U23ドーハカップ2023 U23イラク 対 U23ベトナム
U23ではあるものの、「トルシエ・ベトナム」の初陣。
今回のFIFA国際マッチデーには、フル代表のゲームを組まずにU23の大会に出ることにしたトルシエ監督。日本にいた頃と同じように、U23監督を兼ねて、世代間の融合を狙う模様。
2月26日にハノイ入り、27日に代表監督の契約の調印式と記者会見、すぐにU23の候補者リストを出して、3月はずっとVFFでのキャンプとフートーでの練習試合。2部練続きで、その時間帯も「20:00から」とかもあって、相変わらずのトルシエ流です。
ベトナムでは伝説級に讃えられているパク・ハンソ前監督から変わって、クレイジーな新監督が来たことを知らしめる意図でしょう。日本にいた頃と比べるとかなり常識人になっていて、クレイジーぶりはかなり薄い気がしますが。
ドーハカップでは、4ヶ月前にW杯で使った超一流のスタジアムは使われません。それでも、ベトナムの選手たちが、「W杯をつい最近やった国」という雰囲気だけは感じて、2026年に本大会に出ることを本気で目指してくれると良いと思います。
ベトナムは、白のアウェーユニ。去年のSEA Gamesでも活躍した⑦レー・ヴァン・ドーは、クラブの時と同じく列の最後尾で入場。
キャプテンは誰が指名されるのか注目されていましたが、数日前、「トルシエ監督は5人の『キャプテン・グループ』を指名した」と報道されていました。「スター・システム」を嫌うトルシエ監督らしい発想。
今日のゲームキャプテンは、「キャプテン・グループ」の一人、⑫トゥアン・タイ。去年のSEA Gamesで左右のサイドどちらでも頼りになったヴァン・スアンが大けがをして大会から去らざるを得なくなった時に、代役として出て活躍した選手。国際映像では名前が「ファン・タイ」と表示されていてわかりにくい。フルネームはファン・トゥアン・タイ。
イラクのキャプテン⑪Muntadher Jaber。読み方がわからない。勝手に「ムンタダー・ジャバール」とか読んでみたものの、ベトナムの実況は「ムンタダー・ジャバー」的な発音で呼んでいた。ククレジャに似ているので、このゲームでは「ククレジャ風なやつ」と呼ぶことにした。
立ち上がりはベトナムがボールを回す。悪くない印象。ただ、ボール際でいちいち負けているのが気になる。イラクの選手は、足が長いというか、足が出てくる角度が違うというか、中東らしいボールの奪い方をする。ベトナムの選手はそれにいちいち負けている感じ。フィジカルの問題でもあり、ボールの置きどころのテクニックの問題でもある。
ちなみに、ベトナムでは「ベトナムのサッカーはテクニックではいい線を行っている。フィジカルを強くすれば勝てるようになる」というのが、まことしやかに語られております。「その証拠に、フットサルの成績はいい」という理由付けがされます。
うーん…。テクニックって、何でしたっけ?
前半8分、ベトナムの右サイド⑦レー・ヴァン・ドーがインターセプトからタテパスを入れるも精度を欠く。パススピードも遅い。「テクニック」と「フィジカル」に分けるなら、どちらも欠けていた。インターセプトまでは良かったものの。
ちなみに、レー・ヴァン・ドー君には、播戸竜二さんのようにリーグでも代表でももっと活躍してもらいたいので、私は「レー播戸」と呼んでいる。昨シーズンは2部のフォーヒエンFCで腐りかけていたものの、独特のテンポを持っていて時間を作ることができる選手なので、ボールが渡ると何かしてくれると期待させる存在。
8分、ベトナム⑤ズイ・クオンが自陣ボックスの角付近でファール、イエロー。イラクのFKはGK①クアン・ヴァン・チュアンが押さえた。ズイ・クオンは俳優の鈴木亮平さんに似ている(と私は思う)ので、「亮平似」と呼ぶ。
15分、イラクが右サイドから崩してグラウンダーのクロス、決定機を作る。その後も左サイドからシュートを放つなど、イラクの攻勢が続く。
17分、小さな混戦からイラク⑪のククレジャ風なやつの顔面にボールが強打し、レフェリーが間髪入れずにプレーを止めた。ベトナムが良い時間帯になっていただけに残念。ドロップボールで再開したが、ベトナムの攻めは終わってしまった。
21分、左サイドのゲームキャプテン⑫トゥアン・タイ、利き足の左足でサイドチェンジの横パス。完全に狙われていてイラクの⑩Nihad Owaidがスプリント、ベトナムの⑮フィン・コン・デンの背後でインターセプト、そのままスピードに乗ってボックス付近まで駆け上がる。カバーリングに入った③ティエン・ロンが横から倒す形になり、一発レッド。
