【8】 誰もが満足できるような視覚障害者用歩行ナビが出てこないのはなぜ?
「お金を払っても使いたい、と思えるほど役に立つ視覚障害者用歩行ナビは、まだ存在しない。なぜか。
最大の理由は、晴眼者用に作られたナビの、ユーザインターフェイス部分を音声化した程度では性能不足、ということになります。
第1章 視覚障害者用歩行ナビの実情
『1-1』 視覚障害者用歩行ナビの実情
「新しい音声ナビが出た」と期待をいだいて試して見たら、代わりばえのしないシロモノで、またしてもがっかりした、という視覚障害者は多いかと思う。
晴眼者むけのナビでは 「実際の歩行に際しては、自分の目で確認して歩いてくださいという前提が成り立つ。
たとえば歩道の真ん中に大きな街路樹があるとする。左右どちらに迂回すべきかは、ナビはおしえてくれないし、白杖だけでは判断が難しい。困る。
これは、参照している地図の分解能と情報量が足りないことが原因している。
そんなわけで、歩行訓練士の人たちは、異口同音に「いろんなハイテクのナビ装置があるが、参考程度にして、あくまで自分の白杖操作スキルを磨きなさい、と警告します。 歩行訓練士というのは、歩き方を私道するプロです。
たしかにどのナビも現在の位置と方向は知らせてくれる。だが、10分も歩いてみれば失望します。
位置精度が甘いし、ひんぱんにまちがった誘導をします。周囲が見えない人には、「ときには間違えることもあります」という言い訳は許されないのです。
第2章 米国における自動運転の実情
本パラグラフでは 「車の自動運転技術を使えば(視覚障害者用の音声ナビができるかどうか、について論じる。
サンフランシスコなど、地域を限っては無人タクシーの商業サービスが始まっている。これは、レベル4の自動運転に分類されるもので、いくつかの制限のもとではあるが、商業サービスが認可されている。
では、先駆的なサンフランシスコの例をみてみよう。
『2-1』【なぜサンフランシスコなのか?】
私は現地を知っているが、その理由は以下のように推測する。
理由1
多くの開発拠点があるシリコンバレーに近い。
理由2
三方向が海で、町全体が小さくまとまっている。
理由3
車が通れるすべての通りの名前、、番地、草稿方向、レーンなどが容易にデータベースにできる、そういう規模の町です
理由4
道が広くなく、レーン数が少ない。
理由5 温暖で、雪や凍結の心配がない。
よって、センサー付きのデータ採取車を1年も走らせれば市内全域の道路の状態を学習して、詳細なデータベースができます。
サンフランシスコのほかに、フェニックス(アリゾナ州)やラスベガス(ネバダ州)などでも走っているが、いずれもまわりが砂漠で市内と郊外の区分がはっきりしています。また雪も降らない。
第3章 自動運転のためには周到なデータ蒐集走行が必用
『3-1』 自動運転のためには事前のデータ蒐集走行が必用
カーナビは、人が前方を見ながら運転する。自動運転においては人がいない。これは、運転手が目隠しをされたのとおなじことである。
詰まるところ、目で得ていた情報のすべてを機会で取得して、処理しなければならない。
そのためには道路地図の情報に加えて、追加的な路面情報+リアルタイムのセンサー情報 が必用となる。(もちろんサイレンの音やタイヤからの振動も使うが)
事前に対象エリアを繰り返し走って学習するのは、この「追加的路面情報」を取得・蓄積するためである。
『3-2』サンフランシスコを例にとって考えてみる
① その場所ではケーブルカーのレーンを走ってもよいかどうか。
② ケーブルカーの線路はどこで渡るのがよいか。
③ ケーブルカーの展開場所では、どのように迂回すべきか。
⑤ 広い交差点で左折するとき、交叉点の中では どのような進路を取るべきか。
⑥ Fisherman's Warf の前の広場などではどう走るべきか。ケーブルカーが来たらどちらに避けるべきか。
これらの情報はGoogle Mapや衛星写真だけでは得られない。実際に人間が繰り返し運転して、その場所でのコーシング(coursing)を学ばせるしかない。さらにGPSには誤差と遅延があるから、現在位置の特定にはリアルタイム画像とストック画像とを対比して補完することも不可欠だ。
『3-3』 それでも問題続出
このように周到に準備しても、異常事態が起きて路側で停まると、遠隔オペレータが介入します。
その他、ちょっとした混雑状態でもたもたして渋滞をおこしたり、後ろから緊急自動車がサイレンを鳴らして来ても進路をゆずらない、とかのクレームが出ています。臨機応変さに欠けるわけです。実際、現地ではかなりの反対の声が上がっています。
『3-4』レベル4ですらむずかしい自動運転
サンフランシスコというエリアを限定し、かつ、厖大な事前学習走行をかさねても、かろうじてレベル4が実現できているというのが現実です。
さらに条件を緩和シたレベル5については、お先真っ暗。多くの企業やスタートアップがレベル5の開発から手を引いています。
第4章 生成AI プラス 画像認識では不足?
