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本当に役に立つ音声ナビが出て来ない理由

目が見えなくても自由に歩きたい。そういう願望に対して、いろいろな音声歩行ナビが登場する。

期待をもって試してみるが、またしても「何もないよりはまし」のレベルだ。その根本にある原因とソリューションについて考える。

■ 実用になる音声ナビがない理由

端的に言えば、

1 晴眼の人たち主体で、既存の歩行ナビを音声化すればできる、と考えて作っている。

2 できたものを自分たちで十分試すこと無く公開した。

マイクロソフトが大々的にリリースしたSoundscapeというアプリも例外ではなかった。これに落胆した人たちは少なくないはずである。

この事実からも、この問題は根が深いことがうかがえる。

■  晴眼者用の歩行ナビとの決定的な相違点

晴眼者でも、音声ナビを使えば、歩きスマホしないで目的地にたどりつけるので便利だ。これは、歩きスマホしないで、

前方をよく見て歩かないと危ないですよ、ということも意味している。

こまかな部分や衝突回避は、自分の目を使って自己責任でやるというあたりまえの前提である。

見えない人にとって、前を見て歩くことが前提の装置では不十分であることは自明だ。

たとえば、歩道に立つ大きな街路樹は歩行地図には記載がない、

スーパーの敷地に入ってから自動ドアまでの長い経路も歩行地図にはない。

これらは、見える人には問題にならないことだが、視覚障害者には大きな困難となる。

■ 「何もないよりはまし」のナビの現状

それでも音声ナビを使って歩いている視覚障害者はいる。

現在の所番地、目的地の方向、近くの商業施設の名前などは読み上げて(コールアウト)してくれる。これはそれなりに役に立つ。

だが、私を含め、おおぜいの視覚障害者はこれをたよりに街を歩く勇気はない。怖い、不安だ。

さらに、周りに商業施設がない田舎の曲がった道では、ほとんど役に立たない。

■ AIによる画像認識の効果は限定的

深層学習(deep learning)を使って前方の物体を音声読み上げするアプリがある。

発行元や評価動画では、○○ができる、と礼賛しているが、我々の日常での効果は限定的だ。

深層学習では、すべての物体を事前に学習させることを要する。

100や200の物体の認識ができたとして、それは、実際に遭遇する、星の数ほどの物体のごくごく一部にすぎない。

たとえば、倒れた自転車や うずくまっている幼児が判別できるだろうか。

「時にはまちがうことがあるので自己責任で使ってください」という言い訳があるようなアプリは使いたくない。

おなじポストが検出できたり出来なかったり、では、役に立たないか、ときに危険なのである。

そのポストの検知が難しい理由はどうでもよい。ポストが見えない人には、結果だけが意味を持つ。

私は、特定の物体の存在を告知してくれるより、「障害物がない安全な床面が存在する」ことをおしえてもらえる方がありがたい。

さすれば転落もしない。

私は、AIによる画像認識が単独歩行の役に立つようになるためには、前方画像を全体的に認識して、一番安全かつ妥当な方向を 割り出すくらいのパフォーマンスが必須だと考える。

この技術は、車の自動運転と共通するので、早晩、シリコンバレーから出て来るだろう。残念ながら、日本にはその開発リソースはない。

■  誘導アルゴリズム、晴眼者用とのちがい

公開されている音声ナビで少し歩いて見ると、以下のような問題が体感された。

① 経路を検索して提案する

晴眼者用: もっとも短い経路

⇒視覚障害者用: もっとも歩きやすい経路がほしい

歩きやすい経路や安全な経路は本人しか決められない。つまり、経由点の設定などは、カスタマイズ可能であるべき。

しかも画面を見ることなく、である。

② ナビ途中で自動的に経路が変更される

晴眼者用: カーナビのように随時リルートする。

⇒視覚障害者用: まちがった道に入ったら勝手にリルートされるとわけがわからなくなる。

地図が見えないわけだから何がどうなったか理解できず、もとのルートに復帰することすらままならない。困る。

さらに、リルートの切り替え判断処理のために、数秒間案内が途切れる。これはカーナビでおなじみだ。 だがその間も、歩行者は

まちがった道を進みつづけることになる。リルートではなく、一刻も早く引き戻してほしい。

③ 横方向のずれを正す

晴眼者用: 目視で歩くから横方向にはずれない。

⇒視覚障害者用: 横方向にずれると車道の真ん中に出てしまうなど、危険

横方向のズレを正すためには、晴眼者用にないアルゴリズムを組み込む必用あり。

④ まっすぐな道では案内を間引く

晴眼者用: 道なりに歩けばよいので間引いても問題ない。

⇒視覚障害者用: まちがった方向に歩きつづけると危ないので、間断なく告知してほしい。

これについては、例で説明します。

車掌がバスのバック誘導をするとき、笛はかならず 「ピピッ、ピピッ、ピピッ、」と安全な間じゅう、連呼します。そうされないと、

運転手は安心してバックできません。おなじことなのです。

■ 正確ですばやい誘導が求められる

やや広めの交叉点を渡るとき、横断中に方向を失ったとする。その時の恐怖は経験しないとわからないものだ。

そういうとき、正確なナビがあって、速いレスポンスで正しい方向に誘導してくれると、命拾いができる。

逆に言えば、ナビには、正確かつ早いレスポンスが求められる。 意外だろうが、車用より速くあるべきなのだ。周囲が見えないからだ。

速いレスポンスを実現するには、とにかく、リアルタイムで実行される処理がシンプルでないといけない。

モバイル通信でどこぞのサーバーにある地図データをAPI経由で取得して再計算するようなことは、歩行中にやってはいけない。

私が試したなびアプリの不都合は、つきつめればその点にいきつくようだ。

一方、私が友人と開発したナビ「お散歩の友」は、当初からほとんど誤誘導を起こさなかった。ナビレク同様、既存の歩行地図を参照していない

そのため、リアルタイムでやっている計算処理は、「大小比較と三角法計算だけ」という点になる 。これではエラーの起きようがないし、遅延もない。

さらに、誘導アルゴリズムを考えた本人が何度もブラインド歩行してバグをつぶしたと共に、歩き心地を改善した。

残った誤誘導の原因は、ほぼ、GPSの測位誤差起因だけになった。

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