引きこもり日記3
週一ペースで数十分話すだけの関係が始まったわけだが、僕にとってもマサルにとっても意外だったのはその回数を重ねるうちにお互いに少しずつ打ち解け合ってきたことである。
最初のうちこそ会話の内容がかみ合わない場面もあったが、次第にお互いの話題も増えてきて、最終的には世間話の域にまで達するほどになった。
最初は自分からは全く喋らなかったマサルも徐々に口数が増えていき、数か月ほど経った頃には僕の方からもあまり気を使わずに話しかけられるようになっていた。
最初に感じていた圧迫感のような雰囲気もいつの間にかなくなり、普通に世間話をするような間柄になっていた。
僕にとってはその変化が何よりも嬉しかったし、マサルの方もだんだんと僕に対して心を開いてくれているようであった。
この調子ならいずれもっと他の人間と深い付き合いが出来るようになるかもしれないと期待していた矢先、マサルとは別の方面から相談を受けるようになった。
端的にいうと、学生時代の二つ年下の後輩が仕事を解雇されたらしい。
会社の統合で担当部署がなくなる事になったらしく、契約社員全員に解雇通知が出たとの事だった。
「まさか、自分がこんな事になると思わなかったです。」
と嘯く後輩の話を聞きながら、ある事を思いついた。
かくかくしかじかと事情を説明し、日取りを決め、LINEグループを作った。
メンバーは僕とマサルと無職になった後輩である。
こうしてLINEビデオで週一回、30分だけ他愛もない話をすることになった。これならマサルも家から出なくてもいいし、例の感染症を気にする必要も全くない。
ちなみに無職になった後輩は元バックパッカーで無類のコミュ力モンスターであり、言葉の通じない相手でも秒で友達になる事ができるというチートスキルを持っている。
当日のビデオ通話でも開始早々、後輩はマサルにウマ娘の話を振り始め、アプリで特定のキャラクターを手に入れるために二万円課金した話を意気揚々とし始める。
すると画面の向こうで、マサルがニヤニヤと笑うのである。
ちなみに、僕と二人だけで会話している時はマサルはあまり笑わない。
さすが、エチオピアのオロモ族と一瞬で仲良くなった男。
そう思うと、なんだか気持ちが熱くなった。
最後のあたりで、マサルと後輩が同じ34歳だったということから、最後に二人にマーティンルーサーキングjrの話しをした。
何故なら「I have a dream」から始まる有名な演説をした時、彼も34歳だったのである。
やたらとスケールのでかい話題を持ち出し、言わば二人に引きこもりとか失業とかあまり気にするな的な励ましを遠回しに送りたかったのだが、あまりにもスケールがでかすぎたためか二人ともポカンとしてしまった。
なんかよくわからんけど盛大にすべったなと感じた。
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