最初、レフェリーが自信満々に⑤亮平似にレッドを出したので、深刻な場面なのに⑤亮平似も、実際にファールをした③ティエン・ロンも苦笑い。むやみにレフェリーにケチをつけたくはないけど、接触した相手選手と倒れ込んでいるティエン・ロンを無視して、少し離れたところから近くに走り寄っただけの⑤亮平似に迷わずレッドカードを出すあたり、一体何をご覧になっていらしたのでしょうかという感じ。最終的には「正しく」③ティエン・ロンにレッドとなったものの。
その場面がこちら。
トゥアン・タイは、この前にも同じように真横へのパスでサイドチェンジをした場面があったので、イラク⑩に狙われたのだろう。センターバックなりボランチなりが角度をつけてくれればいいが、そこはトルシエ監督のフラット3。サイドハーフがラインに吸収されて実質的には5バックになっている場面では、角度をつけてサイドチェンジをすることができず、真横に長いパスを出せば危ない場面になってしまう。GKを含めて、このあたりの約束事の落とし込みはまだ完全ではない感じ。
今回はぎりぎりPKにはならなかったものの、この時間帯にディフェンスの選手が1人抜けて10人になってしまったのはゲームプランに大きな影響があるでしょうと思いました。
27分、イラクが左から崩して決定機作る。GK①クアン・ヴァン・チュアンが押さえる。
29分、イラクの右CK。ベトナムの⑨ヴァン・チュオン、ヘディングであわやオウンゴールかという場面。イラクが再びCK獲得。
31分、ベトナム⑨ヴァン・チュオンOUT、②チャン・クアン・ティンIN。チャン・クアン・ティンの名前の綴りを国際映像が間違えていたので実況からツッコミが入る。
1人少ないベトナムは、ほぼ5‐4ブロックという感じ。ただ、⑩タイン・ニャンだけ前線に残って、5‐3‐1の様相も見せる。
⑩タイン・ニャンは、先日のU20アジアカップ(ウズベキスタン開催)にも出てて、所属クラブ(PVF人民警察、Vリーグ2部)のマウロ・ジェローニモ監督は不満がっています。推進力のある選手なので、海外で経験を積ませたいところ。どこか良いクラブはありませんか?
たしかに、マウロのところからは何人もの選手が立て続けにアンダー世代の合宿に招集されていて、かつ昨シーズンの主力選手が同じオーナーの別クラブ・ハノイ警察(Vリーグ1部)に引き抜かれたりもしていて(レー播戸もその1人)、リーグ戦開幕前にチームの強化がろくにできない状態。不満を持つのも理解できるところ。
34分、イラク、立て続けにCK。
36分、イラク、左サイドからクロス、ファーで⑱Ali Basemがフリー。しかし、慎重を期したのであろうインサイドボレーで枠を外す。
41分、イラク、左からゴール前へ。シュートが枠外で助かる。オフサイドにも見えたが、ベトナムのDFのラインコントロールも中途半端。「いつかやられる」雰囲気がありありと出ている。10人になったからこそ、やるべきことをシンプルにしてシステマチックに守ってもらいたいところ。約束事がチーム内に浸透しているかどうかが鍵。
44分、イラク⑰Hussein Lawendにタテパスが通る。V⑤亮平似が後ろから引っかける形になりPK。球際の数十センチのところで負けているのが真の原因。
前半アディショナルタイムは3分。その間にPKを進める。イラク⑱左足でPKを蹴る。GK①ヴァン・チュアンはコースの読みは当たっていたが、手ではじいたのにゴールになってしまったことを悔しがっていた。10人になってしまい、前半はなんとか0‐0で折り返したかっただけに悔しい。
後半、ベトナムは⑦レー播戸が中央へ。⑫トゥアン・タイ、⑮フィン・コン・デン、④ミン・チョンがOUT、⑧ヴォ・ホアン・ミン・コア、⑳ブイ・スアン・タイン、⑥ザップ・トゥアン・ズオンがIN。キャプテンマークを誰が引き継いだか不明。⑦レー播戸がいた右サイドには⑳スアン・タインが入る模様。
47分、48分、イラクは立て続けにオフサイド。ベトナムのラインコントロールが効いているとみるべきか、ついて行けなかっただけとみるべきか。
49分、イラクの⑰Hussein Lawendがベトナムの⑰ドゥック・ヴィエットへのファールでイエロー。
10人のベトナム、⑤亮平似と②クアン・ティンの2センターバックで4バックになっている模様。左SBに⑥トゥアン・ズオン、右に⑳スアン・タイン。
52分、イラクが右サイドを突破、クロスから決定機。GK①ヴァン・チュアンが押さえる。
53分、トルシエ監督の指笛。テクニカルエリアにはほとんど出てこないが、あの鋭い指笛が観客の少ないスタジアムに響きわたる。先日、会った時も、遠めから私を呼び止めるために指笛を鳴らしてきたので、「日本にいた頃、トルシエさんの指笛は『選手たちは犬じゃないんだから』と評判悪かったよなー」と思い出して苦笑いした。もちろん、サッカーファンはトラパットーニの指笛を知っているので、当時からオフト監督、トルシエ監督の指笛にも抵抗感はなかったものの。
