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日本代表として挑む不思議時間
昔、外資系企業に勤めていた頃、年に一度選ばれし社員が株主総会をメインとした研修に参加するため、アメリカに行くという一大イベントがあった。
世界的なグループ企業ということもあり、各国からメンバーが召集される。当時の日本の枠は約100名だったから、かなり太っ腹なイベントだと思う。どのようにして参加者が選ばれていたかは不明だが、少なくとも年功序列や役職順ではなく、なんらかの推薦なんだと思う。
ある年、その大イベントになぜか私が選出された。約一週間の大規模な社員旅行と思っていたが、その内容は早朝5時から細かなスケジュールとミッションが組み込まれた、なかなか過酷なものであった。
ところで、私は団体行動が苦手である。
100人もの人と団体行動なんて、本来ゾッとするくらいである。
その時の大移動は、10人10チームほどのグループを設けて様々なミッションをこなしつつ行動を共にするものだった。
きっと団体行動が苦手という、私のしょうもない情報など管理部には知る由もないであろう。恐ろしいことに、私はチームの副団長という役割が勝手に決められていたのであった。
さらに、しょうもない情報の一つに、早起きが苦手というハンデも背負っていた。
あまり気が進まない中、時間だけは進んでいく。
アメリカに着いて二日目、新たな問題が出てきた。
”私、こっちの食べ物合わないわ”
食事は基本的に、向こうで用意された食事を頂くのだが、味付けに使用している調味料やソースがどうも苦手。
ぱっと見ハンバーガーで喜んだのもつかの間、中に謎の肉(もしくは魚のフレークのような)が入っていて一口食べて悲しい気持ちになり、その後だれかの「キャットフードみたい」の一言が、二口目を阻止した。
イベントに参加すること自体は光栄だった。
経験値は上がったし、たくさんの面白な思い出もできたのだから。
副団長なのに、朝が起きられない。イベントに使うでっかい旗を忘れる。ズボンのケツのところが破れるハプニング。主食をポテチに変えてみる。口内炎の悪化。ストレス発散の為の酒が、二日酔いになりストレス。体調不良で寝込む。中国人に文句を言われる。中国人に握手を求められる。中国人に間違われる。
そんな毎日を過ごしてきた終盤、夜の飲み会からの帰り、宿舎のロビーに置かれている卓球台を見て、遊びたい衝動にかられた。
学生の頃、卓球部だった私は久しぶりの卓球がよほど楽しかったのかかなりハッスルしていたらしい。
翌日、一緒にいたチームの人に、
「お酒飲んでてよく卓球できるよね。ずいぶん長いことやってたよ」と言われた。
正直、記憶が怪しかった私は、
「そんなに長い時間やってた?!」と聞くと、
「一時間位やってたよ、その辺のナニ人かわからない人誘って」と教えてくれた。
私、そんなに社交的な人間じゃないのに、しかも英語も喋れないのに・・・
それが、お酒の力だったのか、卓球の力なのかはわからないが、とにかく私にとって一番楽しかったのは卓球をしているひと時であったのは間違いなかった。
アメリカで、他の国の知らない人と、卓球する。
そんな事、二度とあるまい。
あの時、卓球に付き合ってくれた誰かさん、楽しい時間をありがとう。