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[第6回]肩身が狭い~予防接種に来られないパパたち~

こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年6月号』に掲載されたものです.



【はじめに】

『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
 子育ては夫婦で協力してするもの,ということは一般的になりつつあるいま,子育てを頑張りたい父親も増えています。しかしその際, 世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」などに戸惑う方も少なくありません。そんな迷える父親にどのように向き合っていったら よいのでしょうか?
 渡邊先生に事例を紹介いただきながら,一緒に考えましょう!

【渡邊大地先生 プロフィール】

株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。

 子育て世代からよく挙がるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
 今月は,予防接種へのパパのかかわり方について考えてみたいと思います。

予防接種“係”の思い出

 わが家に第 2 子が生まれた 11 年前のこと。
 当時ようやく家事育児というものを少しずつやり始めた私に,妻がいいました。
「あなたは今まで家事も育児もほとんどやらなかったから,すべてゼロからのスタートでしょう。だから特別に,あなたが今後担当するものを自分で決めていいわよ」
 要するに,家事育児分担を話し合って決めるよりも, 好きなものを選ばせてあげる,というわけです。
 これを特に重く受け止めていなかった私は,その直前に「そろそろ予防接種が始まる」という話が出ていたことを思い出し,「オレ,予防接種係やろうか」と申し出ました。
 妻からは「いいよ,やらせてあげる」と OK が出ました。
 第1 子を予防接種に連れて行ったことのなかった私です。予防接種には「予約が必要」ということも,このとき初めて知りました(小児科によります)。いざ,予防接種の予約を小児科の HP で取る段になりました。妻から手ほどきを受けて,予防接種の種類,日程を入力して「予約」ボタンを押すときになって,
 「ちょっと待って」と。
 「あなた,その次の日出張だけど,大丈夫?」と妻が尋ねます。
 なぜ「次の日」の話が出るのかいぶかっていると,「予防接種したら,その日か次の日に熱が出ることもあるからね,仕事休める?」といいます。
 そのときになって初めて,第1 子の予防接種で息子がいつも発熱し,その都度保育園をお休みして,妻も会社を休まざるを得なくなったことを知りました。
 予防接種を担当するということは,単に予約して連れて行くだけでなく,それに伴う子どもの体調管理まで担当するということなんだと知った思い出です。

パパが二の足を踏む予防接種担当

 「オレ,予防接種係やろうか」から 11 年経った現在(2022 年末時点),わが家の子どもたち 3 人の予防接種は合計 119 件になりました(新型コロナを含む)。このうちの 80 件くらいは私が担当しているはずです。
この 11 年,予防接種に子どもを連れて行きながらいつも思うことがあります。
 「パパ全然いねえな~」と。
 予防接種は,小児科・内科にもよりますが,曜日や時間が決まっていることが多く,それも朝一や夕方ではなく,平日のお昼前後であることが多いようです。そのせいか,子どもを予防接種に連れて行くのは圧倒的にママが多いですよね。
 こんな仕事をしている私でも,ママばっかりの待合室で順番を待つのは居心地が悪いです。コロナ禍以降は待合室でのおしゃべりが減りましたが,それ以前は待っているママ同士「お子さん何歳ですか?」「インフルですか? 何回目ですか?」などと各地でおしゃべりする姿があったので,肩身が狭い思いをしたものです。
 ときどき,夫婦で子どもを予防接種に連れてきている家族も見かけます。夫婦で来ることを否定はしませんが,正直予防接種に保護者2 人は必要ない気もします。パパが来られるんなら,ママを付きあわせる必要もないので,一人で来ればいいのにと思います。
 それにしても,保育園の送り迎えをするパパが増えてきた現在でも,予防接種に連れてくるパパが同じように増えないのはどういうわけでしょうか。
曜日や時間がサラリーマンにとって都合が悪いことのほかに,私は 2 点思い当たります。
 一つには,書類書きのわずらわしさがあげられる気がします。予防接種の予診票というものです。生まれたときの体重や既往歴などを書くのに一苦労ですよね。
 これを失くせという気はまったくありません。非常に大切な情報ですからね。
 大事なのは,これを書こうと思ったら,「母子手帳に必要な情報が載っている」ということをパパに知っておいてもらうことです。
 パパは母子手帳に触れる機会が少ないので,母子手帳にこれらの情報が載っていることをそもそも知らない人もいます。私も今の仕事を始めるまでは,母子手帳に「記入する項目がある」ことを知りませんでした。単なる一般的な情報が載っている本くらいに思っていたんですね。


 必要な情報がどこにあるかを知っている,というのはとても心強いものです。これを機に,母子手帳の中の多くの記述項目にも関心をもってもらえると嬉しいですよね。

予防接種はパパに向いている!

 予防接種がパパに敬遠されるもう一つの事情は,子どもの体調管理にかかわることです。冒頭で紹介したような,接種後の体調変化ももちろん含まれますし,接種前にも,発熱やかぜ気味だったりすると接種不可になりますよね。ということは,予防接種の日程が決まっている場合は,それまでにかぜをひかせないように気をつけておかなくてはいけません。
 保育園・幼稚園児ならば,予防接種を受けた日は登園できなくなる場合が多いので欠席連絡をする必要もあります。


 そして,当日も「体重は?」とか「4 週間以内にほかの予防接種受けてない?」とか「ご家族で○○な人はいませんか?」といった質問を受けるので,それらの情報がある程度頭に入っている必要があります。
 これらを面倒くさいと捉えるか,毎回同じパターンなので,一度マスターすればよいだけ,と捉えるか。
(私は 3 回目くらいにはほぼマスターできました。)
 一方で,予防接種を担当すると,洗濯や洗い物のように,「やり方が違う」などの批判を受けることがありません。
 しかも,「スケジュールをきっちり決めて,順番に数をこなしていく」予防接種というものは,意外にパパが得意だったりします。母子手帳に接種済みのシールが増えていくことに喜びを感じる(笑)のも,ママよりもパパのほうが多いのではないでしょうか。
 そういう点でも,私は予防接種係はパパに向いていると思っているので,医療機関で働く方には,ぜひパパを巻き込んで予防接種の主戦力にしてあげてほしいと思います。

 本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。

【おわりに】

今回の記事は,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!

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また、kindle、kobo、kinoppy、hontoの各電子書店で、一部の号を電子書籍として販売しております。そちらもぜひご覧ください。


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