甘ったれ新人類の自己紹介
あまり自己紹介になっていないだろうけれども、初めての投稿なので、人類の歴史を振り返ったり自分についてのことを書いたりしてみようと思った。
突然だが、私は先日、恐ろしいことにはたと気づいた。この恐ろしさを伝えるために、少し人類の歴史をさかのぼらなければならないのである。
現生人類であるホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したとき、旧人であるネアンデルタール人はすでにアフリカの外へと居住範囲を広げていたらしい。私たちの祖先もそれを真似るかのように他の大陸へと進出し、彼らと隣り合って暮らし、時に交雑した。そしてとうとう純粋なネアンデルタール人は姿を消してしまった。
ネアンデルタール人は、個体としてはホモ・サピエンスよりも多くの面で優れていたと聞いたことがある。ただ、ホモ・サピエンスは工夫を凝らした道具を作って使用する能力に長けていたために、様々な環境に適応することができたとのことだ。さらに我々ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人よりも高い社会性を持って大きなコミュニティを作り、協力しあって生活していたらしい。
と、賢しげに語ったところで見た者はもういない。「あ、俺見たぜ」と主張する人間はほぼ確実に詐欺師だ。だから実際にどうだったのかはわからないが、少なくとも私が以前に見たテレビ番組ではそう語られていたと記憶している。
以上のことを前提とすると、現生人類の特長は「便利な道具を作り出す創造性」と「高い社会性」あたりになるのだろうか。
そう考えたところで、話は冒頭に戻る。
恐ろしいことに、どうも私には、二つの特徴のうちどちらも備わっていないように思えるのである。
はっきり言えば、創意工夫の能力がやや欠けていて、コミュニケーションが壊滅的に苦手なのだ。
特にコミュニケーションについてはひどいものである。私にとっては日常の一分一秒がちょっとした綱渡り気分なのだ。
例えば道端で配られているティッシュをもらうだけでも緊張してしまう。どのタイミングで手を出せばいいのか、無言で受け取ればいいのかお礼を言えばいいのか会釈をすればいいのか笑みを浮かべればいいのか、もらったティッシュは自然な流れでポケットに入れるのかカバンに入れるのか?
考えれば考えるほど悩みは増えて解決しない。たいてい最終的には「あ……ます」程度の感謝の言葉を述べながら半笑いになり、地面のエサを拾う鳩のように首を突き出すのが関の山だ。
あるいはレストランやカフェでセットメニューを注文するとする。店員が何か尋ねてきたが私の運の尽きだ。
コーンスープかコンソメスープか、パスタは箸かフォークか、食後はコーヒーか紅茶か。泡を食った私は、コーンスープで、フォークで、紅茶と答える。すると店員はさらに紅茶にはミルクかレモンかを尋ねてきて、私はさらに動揺することになるのだ。
そして何よりも厄介なのは、この綱渡りの綱が決して高いところに張られているわけではない、と私自身がよく理解していることだった。落ちても死にはしないだろう。「落ちちゃったよあはは」ですむことは知っている。さらに、調子のいいときはスイスイと、まるで人並みの真人間のようにそれらの障壁を乗り越えていけるのだ。
私は何もできないわけではない。本来ならできる能力は備わっているのに、調子が悪くて、あるいは低い位置に張られた綱から落ちることを恐れてしまって普段はうまくいかないのだ。
とはいっても、恐怖という感情は動物としての人間が持っている重要な本能だ。私は本能レベルで怯えているのである。
ということは、なんと私は、ホモ・サピエンスが長い時間をかけて生み出した新人類なのではないか。
ならばホモ・サピエンスよりも優れたところが一つくらいはあるはずなのだが、それはまだ調査中である。もしかすると調査を終える前に私の寿命がつきるかもしれない。ホモ・サピエンスの諸君とは違う新人類とはいえ、人類の発展に貢献できないのは非常に残念なことだ。
……などと、私はパソコンに向かって文章を書いている。コミュニケーションが苦手だから自分は新人類だ、と、誰かに伝えようと語っているのだ。社会性が欠如していることを社会に生きる他者に伝えようと文章上で喚いているわけで、なんともおかしな話である。
結局のところ、私は、社会という大きな群れの中で生きている哀れな一人のホモ・サピエンスなのだった。
口ではうまく表現できないと言い訳をして、読まれるかもわからない文章をひっそりと息を潜めて書いている。それに頼らなければならないほど社会との結びつきを求めている。これが社会性でなくて何なのか。
むしろ、私が文章を書くことさえもやめてふらりと失踪することがあったなら、そのときこそ私の中の新人類が目覚めたときなのかもしれない。
よし、身近な人々にはそう伝えておかなければ。
出た結論がこれだったので、きっと私の中の新人類は私が死ぬときまでぐっすりと眠りこけているに違いなかった。