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10月13日

 仕事を辞めてからというものヘルス嬢に舞い戻ってはや1ヶ月。梅毒という危険な病気におかされていた過去ももう忘れこわいものなしだぞという顔をして週に2、3回出勤をしている。休んでいたブランクもなんのその指名してくれていたお客さんが
「わぁももちゃん久しぶり〜」
 この人誰だっけ? あなた誰? そんな人ばっかり。お久しぶりです〜と知った顔をし笑顔で返す。
「骨折してねぇ〜」
 なんで休んでいたのっつー話になるからその理由は何個か用意してありいくつかに分けで答えている。
「なんかさ痩せたよね」の声がダントツに多く過食嘔吐が酷くてねぇあははとは絶対にいえず、酒の飲み過ぎでぇ〜青白い形相ではははと笑ってごまかす。
 摂食障害がおそろしくひどく食べては吐いてを毎食くり返しあげくおもてにいるときは水かゼリー飲料以外口にしないためそれやー痩せるに決まっている。それもまさに『ザ・摂食障害です』を垣間見るような病的な痩せ方なのでわかる人にはわかってしまう。浮いた肋骨。ヒアルロン酸を入れた不自然な胸。あたしはなんて気持ちの悪い生き物なのだろうと訳もなく涙を流す。自動的に誰にもあいたくもなくだから誰にもあってない。もともと友達もいないしだしもともと孤独には慣れているからなんとも思わないけれどヘルスに行けばおとこどもが体を触りあたしを蹂躙し玩具のよう扱い舐めまくる。
 汚ないあたしの体を。
 あたしは一体なにをしているのだろう。であった分の男に体を舐められながら天井を見つめて考える。天井は真っ白だけれど所々に黒い染みがありケシミンを塗ってあげたい衝動に駆られる。大きな声で叫びたくなるも必死に堪える声は愉悦の声に変わり男は感じてるんだねとバカげた言葉を発するからつい笑いそうになる。
 てゆうかバカなのはあたしじゃねーか。
 個室なので待機をしている間ずっと横になって眠っている。暇な時間は全て睡眠に費やす。特に眠たくはないけれどスマホを見るのもテレビを見るのも文庫を開くのも全てが嫌なのだ。
 目を閉じるとまぶたが光を遮断するけれど真っ暗じゃない限りなんとなく明るさが残る。まぶたの役目は遮光をなしてないんだなとかまた変なことを考える。
『プルプル……』
「はい」
「ももちゃん、お仕事です」
「はい」
 フロントからの電話を受けあたしは部屋の明かりを少しだけ落とす。あまりにも暗いと逆に恥ずかしことを最近知った。それに明るくてもなんでもいい。あたしは仕事をしているのだ。舐める舐められる仕事を。
「ももちゃんさ、痩せたね。大丈夫なの? 食べてる?」
 つい最近来たお客さんにまた同じことをいわれ頼りなく首を横にふる。
「まあなんとなくは……」
 意味がわからない返答にお客さんは眉間にシワを一瞬浮かべてはははと嘘くさい笑いを浮かべる。気持ちが悪い。足が臭かった。
「この前さ予約しようとしたらもうダメっていわれたからさ。今日あえてよかったよ」
 まあよくいわれることだ。あたしもあえてよかったですとおもねた声で返事を返す。キスいい? と聞く人が嫌いだ。いいよとあたしは唇を差し出す。
 目をつぶってしまうと誰としても同じような気がするし舐められるとそれでも感じてしまうしなんだか情けないやらかなしいやら虚しいやらで結局直人にあいに行き抱きしめる。
「あたしね他の男のやつ舐めてるんだよ」
 平然と真顔で直人に素直にいえばどんなリアクションをするだろう。なにいってんの? とキョトン顔をするのが目に浮かぶ。
 過食嘔吐のために食材をたくさん買い込んで食べる姿をYouTubeにアップしようかとも考えてやめる。めんどくさい。ただのストレス発散法なだけだ。けれど目減りでお金が減ってゆく。フーゾクもさほど稼げないのが現実だ。
 なにが楽しいのかなにがかなしいのかその境界線が曖昧でわからない。死と生の境目をさまよっているあたしはやや死の方面に行きそうになっている。パンを喉に詰まらせて死にそうになった。パンは吐くとき玉になって出てくるのだ。ソーメンは鼻から出てくるしアイスは冷たいまま出てくる。
 死にたい……
 生きているのがつらい。
 

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