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【物語】星のごちそうタマゴ #7 おもてなし

「へいらっしゃい!」
 大きな異星人が声をかけてきた。しかも、言葉とは裏腹に無表情である。
「今、へいらっしゃいって・・・」
「ええ、マネごとですけどね。私達は、今地球語、いや日本語を話しているように聞こえているかもしれませんが、実際は、あなた達が、私達の言葉を理解できるよう脳に働きかけをしているのでそう聞こえるのです。それは、あなた達だけではなく、この星に来る者には、すべてそうさせてもらってます。でも、安心してください。この星を出れば、脳は元に戻りますから。」
「すっごーい!それって、サイコーじゃん。勉強しなくたって意思疎通できるってことでしょ!その技が地球にもあれば、皆苦労しないのに~」
 娘は色んな国を渡り歩いているせいか、新しい文化をすんなり受け入れている様子だった。カウンター席にオヤッサン、娘、イセイジンの順に腰を下ろした。
「どんなものが食べたいですか?」
 オヤッサンが何を注文して良いものか考えていると、横から「私タマゴ!」と娘が手を高く上げて注文した。
「タマゴって、おまえアバウトだな。大丈夫か?」
「いいのいいの、何でも試してみなきゃ!」
 娘はワクワク顔で大きな異星人の動きに見入っている。イセイジンは、オヤッサンも何か注文してとジェスチャーしてきた。
「そうだな・・・例えば麺のようなものはあんのかい?」
「はい!では、タマゴとメンで。」そう言うと大きな異星人は、後ろの厨房らしき中へ入って行った。
「ところでイセイジンさんは頼まなくてよかったの?」
「私は基本的には、料理を食べませんので。」
「へぇ~、じゃあドリンク系とかサプリ系しか口にしないってこと?」
「まぁ、そんなところです。でも、オヤッサンの料理はおいしかったですよ。」
 娘とイセイジンが他愛のない話をしていると、大きな異星人が戻って来た。
「おまたせしました!お先にタマゴです!」
 運ばれてきた小鉢を二人で覗き込んだ。
「・・・そっちか~!」
 娘はケタケタと笑ってるが、おそらく虫か何かの卵であろう、食欲が失せるビジュアルである。オヤッサンは、無理に食べなくてもいいと制しようとした時、こともあろうに娘は小鉢に口をつけるとウワッっと全部かき込んで食べてしまったのである。ひえ~っ!オヤッサンは心の中で悲鳴を上げていた。そして、この後来るであろう自分の”麺”の登場を想像し鳥肌が立った。
「お、おい・・・どうだ?大丈夫か?」
 オヤッサンは恐る恐る聞くと、娘はゴクリと音を立てて飲み込み込んだ。
「うん、ビミョー!!まずくは無いんだけど、やっぱウマくもないんだな。なんていうか、味が無い?薄い?でも、めちゃめちゃ濃厚なの!惜しいっちゃ惜しいかも。」
 おそらく娘は各国でゲテモノを食べてきたに違いない。
「はい!おまたせしました!メンです!」
 オヤッサンは、差し出された丼のような器を、恐る恐る受け取った。中を覗き込むとそこには、やはりニョロニョロと虫を連想させる物体が麺のように盛られていた。オヤッサンは丼を少し奥へずらした。
「申し訳ないが、食欲が・・・」そう呟くや否や、
「だめよ!それじゃ何もはじまらないわ!私思うに、ここの食べ物は地球の食べ物と結びつかないし、食べなきゃ味もわからない。料理人なら味を知らないと料理できないわ!」と言って、娘はそのひも状のナニを一本つまんで自分の口の中に入れた。
「ああっ!」
オヤッサンが声をあげると同時に、娘がものすごい勢いでむせ込んだ。
「ゲホゲホッ・・・」
「ほら、言わんこっちゃない!」
 娘は大きな異星人に水をもらいそれを全部飲みほすと笑いながら言った。
「違うの、これめっちゃ酸っぱいの!」
「それは、地球で言うフルーツになります。実を割ると中にその長ひょろい物が入っていてそれを食べることができます。」
 今更そう説明するイセイジンは相変わらず無表情ではあるが、なんだかこちらのリアクションを楽しんでいるような気がした。
「先に聞けばよかったな。こんなに疲れる食事は初めてだよ。」
 オヤッサンはポケットからハンカチを出して額の汗をぬぐうと、長ひょろい物体を一つつまみ上げ、口に入れた。
「なるほどな・・・ところで何か調味料・・・味をつけるものは無いのかね?例えば、しょっぱいとか甘いとか、あるいはスパイスだとか。」
 大きな異星人は「お待ちください。」と言い残し、何かを取りに行った。

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