声劇シナリオ『終わった世界で、二人は小さく息をする。』
〈トレーラー〉
ただずっと君の隣を歩いていたい。
たとえその先に未来がなくても。
〈人数〉
女性二人
〈役名〉
リョウマ
カサネ
※0は地の文です
〈作者より〉
こちらもボイコネにあげていた、ショタBL台本になります!BLですが、過激なシーンはありません!
ディストピアを生きる二人ぼっちの少年達の旅を、楽しんで演じてみてください〜!
〈本文〉
リョウマ(M):どうやら世界はとうの昔に終わってしまったらしい。
リョウマ(M):そんな事実を俺たちは当たり前のように知っていた。
リョウマ(M):それは生まれたときから変わらない事実で。
リョウマ(M):どうしようもない、現実だった。
カサネ(M):でも僕らにはそんなこと、関係ない。
カサネ(M):たとえ未来がなくても、いつか明日すら消えてしまうとしても。
カサネ(M):今、息ができる。隣に、君がいてくれる。
カサネ(M):それだけで十分だから。
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0:以下、タイトルコール。
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リョウマ(M):終わった世界で、
カサネ(M):二人は小さく息をする。
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0:ひと気のない廃墟と化した街を二人が歩いている。
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リョウマ:日も暮れかけてきたな。カサネ、寒くないか?
カサネ:大丈夫だよ。リョウマ君。
リョウマ:そろそろ季節の変わり目みたいだからな。あったかくしないと、体調崩すぞ。
カサネ:それ、リョウマ君が言う?マフラーも手袋も全部僕に渡しちゃってるのに
リョウマ:俺は寒いの慣れてるからな。こうして、手を繋いでれば大丈夫だ。
カサネ:……ごめん、気を使わせちゃって。
リョウマ:謝んなよ。俺が好きでやってんだから。
カサネ:……うん。
リョウマ:あそこのビル、崩れなさそうだし今日の拠点にするか。
カサネ:わかった。
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0:半壊のビルに入っていく。
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リョウマ:ここならちょっとは寒さも凌(しの)げんだろ。
カサネ:そうだね。野宿にはちょうど良さそう。
リョウマ:今、火起こすからちょっと待ってろ。
カサネ:ありがと。
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0:リョウマ、枯れ木で火を起こし始める。
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リョウマ:にしても、この街もはずれっぽいな。人なんてとてもいそうにない。
カサネ:僕もそんな気がする。大規模シェルターもなさそうだし。
リョウマ:せっかく期待してたのにな。でも一応、後でちょっと見て回ってくるわ。
リョウマ:少人数用シェルターならあるかもだし、食べ物も探さないとだから。
カサネ:気をつけてね。何があるかわかんないし。
リョウマ:おう。
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リョウマ(M):昔、人間はこの世界に数十億人もいて、あちこちで暮らしていたらしい。
リョウマ(M):とても信じられないけど。
リョウマ(M):だって、今はもう人が住んでいる地域の方が少ないから。
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カサネ:火、起こせそう?
リョウマ:もう少しっぽいんだけど、木がしっけてんのかな?
カサネ:貸して、僕がやってみる。
リョウマ:いいよ、カサネは座ってろ。
カサネ:ううん、僕がやる。だってリョウマ君不器用なんだもん。
カサネ:僕の方が上手にできるよ。
リョウマ:なっ。そこまで言うなら、やってみろよ。
カサネ:うん。これはね、こうしてしっかり固定して……。ほら、煙出てきた。
リョウマ:マジで!?うわ、ほんとだ。
カサネ:ふふふ、だから言ったでしょ。僕の方が上手だって。
リョウマ:……くそ、なんかめっちゃ悔しいな。
カサネ:あはは、しっかり精進してくださーい。
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カサネ(M):僕らが生まれたときから、人類はもう絶滅を待つだけだった。
カサネ(M):それぞれが自分たちのシェルターや居住区にこもり、少ない食べ物を分け合って暮らす。
カサネ(M):大昔に文明と呼ばれたものは、とっくに機能していなかった。
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0:火でスープを温めるリョウマ。
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リョウマ:前の廃シェルターでスープの缶詰拾えて良かったな。
カサネ:久しぶりのあったかい食事だもんね。
リョウマ:まったく、ご先祖様たちはこんな食事を毎日できてたんだと思うと、信じられないな。
カサネ:そうだね。なんなら缶詰じゃなくていつも生の野菜や肉で、スープとか作ってたらしいよ。
リョウマ:それ、お前がよく読んでた本に書いてあったことだろ?
リョウマ:絶対嘘だって。
カサネ:嘘じゃないよ!ゲンダさんだって言ってたもん!
リョウマ:ゲンダの爺さんが?なおさら信用できないな。あいつボケてんだろ?
カサネ:もう、またそういうこと言う!年配の方は、大事にしなきゃダメだって習ったでしょ!
