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[第2回]家にいてもいなくてもつらい?~コロナ禍のパパたち~

こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年2月号』に掲載されたものです.



【はじめに】


『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
子育てを頑張りたい,でも,世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」に戸惑っている……そんな迷える男性にどう向き合ったらいい? 
渡邊先生が紹介してくださる事例をみながら,一緒に考えていきましょう!


【渡邊大地先生 プロフィール】


株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。


 子育て世代からよくあがるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
 今月はリモートワークにほんろうされるパパとママについて考えてみたいと思います。

コロナ禍で働き方に大きな変化が

 
 コロナ禍が始まった 2020 年,社会の状況がガラッと変わりました。マスクをしないと外出もできなくなり, 他人と会話をするのもはばかられるようになりましたよね。

 驚いたのは,3 月に突然,全国の小中学校が一斉休校になったことです。テレビの臨時ニュースでそのことが報じられると,わが子が通う小学校から e メールが届き,「明日から臨時休校になります。再開時期は未定です」というではありませんか。

 私は会社を経営しており,女性スタッフが多く働いてくれていますので,この日は「すみません,子どもの小学校が休みになってしまうので,しばらくお仕事に行けません」「明日のお仕事ですが,急遽お休みにさせていただけませんか」といった連絡が飛び交いました。

 子どもが日中家にいるとなると,親が一緒に過ごさなくてはならなくなる家庭は多いです。令和の現代でも, その役目はおもに母親が担う場合が多いのではないでしょうか。わが家のようにパソコンさえあれば自宅で仕事できる人ならまだしも,出勤することがベースになっていた人にとっては,働き方を見直さなくてはいけなくなりました。

 では,皆さんどれだけ「リモートワーク」をするようになったのでしょうか。

 ふだん両親学級をしている私の肌感も,だいたいそんな感じです。「リモートワークを導入しました・増えました」がちらほらいる一方で,「結局今までどおり出勤しています」のほうが明らかに多いです。

 パパもママも,ウィズコロナ時代に働いて生計を立てていくのは本当に大変なこと。コロナ禍で,感染が心配で保育施設への「預け控え」が増えたり,これまでのような働き方が難しくなって保育施設に通わせることができなくなったり。働き方と子育ては直結しています。


いてもいなくても責められる?


 さて,本稿のテーマは,子育て中のパパについての考察ですから,ここでパパに焦点を当ててみましょう。

 2020 年 9 月,子育て中の夫婦向けに開催した講座の際に,参加者皆さんにアンケートを実施しました。そのなかの一つに,
「コロナ自粛期間中,パートナーや夫婦関係で困ったこと・不満に思ったことは何ですか?」という質問があります。
 
 妻たちからは,どんな意見が出たと思いますか?
①ママ「夫の在宅ワーク中,少し何かをお願いすると『仕事中だから』といわれた」
 これは,コロナ以降,方々で聞かれる声でした。リモートワークで在宅しているなら,少しくらい家事育児をしてくれてもいいじゃないか,というのはごもっともです。

 夫が在宅になって家事をする量が増えたので助かった,という声もときどき聞きますが,やはり多いのは,
「家にいるのに家事をしない」のほうですね。

 これは私もわからなくはないです。「仕事中に仕事以外のことをする」というのが後ろめたい気持ちになるんですね。ある意味,サボってはいけないという義務感ともいえます。ただ,そんなことを言っていては両立などできませんから,通勤時間がなくなったぶんは家事育児に充てるくらいはすべきですよね。

②ママ「まわりはみんな自宅勤務なのに,うちの旦那だけ家にまったくいないじゃないか!」
 これは,①と逆のパターンで,働き方が変わらなかったパパです。さすがに「まわりはみんな」ってことはないはずですけど(笑),イライラするときは得てして,「うちだけが違う」ようにみえがちですよね。

 ①②ともに,パパは反省すべき点もあるかもしれませんし,パパだけの力ではどうにもならないこともあるでしょう。

 にしても……どちらのパターンも,パパは責められる要素をもっています。
 では,パパの意見も聞いてみましょう。
パパ「『出勤してコロナになって帰ってきて,もし娘にうつしたら許さない』といわれた。もちろん細心の注意を払っていたので,そんなこといわれても……という気持ちになった」

 こういうのをみると,パパもつらいよなあ,と思わざるを得ません。パパの一存でリモートワークに切り替えられるわけではないでしょうからね。家に帰っても心が落ち着かないのは気の毒です。


何でもかんでも聞かないで!


 そんなコロナ禍に肩身の狭いパパですが,夫婦協力して子育てをしていくには,どんな課題をクリアすればいいのでしょうか?

 専門職の皆さんは,パパにどんなアドバイスをしますか?
 リモートワークしているパパには家事育児をもっとしろ,といいますか? 
 リモートワークしていないパパにはリモートに切り替えろ,といいますか?

 産後の女性が,「夫は家事を全然しない」と不満を漏らしても,本当の不満は家事ではない,ということはよくありますよね。リモートワークに関しても,同じことが起こっている可能性はあります。つまり,リモートワーク以外の部分で何かネックになっていることがあるかもしれないんです。

 先ほど紹介した 2020 年の講座の際のアンケートについて,妻からの不満の声で多かったものと,夫の証言とが一致しているもののなかに,
 「夫が,何でもかんでも妻に尋ねるので,妻は『そのくらい自分で調べてくれ』と思っている」
という現実が浮かび上がってきました。

 これもまた,私はとても身に覚えがあります。ざっと思いつくだけでも, 

「爪切り,どこにあるんだっけ?」

「保育所の電話番号,何番だっけ?」

「小児科って何時からやってるんだっけ?」

「保険証どこだっけ?」

「今週日曜日って何か用事あったっけ?」

「スマホの充電器どこだっけ?」

「頭痛薬って何錠飲んでいいんだっけ?」

などなど,とりあえず妻に聞いてしまうことは無数にあります。

 コロナ禍でリモートワークはさておき,外出を控える機会は増え,家族で家で過ごす時間が増えたことと思います。

 そんななかで,何かするたびに妻に聞いていたのでは妻も疲れてしまいますよね。特に保育所の電話番号やら,小児科の診療時間などは,妻だって空で覚えているはずはありませんから,結局調べるしかないんです。そんな負担が減るだけでも,妻にとってはありがたいのかもしれません。

 働き方が変わってストレスがたまりがちなご夫婦たちのために,ぜひ表面的な解決だけではなく,違った部分からのアプローチでアドバイス・支援していくことにもチャレンジしてみてください。

 本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。


【おわりに】


今回の記事は,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!

※雑誌『チャイルドヘルス』では,他にも子どもの健康や育児に役立つ情報を掲載しております.
また,電子書籍を販売している号もございますので,そちらもぜひご覧ください.


 


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