推しのいない生活
その日の昼に知って、2日寝込んだ。また今日も新しいアイドルのニュース記事が、脱退した記事の上に。芸能界を去った事は遠く昔に、あなたのことはもう誰も覚えていないんだろうと想像しては絶望した。
それまでの自分はというと、2度目の活動休止が7月頃に出てからも夏の暑さに頭と身体を溶かしてダラダラ過ごしていた。
1度活動休止したとき以来も定期的に通院しているのは知っていたし、
おそらく負傷してるんだろう左脚を後ろに置いて何でもないようにジャンプから着地するのも個人カムで確認していた。痛みに顔を歪めたり下を向いて脚の具合を確認する仕草は一瞬たりともなかった。あまりに完璧に怪我を隠すから、もう治ったのかな?と思うくらい。スケジュール詰めると疲労が溜まっていってるようなので、カムバ期間出ない限りは休めるだろうって、つまりあまり深刻に考えてなかった。また帰ってきてくれるもんだと思っていた。
大手古株マスターが突然アカウントを消したときに悪い予感はしていた。何か知ってるのか、悪い予感をしつつも、暑くて何もする気になれなかった。思考も体も溶けていた。勉強する計画ばっかりたくさん立てて何1つ成し遂げなかった。意気込みだけは1人前だった。そんなのじゃなくて受験生として1人前になりたかった。家族旅行をことわって1人家で一生懸命取り組む妄想ばかりしていた。ニュース見てすぐ、それが全部祟ったんだろうに、とわかった。ネットニュースを見た時の脇の下と背中から全身に広がる寒気、混乱、今でもフラッシュバックする。
自分のせいじゃないと言われたってどうしても信じてる。自分の怠けと倦怠感が推しの運命を呪った。
ひと目みてこれだ、と思った。シャープな輪郭に凛々しい眉、鋭い目尻で時より中華ドルにも見える強めの印象で、笑うとほっぺがぷにぷにしてて森羅万象の何も横に並ぶものはないほど可愛かった(初お披露目当時には確かに中華圏ではないかと噂されていた。中華ドルを推すか推さまいか悩んでいたほどこの路線の顔面が好みなので噂に納得した)
それまで幼い頃から2次元ジャンルにずっと浸かったまま生涯を終えるとまで思っていた矢先に急に始まった3次元オタク生活。
こんなにかっこよくて可愛いのに家族も友達もみんな聞いたことも見たこともないなんて…!知名度が低いことに悲しいとも思わず、むしろ周りに内緒で付き合ってる恋人みたいで楽しかった。
惜しげもなく連発する愛嬌、ステージでの力強さの体現、毎分毎秒の表情管理を目におさめるために動体視力が鍛えられたものだった。話すと声が優しく、決まってファンを大切に思ってくれる言葉もくすぐったく少し聞き飽きつつ思いながらも全部好きだった。こんなに深くアイドルを推したのは初めてだった。自分が思い描く偶像と推しが見せてくれる姿がピッタリ一致していて、幻滅する点がなかった。幕張のイベントホールで受験前最後と決めて見に行って、終わったらたくさんコンサートやイベントしてオタク活動していくんだとばかり思ってた。本当に最後になるなんて。ソロ曲やユニットの妄想なんかなんべんしたことか。まだまだ見たい姿がたくさんあった。たぶん推しも見せたい姿がたくさんありそうだった。ずっと推していたかった。お互いが未練を抱えて終わった。
そのままネットを見つめるのも嫌で、ベッドで横たわりながら秒針の音を聞き、たまに泣いては寝てを繰り返した。これから入試直前期に入るという受験生として、ただでさえ低い点数の成績を挽回しなければならなかった状況なのにも関わらず、まったく勉強しなかった。
あなたがアイドルとして生きられない世界なら、どうせ何の願いも叶わないんだろう。そこにどんな夢見てもしょうがない…思考停止しながらぐるぐる同じ言葉が頭の中で鳴った。頭も手もスーッと力が抜けていくようだった。将来への希望だの何だの、全部叶うはずもなくてひたすらアホらしいなと思た。家族に負担してもらっている今までの受験費用の負担の大きさも知らずに。
参考書を読もうにも問題を解こうにも、何も頭に入っていかなかった。味も匂いもない。息が浅い。体の支柱を引き抜かれたようにフラフラして安定して立っていられない。
心にも穴が空いて隙間から風が通るようで、冬が例年よりずっと寒く感じられた。予備校のチューターの言葉に疑問を持ったけど思考が死んで何も言えなかった。そのまま墜落。結果ゼロ。ずっと大学受験のことを意識して過ごした6年間、あっけなく終わり。"選んだ道の先で出会ったから、お互い成長した先でまた出会えるだろう"とコンカに投稿して受験勉強頑張ろうと意気込んだ日が懐かしい。何年も受験勉強を意識して取り組んでいたのに直前期に学力低下する受験生と、熱心なアイドルがデビュー間もなく脱退したのと同じだななんて少し思った。あたしたち地獄の底で一緒だね。なーんて
センター自己採点も報告しに行って志望校への道が絶たれ浪人することが決まった帰りの思考停止した頭でぼんやりとやっぱりな、当たり前だよなと思っていたのが恥ずかしい。周りに迷惑をかけるだけかけて何も得なかったのに、自分への怒りも悔しさも沸いてこないのが悲しい。
本来受験シーズン真っ只中の2月の予定が空になり、 リモートワークしている親がいてなかなか1人にはなれない毎日だった。
素通りの受験期後の不合格日記として無い戦歴を振り返って話し合ったとき「現役は病むよね〜」と言われたけども、これ病むどころの話じゃない。これからどうやって生きていけばいいのかわからない。何を感じていればいいのかわからない。あまりに何も感じないので、感性の療養のために泣けると話題の映画やドラマを興味なくとも再生してシーンの流れに沿って涙を零してみることに徹していたけど、特に治ることはなかったしこの時なんの映画を見たのかはもうまったく記憶にない。脱退したあの日に心も身体も死んだまま、帰ってこない。昨日も今日も変わらない。
そんな自堕落で非生産的で臆病なひきこもり生活を送っていた矢先に、この歌を聴いた。
IUが先立った友人たちのことをイメージした曲だと言われているが、私
絶対に私だけは覚えていたいと、あなたのおかげで決める事が出来た進路をしっかり進み、この記憶を体に刻み込んで生きていくために浪人を選択した。家族や周りに経済負担や迷惑をかけまくっている以上、また今年も1年受験勉強に取り組むことは、やる気のありなし関係なく義務だと思った。
冬が終わって寒さも和らいできた。今の動ける間に無理矢理にでもバリバリ動かすため、この歌を聴いた。
ただ義務を果たすために始まった2020年度の始まり、歌詞が全部刺さってしまった。IUが先立った友人たちのことをイメージした曲だと言われているが、私とあなたのことをどうしても考えてしまう歌詞。
最近の世に巡る数多くの不安を抱えながらも進まざるを得ない人たちのための歌。
정해진 이별 따위는 없어
(決められた別れなんてないよ)
아름다웠던 그 기억에서 만나
(美しかったその記憶の中で会おう)
今日で260日、8ヶ月と17日。
あの日からもう既に9度月が変わりました。
あなたの憧れるアイドルと同列事務所の先輩のコラボ曲、もしかしてあなたも聴いたかな?これを聴いて何か思ったかな。