リョウマ:わりいわりい。ほら、できたから先食えよ。
カサネ:むー。……ありがと。
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リョウマ(M):俺たちが自分の生まれたシェルターを出てから、もう半年が過ぎた。
リョウマ(M):大変なことばかりの毎日だけど、なんだかんだで楽しんでる。
リョウマ(M):少なくとも、あそこで死ぬのをただ待つ日々よりずっといい。
:
カサネ:いただきます。ふー。ふー。あむ。
リョウマ:どうだ?うまいか?
カサネ:うん、美味しい。待ってね、今リョウマ君にも食べさせたげる。
リョウマ:ばか、俺はいいよ。自分の分あっから。
カサネ:いいからいいから。ふー。ふー。ほら、あーん。
リョウマ:ちょっ。……はぁ。あー、あむ。
カサネ:どう?美味しいでしょ?
リョウマ:まぁ、そりゃあ。
カサネ:もう一口食べる?
リョウマ:いいって!ちゃんと自分で食え!
:
カサネ(M):僕らはずっと、長い道のりを歩いてここまできた。
カサネ(M):そしてきっともう、二人とも帰る場所なんてない。
カサネ(M):他の誰でもない、僕のせいで。
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リョウマ:おいカサネ。栄養食もちゃんと食えよ。
カサネ:えー、今日はいいでしょ?スープは飲んでるし。
リョウマ:わがまま言うなよ。体力つけないとなんだから。
カサネ:わかって……。!ごほっ!ごほっ!
リョウマ:っ!おいカサネ、大丈夫か!?
カサネ:(咳き込みながら)……だい、じょぶ。ちょっと、変なところに入っただけだから。
リョウマ:そ、そう、か……。焦らないで、ゆっくり、食えよ。
カサネ:うん…、わかった。びっくりさせて、ごめんね。
:
リョウマ(M):カサネは生まれつき、肺に病気があった。
リョウマ(M):それもあのシェルターにある薬じゃ、治らないくらいの難病。
リョウマ(M):周りにいた大人たちはみんな、長くはないって諦めてた。
リョウマ(M):他人事だからって簡単に。
:
カサネ:忘れ物ない?ナイフとか持った?
リョウマ:ああ、平気。あんまり期待できなさそうだし、すぐ戻ってくるかも。
カサネ:うん、絶対無理しちゃダメだよ。明日だって探せるんだから。
リョウマ:わかってる。お前もしっかり毛布かぶって、寒くないようにしとけよ。
カサネ:うん……。
リョウマ:じゃあ、行ってくる。
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0:リョウマが出て行こうとする。
:
カサネ:あ、リョウマ君!
リョウマ:ん?どうした?
カサネ:……いってらっしゃい。
リョウマ:……おう。いってきます。
:
カサネ(M):リョウマ君は、外の世界に僕の病気を治す薬を探しに行こうって言ってくれた。
カサネ(M):俺はこれから先もずっとお前と一緒に居たいからって。
カサネ(M):両親が死んでしまい、孤児だった僕らが出ていくのを強く止める人はいなかった。
カサネ(M):そうして、僕はリョウマ君の人生を狂わせてしまった。
カサネ(M):平穏にあのシェルターで生きる未来を奪ってしまった。
:
0:リョウマが帰ってくる。(少し間)
:
カサネ:ごほっ!ごほっ!はぁ、はぁ。ごほっ!けほっ!
リョウマ:カサネー、帰ったぞ……。は!?(焦って駆け寄り)お、おいカサネ!大丈夫か!?
カサネ:あっ…リョウマ、くん……。おかえ、り。げほっ!ごほっ!
リョウマ:喋んな!今薬を……!
カサネ:ダメ!もう、残り少ないから、もしもの時にとっとかないと。
リョウマ:そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!
カサネ:(咳き込みながら)……へい、きだよ、もうおさまると、思うから。
リョウマ:……。
カサネ:だから、お願い。手、握ってて。そばに、いて?
リョウマ:わかった。どこにもいかない。俺はここにいるから。ずっと、離れたりしないから。
:
リョウマ(M):俺が、代わってやれればいいのに。
リョウマ(M):何度思ったかわからない。願ったかわからない。
リョウマ(M):カサネが苦しんでいるのに、何もできない自分が憎かった。
リョウマ(M):無力な自分が許せなかった。
リョウマ(M):それこそ、殺してしまいたいほどに。
:
カサネ:……ありがと。落ち着いてきたみたい。
リョウマ:よかった……。
カサネ:ごめんね。心配かけて。
リョウマ:俺こそごめん、カサネが苦しんでるのに側にいなくて。
カサネ:ううん、リョウマ君は悪くないよ。こんな、こんな僕がいけないんだ。
リョウマ:カサネ……。
カサネ:僕がこんな病気じゃなかったら、リョウマ君に迷惑だって……。
リョウマ:カサネ!