毎日、生成AIの話題がつづく。そんな話しにふれると「AIを使えば、目の悪い人を誘導するくらいは かんたんだろう、と考えるかもしれない。本パラグラフでは、それが幻想であることを述べる。
『4-1』サンフランシスコで起きていること
生成AIの開発拠点も自動運転技術の開発拠点もともに米国シリコンバレーやサンフランシスコに集積している。
自動運転の開発者たちは、当然、生成AIの可能性については精通している。その彼らがつぎつぎとレベル5の自動運転の開発から手を引いている。
『4-2』生成AIの限界
生成AIでは、厖大な情報をサーバーにためこんで学習し、それらを瞬時に参照しながら回答を出す。
たとえば「カメラをバス停に向ければ バス停です と叫ぶ。東京タワーもわかる。
だが、多数の子供たちのなかから自分の子供を見つけることはできない。
自動運転で例えれば、除雪されずに残った雪のかたまり と ねそべっている白いイヌ と 風で飛んできたレジ袋 とを識別できるだろうか? 生身の人間でも写真を見ただけでは無理だ。
現実世界では、季節や転向などさまざまな情報を総合して、それがレジ袋であると判断できる。
視覚障害者の日常においては、もちろん、バス停を見つけてもらえれば助かる。だが、広い駐車場で車の間に迷い混んだとして、そこからの脱出を助けてもらえるだろうか?
私が難度も経験したのは、前方で小路か作業の気配がするとき、どうしたらよいのかわからない場面である。
知りたいのは「傷害ブツがある方向」ではなく「もっとも確からしい、安全な進路 である。
理屈の上では可能なのかもしれない。しかし、やってみればみるほど問題の複雑さに気づき、ギブアップさせられるわけである。 シリコンバレーでは次々と自動運転プロジェクトが店をたたんでいる。
かように、目の悪い人をどこへでも音声でナビゲートするというのは難しい。レベル5の自動運転とおなじくらい難しい。
第5章 お散歩の友はレベル4の自動運転に相当
レベル4の自動運転においては、事前に、周到かつ精緻な道路情報を準備することを述べた。 つまり、どこへでも行けるわけではない。
『5-1』レベル4の自動運転とお散歩の友の類似性
お散歩の友では:
① ナビする範囲を、自宅からの徒歩圏に限定した
② 上記範囲を繰り返し歩いて、道路地図を詳細化するとともに、実際の路面情報を反映した。
表題の画像は、私が歩き回る範囲のルート網です。
これを参照用の経路データとして保存し、歩行時には、GPSの測位値、時期コンパスの方位値、白杖や靴底からのリアクションなどをもとに、もっとも適切な歩行進路を得ている。
私は、これで実際にのべ6000キロを歩いております。
『参考動画』
お散歩の友 を使って甲府駅前のロータリーを200mほど周回した実録。
『5-2』【ここまでのまとめ】
お散歩の友 における誘導手順は、レベル4の自動運転に相当する。
⇒ いろいろな制限や問題があるにしろ、自身の実用には供している。
ここで、。2つの指摘おしておきます
① レベル4の自動運転に相当する地図を用意するとして、誰がそのコスとを負担するのか? 視覚障害者のナビは、ビジネスとしてはぜったいに成立しない。ほとんどのナビアプリは無償で提供されている。
これが車の自動運転との大きな相違点である。
②サンフランシスコの道路でスタックしてしまった無人タクシーをみつけた人はどうするだろうか? とんでいって助けようとする人はいないだろう。だが、白杖で歩いている人が迷っていたら、多くの場合、You need any help? と声をかけてくれるだろう。これはうれしい相違点だ。
第6章 現実的なソリューションは?
『6-1』ではどうすればいいのか?
周りが見えないひとを誘導するためには、レベル4の自動運転相当のしくみが必用であることを述べてきた。
つまり、少なくとも精緻な地形データを用意しておく、ということである。
だが自分の行きたい場所の精緻なデータは存在しない。自力でつくるしかない。
お散歩の友やナビレクでは、事前に歩いて、歩きたい経路を具体的に収録する機能がある。
このルートづくりの負担が、ナビレクなど、実用性のあるナビの普及のさまたげとなっている。
『6-2』 現実的な解
現実的な解としては、不満ながらも無量の音声ナビと、アイコサポートなどの動画伝送を使った有人の支援サービスとを併用するしかないのかもしれない。
なお、アメディア社は、ナビレク用のカスタムルートファイルを有料で作ってくれる。この場合も、last 15 meters においては、アイコサポートが役に立つ。建物の玄関先のステップなどへの誘導である。