海のタイヤキ
俺の文章は読みづらいと自覚している。
なぜなのかと考えてみると、それは読み手のことを全く考えてないから。
全く全然、と言っちまうとさすがに卑下し過ぎているかもしれない。
カッコつけて良く見せてやろうという下心は隠しきれてねえんだもの。
でも概ね、やっぱり読む人の気持ちを殆ど無視しているんだよね。
乱文といえばなんとなくクールな装いに感じなくもないけれど、
どっからどう切り取っても乱文で基本的な文法なんてのも出鱈目だもんで、
もはやポエムとか独白とかチラシの裏に書いた、抽象的でインテリジェンスの低い絵空事と思うわけよ。
全く関係がないが俺は「およげ!タイヤキくん」という歌が好きなのでカラオケでけっこう歌う。
ハチの子ハッチーの主題歌も併せて歌う。
すると他の面子からはヒンシュクを買う。
まあんなことはどうでもよくて、タイヤキくんについてだけど
タイヤキが泳ぐんだからこれはもうとんでもないことなのに、
野太い声がポップでキャッチーで粘っこく歌い上げていて、ああいうのって良いよなあと思うのよね。
そもそもタイヤキはエライ。
基本的に美味い。
美味いくせにファンシーな姿をしていて、カリっと香ばしいのとしっとり感が同居している。
小倉やクリームチーズがハラワタに詰まってても美味い。
歌についてだけど、
歌詞が出だしから無茶苦茶なところがいいのよ。
毎日毎日焼かれたら嫌になっちゃうって、そりゃそうだ。地獄だろ。
焼死は死に方の中でもトップ3に入るくらい苦しいらしいな。狂っちまった方がずっとマシだ。
でも黙ってジィっとじゅうじゅう炙られて、テイクアウトされて
結局冷めちゃったりもするわけよ。
そこらのタイヤキたちに何となく自我が芽生えて、総出で脱走してほしいと俺は中野のタイヤキ屋の前を通るたびに思うのね。
逃げるというか、野望のために順応しようと頑張るんだけど根性だけじゃどうにもならなくて、
結局途中で溺れてあっさり息絶える、そういう生き物になってくれよと。
俺は年に数回釣りに出かけるんだけど、
色んな魚を釣ってみたいのよね。
バカでかい魚からトゲトゲしい毒を持った魚、
チェルノブイリに生息するヨーロッパナマズみたいな怪魚、ピラルクみたいな怖いくらいなサイズの淡水魚まで。
竜宮の使いにも対面してみたい。
あいつらの白身は弾力があって美味いらしい。
メガマウスなんかもいいね。貧弱でちょっとの衝撃で死ぬマンボウとか、
深い水域を回遊している牙だらけ奴とか、
海のギャングに生きた化石、あとはトビウオなんかもいい。
100メートルも滑空するって本当かよと。魚だぜあいつら。
虫取り網でも捕まえられるじゃないかと妄想が捗る。
でも何よりも一番釣りたいのはタイヤキだ。
海でタイヤキくんを釣りたい。
頭から尻尾までアンコぎっしり詰まってますとか、そういうタイヤキはいらん。
腹にだけ実が詰まってたらそれだけでいい。
頭はしっとり腹には多少塩気があり、
汗や涙の味を思い出させるようで健気じゃねえかその方が。
尻尾はアンコが全然詰まっていなくていいしその方がむしろいい。
焦げ目付き、パサパサでカサカサしてしなやかさを失った尾びれでいい。
そんな生き方を獲得したタイヤキがどっか泳いでないかね。
タイヤキのタイヤキ生なんてそんなもんでいいと思う。人生も似たようなものだし。
最後まで甘くて口当たりが良好なんて、まっぴらごめんだね。
ペットボトルを繋ぎ合わせたような雑なイカダで、
海をのらりくらり泳ぐタイヤキを釣らせてくれ。
そして串にぶっ刺して火炙りにして噛み砕かせてくれ。
その後、そのまま難破するだろう。
運よくいや運悪くどこかの知らない離島に流れ着いたら、
幸運だけど不幸なんだろうなと思うかもしれない。
毎日毎日嫌になっちゃうよな、たぶん。
無人島で石ころを蹴り上げて星まで飛んでいけとか、一人遊びもネタ切れになるだろうね。
毎日毎日嫌になっちまうね。できないことはできないんだから。
所詮同じ人間同士でもあるし、所詮よくわからん別の生き物同士なわけで。
タイヤキは海でたぶんすぐ死ぬだろうけど、そのタイヤキはタイヤキでも違うタイヤキなわけね。
泳げよ。