カサネ:……。
リョウマ:それは言わない約束だ。俺はカサネのことを迷惑だなんて思ってない。
カサネ:リョウマ君……。
リョウマ:自分を責めんな。悪いのは、全部病気だ。絶対、俺が治してやるから。
カサネ:……うん。ありがとう。
:
カサネ(M):僕は時々、自分が生まれてこなければよかったのにと思ってしまう。
カサネ(M):そんなこと言ったらリョウマ君は絶対怒ると思うけど。
カサネ(M):でも僕さえいなければ。君と出会う前に死んじゃってれば。
カサネ(M):そんな辛そうな顔、させずに済んだのに。
:
リョウマ:そろそろ寝るか?カサネ。
カサネ:そうだね、もうかなり暗いし。明日も早いでしょ?
リョウマ:ああ。ゆっくり寝てたいけど、とっとと探索して、次の人がいるところ探さないとだからな。
カサネ:できたら大型シェルターとか見つかるといいね。そしたら野宿とも少しお別れできる。
リョウマ:だな。お前の病気を治すヒントも探しやすいし。
カサネ:ねぇ、リョウマ君。
リョウマ:ん?どうした?
カサネ:今日さ、一緒に寝てもいい?
リョウマ:……おう、そっちの方が寒くないもんな。
カサネ:うん。じゃあ、そっちいくね。
:
0:カサネがリョウマの方に行く。
:
リョウマ:よし、じゃあ毛布かけるぞ。
カサネ:ふふ、やっぱりくっつくとあったかいね。
リョウマ:だな。
カサネ:……ねぇ、リョウマ君。
リョウマ:んー?
カサネ:抱きしめて、欲しいな。
リョウマ:……はは、どうした?今日はやけに甘えるじゃん。
カサネ:ダメかな?
リョウマ:……はい、これでいいか?
カサネ:もっと強く。
リョウマ:え?
カサネ:もっと強く、痛いくらい抱きしめて。
リョウマ:……こうか?
カサネ:うん、そのままずっとずっと、ギュってしてて。
リョウマ:寝れないだろ、これじゃあ。
カサネ:それでも、いい。
リョウマ:いいって……。
カサネ:この幸せな時間が続くならもう、なにもいらない。ずっと、ずっとこうしていたい。
カサネ:(泣きそうになりながら)リョウマ君の腕の中にいたい。リョウマ君を感じていたい。
リョウマ:カサネ、お前……。
カサネ:ずっと一緒にいたいよ。先に死にたくなんてない。
カサネ:それが叶わないならせめて今くらい、こうして……。
リョウマ:カサネ、顔あげろ。
カサネ:えっ……?んっ……。
:
カサネ(M):リョーマ君が僕のおでこにキスをする。
:
リョウマ:俺はずっと一緒にいるよ。何度だって抱きしめるし、キスだってする。
リョウマ:俺だって、お前をずっと感じてたいんだから。
リョウマ:絶対に先に死なせたりしない。
カサネ:……本当?
リョウマ:ああ。あのシェルターを出るときに俺は決めたから。
リョウマ:お前を一人になんてしない。一生、一緒にいる。
カサネ:リョウマ、くん。
リョウマ:だから泣くな。泣いてる顔は、似合わないよ。
カサネ:うん、わかっ、た。ありがとう。
リョウマ:おう。お前は安心して寝ていいんだ。ずっと、そばにいるから。
カサネ:うん……。ねぇ、リョウマ君。
リョウマ:ん?
カサネ:大好き。
リョウマ:……俺も、大好きだ。
:
リョウマ(M):こうして俺たちは眠りへと落ちて行く。互いの浅い息づかいを聞きながら。
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0:夜が明ける。(間を開ける)
:
カサネ:うん、よし。リョウマ君、こっちは準備できたよ!
リョウマ:俺もオッケーだ。出発するか。
:
0:二人歩きながら。
:
カサネ:今日は昨日よりあったかくてよかったね。
リョウマ:そうだな、この様子なら次の街までは全然いける。
カサネ:今度は人が居るといいけど。
リョウマ:どうだか。ただ、ここの街が捨てられてたってことは、近くに大きいシェルターがあって、そっちにみんな移り住んだ可能性も出てきたしな。
カサネ:じゃあ、昨日よりは希望が持てるね。頑張ろう!
リョウマ:おい、はしゃぎすぎるとすぐ疲れるぞ!
カサネ:大丈夫!今日は体の調子いいの!
リョウマ:ったく、昨日はあんな不安そうな顔してたくせに。
リョウマ:って、引っぱんなよ!
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0:少し間を空けて。
:
カサネ(M):この世界は、僕らが生まれるずっと前から終わっていた。
リョウマ(M):でも、俺たちにはそんなこと関係ない。
カサネ(M):だってここには、リョウマ君がいて。
リョウマ(M):そしてここには、カサネがいるから。
カサネ(M):だから僕たちは息をする。
リョウマ(M):だから俺たちは手を繋ぐ。
カサネ(M):死んでしまうそのときまで。
リョウマ(M):ずっと一緒に生きていきたいから。
カサネ(M):たとえ世界が、とうの昔に終わってしまっていても。
リョウマ(M):俺たちの人生はまだ、始まったばかりだから。
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0:終劇。