。私、噛まれちゃったから」
半ゾンビ「ガゥル!」
ローリー「え? 手遅れよ。もう遅いって」
半ゾンビ「ガゥルガゥルガゥル!」
ローリー「シェーン……」
ローリーM「シェーンは私の腕を取って、ヘビの毒を吸うみたいに噛まれたところから血を吸ってくれた。ああ、でも間に合わない。こんな形で彼との人生が終わるなんて……悲しい。彼と一度でいいから人間同士でおしゃべりしたかった……」
× × ×
ローリー「ハッ……」
ローリーM「シェーンが私を覗き込んでいる」
ローリー「……シェーン? ……私、生きてるの? まさか、間に合ったの?」
ローリーM「完全に死んだと思ってた。うそみたい。体が軽い」
ローリー「(起きようと)よいしょっ」
半ゾンビ「まだ、寝てたほうがいいよ。ローリー」
ローリー「エッ?」
半ゾンビ「傷がまた開いちゃうから」
ローリー「シェーン! 喋れるようになったの?(喜)」
半ゾンビ「僕の言葉、わかるのかい?」
ローリー「だって、今話してるじゃない!」
半ゾンビ「そうか……そうなんだ」
ローリー「シェーン、戻ったんだね!」
半ゾンビ「いや、違う……」
ローリー「え、何が? どういうこと?」
半ゾンビ「僕は、変わってない」
ローリー「何を言ってるの? シェーン」
半ゾンビ「変わったのは、君さ、ローリー」
ローリー「わ、私……?」
半ゾンビ「君がハーフゾンビになったのさ」
ローリー「エッ? 私が?」
半ゾンビ「ああ。僕と一緒だよ。ウイルスが全身に回り切る前にベルトで縛ってね。それで間に合ったんだ。でもそのおかげでハーフゾンビになってしまった」
ローリー「うそ……でも私、じゃあなんであなたと話せるの?」
半ゾンビ「わからない。普通の人間には僕たちはガウガウ言ってるようにしか聞こえないんじゃないかな」
ローリー「そうか……」
半ゾンビ「たぶん僕たち、新しい人類なんだよ」
ローリー「新しい人類……?」
半ゾンビ「考えてみて。素晴らしいと思わない? 僕らの存在」
ローリー「え?」
半ゾンビ「もうゾンビに襲われて、噛まれる心配はないんだよ。でも、人間の心はちゃんと残ってる。人間から見たら人間なのかゾンビなのかわからないかもしれないけど、中身は人間なんだよ」
ローリー「そっか……」
半ゾンビ「人類がみんな僕らみたいになればいいのにね」
ローリー「うん……うん! そうだね!」
ローリーM「周りを見ると、ゾンビ達がうろうろしていた。でも、誰も私たちに見向きもしない。たしかに素晴らしい世界かもしれない。そしてシェーンは私が思っていた通り、外見だけでなく中身もイケメンだった」
半ゾンビ「このシャツは、亡くなった親友の形見でね。彼の分まで生きなきゃって思ってる」
ローリー「大切な友達だったのね。ていうかあなた、シェーンじゃなかったのね」
ローリーM「彼の本当の名前はリックだった」
半ゾンビ「さ、行こう。新しい世界へ!」
ローリーM「これでシェーン、でなく、リックとずっと生きていける。ただひとつ、悩みは……」
半ゾンビ「ねえ、ゾンビの好きな音楽って何か知ってる?」
ローリー「さあ……」
半ゾンビ「デスメタル。ぎゃははははは」
ローリー「デス……ああ、死んでるからね……」
半ゾンビ「じゃあ、ゾンビの好きな仕事は?」
ローリー「仕事? さあ……」
半ゾンビ「デスクワーク。ぎゃはははは」
ローリー「ああ、デス、だから……」
半ゾンビ「どっちに行くかはサイコロに聞こう」
ローリー「デスティニーに任せるってことね」
半ゾンビ「お、わかってきたね! デスティニーに任せたデスティネーションに行こうぜ! いえい!」
ローリー「はあ……」
ローリーM「このオヤジギャクだ。オヤジギャクに付き合い続けなければならないことだけが、私の憂鬱だ。死ぬまで続くのか? そもそも私たち、いつか死ぬのか?」
半ゾンビ「なんか言った?」
ローリー「ううん。なんでもない」
半ゾンビ「オーケー、じゃあ、ゾンビの作家が原稿が間に合わないのはなんで?」
ローリー「さあ」
半ゾンビ「デッドラインを超えてるから。ぎゃはははははは」
ローリー「それはまあまあ面白い」
半ゾンビ「まあまあかい? 」
ローリー「なんでもない、デス!」
〈終〉
シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
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このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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*番組紹介*
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