56分、イラクが2人交代。⑪ククレジャ風なやつが下がったので、キャプテンマークは⑥Zaid Tahseenに移った模様。
59分、イラク③Ahamed Hassanがボックス内左サイドで何度か切り返し、時間をかけて結局シュート、2点目。
ボックス内なのでファールを避けたい気持ちもわかるが、ベトナムは3人がHassanのダンスを見ている状態で寄せることなくシュートを打たれている。しかし、それ以前に、イラクの右サイドから左サイドにいるHassanまでのグラウンダーのサイドチェンジを通させてしまうのが問題でしたね。
60分、イラクが2人交代。
65分、イラク③Ahamed Hassanが左からクロス、中央で⑩Nihad Owaidがフリーでシュートするも枠外。
66分、イラク⑩Nihad Owaid、ベトナム⑦レー播戸を後ろから引っかけてイエロー。スピードに乗ったところでのファールで危険。レー播戸も怒る。
68分、イラク⑰Hussein Lawendへのファールでベトナム⑧ミン・コアにイエロー。
69分、イラク㉑、左サイドで奪って切り込んでクロス。㉓がシュートを外す。3人がフリーという決定機。
74分、子どもの声で Việt Nam Cố Lên(ベトナム頑張れ)の声がしばらく響く。
77分、イラク㉑にイエロー。
ベトナムは⑪クハット・ヴァン・カンOUT、⑯ゴー・シー・チンIN。⑪
ヴァン・カンは先日のU20アジアカップでスターになった選手。今日は前線で頑張っていたものの、大きなインパクトはなかった。19歳、まだ線が細い印象。
80分、イラク⑭Karrar Ali、すっこけながら左足のミドルシュートはクロスバー。
81分、我らが⑦レー播戸、ディフェンシブサードからアタッキングサードまでドリブルで持ち上がって中央のゲートを狙うタテパス。イラクのディフェンス陣は3人が中央に引いてゲートを閉じて裏抜けを許さず。ラストパスがゲートに引っかかる場面は前半にもあった。残念。
82分、イラクが右サイドから左の③Ahamed Hassanへサイドチェンジ。2点目と同じパターンでフリーのHassanが余裕をもってキーパーゲートへクロスを出すも、ここはベトナムディフェンス陣のラインコントロールで2人がオフサイドポジションに。
83分、我らが⑦レー播戸、中央で受けて顔を上げ、タテの狭いゲートを狙わず右足アウトサイドで右サイドを駆け上がった⑳スァン・タインへ。残念ながらスァン・タインは消極的なファーストタッチでイラクのディフェンダーに詰められる。ヴァン・スァンやヴ―・ヴァン・タインならトラップせずにシュートしていたかもしれないし、ヴァン・トアンでも少なくともボックス内でディフェンダーとコンタクトプレーになる位置においてPK誘発しただろうなと思わせるところ。2失点目のディフェンス面でもそうだったが、スァン・タインは後半から出てきて足が止まっているようでは困る。
85分、イラク㉓が右からクロス、⑦Hulfiqar Al Imari がフリーでヘディングシュート、3点目。これまたボックス内で㉓に寄せることなく、ダンスを見守っていてクロスを上げられ、人数は足りていながらも中央で㉑と⑦がフリーという状態。
89分、ベトナム⑳スァン・タインから⑲、右サイドの⑦へと渡る。攻めるベトナムも守るイラクも足が止まって全員がボールウォッチ。最後は⑰クォック・ヴィエットがミドルシュートをふかす。前半アディショナルタイムにもミドルを打ったクォック・ヴィエット、停滞を破る試みは買うものの、迫力に欠ける。
アディショナルタイムは3分。
+1分、ベトナム⑧ミン・コア、スライディングした足が相手にかかった咎で2枚目のイエロー。足裏を見せていたわけでもなく、つま先でボールに向かっていて、実際に相手より先にボールを蹴り出している。親善試合の後半アディショナルタイム、0-3というスコア。これで2枚目のイエローとは厳しい。
ベトナムは最後、9人でタイムアップ。全体的に、高校生と中学生のゲームのような圧倒的な差があった印象。もともと、トルシエ監督はドーハ・カップはU23の調整のゲームと位置付けていて、勝利を最大の目標としていなかった。イラクのフル代表はFIFAランキングで現在68位、アジア7位(日本は20位でアジアトップ、ベトナムは96位でアジア17位)。今回の対戦した相手選手の中から、2026年のW杯本大会に出る選手が出る可能性がある。ベトナムが同じW杯に出たいなら、今日実感させられた差を出発点にして、アジア8.5位までに入らなければならない。道は険しい。
本日は以上。