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この10年間に挑んだ7つのチャレンジ     ~ 視覚障害の不便さを補うために

はじめに

筆者は10年ほど前から白杖を使って歩いている。その間、さまざまな「視覚障害者が単独で移動できるようにするための工夫」を考えてきた。
これは、仕事ではなく、自分自身の不自由さの軽減と工学的な好奇心が動機であった。
その間に挑んだテーマをあらためてレビューしたところ、なんと7つの案件にのぼる。
本稿では、それらを簡単に振り返る。ほとんどのテーマには動画を添えている。
残念ながら、それらのうちで第三者にも使ってもらえているものはゼロだ。
その理由については、最後に「総括」で考察する。

<1> GPSを使った音声ナビアプリ「お散歩の友」

外部地図によらず、一度歩いた経路をくりかえし案内することがおもな機能。
実用性も完成度も高く、筆者はこのナビでのべ6000キロは歩いている。だが、他にユーザはいない。

関連動画

上は最初に投稿した動画で、現在とは仕様がだいぶちがっている。
他にも多数の解説動画を公開中。

<2> 屋内用の点字ブロック代替品 「MagGuide」

床に金属の薄帯を貼り、それを専用の白杖でたどる。
白杖の石突き部分にはサーチコイルが入っており、薄帯を横切るとトーンで知らせる。
サーチコイル、増幅回路、判別回路等を完成させ、確実に検知・告知して誘導できるところまで完成させた。
だが、インフラ側と歩行者側の両方にしかけが必要なため、実用性には欠ける。

<3> コード化点字ブロック 「パンダナビ」

点字ブロックのうち、警告ブロックとよばれるタイルに8個の黒いリングをはめる。その配置パターンをスマホで読み取り、案内情報を発話する。
コード化点字ブロックは、あまねくインフラの準備が必要なため、普及は難しい。将来もきびしかろう。
一方、まもなく生成AIによる画像認識が進んで、インフラへの投資無しで誘導できる時代になるだろう。

関連動画

ほかにも多数の動画を公開している。

<4> 周囲の騒音レベルに応じて「かっこう」の音量が変化する 
    ~ Adaptive 信号機

「かっこう」の音量が変化する音響式信号機の原理確認のためのアプリ。
スマホのマイクが取得した周辺の騒音を処理して、最適な音量で「かっこう」を鳴かせる。周辺住民への騒音迷惑を防ぐのが目的。

関連動画

他にも関連動画を公開中。

<5> 横断方向を音声で知らせるアプリ ~ トン2

横断歩道の端に誘導するとともに、正しい横断方向を音声で知らせるアプリが「トン2」だ。
GPSと方位コンパスを用いて、横断開始地点にピンポイントで誘導するとともに、正しい横断方向を知らせる。
別途、横断開始地点の座標と横断方位角を用意しておく必要がある。
これは、衛星写真と画像認識技術を使えば自動的に作成できる。衛星写真の精度は30センチ以上なので、高精度での誘導も可能。

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<6> iPhone を首からぶらさげるためのホルダー

前方画像を撮影しながら案内を受けて歩くためには、スマホの背面を前方に向けて保持する必要がある。
本品は、レーザーカットで切ったアルミを折り曲げて作る。くりかえしの試作を重ねており、実用性は高い。


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<7> レーザー特許技術を使って駅ホームや夜道での転落の危険を警告する装置

LiDAR技術を使えば、明るさやホーム上の異物の影響を受けることなく、確実なエッジ検知ができる。
試行錯誤を経て、設計どおりの性能・機能が確認できた。
ただ本装置単独では商品性はなく、あくまで技術的な可能性を確認したレベル。


肩に載せた回転型レーザーセンサー


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【総括】

以上、7件のチャレンジのうち実用に供されているものは<1>と<6>だけである。しかも、ユーザは私一人だけだ。
なぜ共感者が現れて、広まっていかないのか。以下にざっくりとまとめる。

成功のための要件:

・ ユーザが受ける便益とそれに関連する負担を比較した場合、前者が圧倒的に優位である。いわゆるコスパが良いことである。「練習しないと使えない、準備が面倒」なようでは受け容れられない。

・ インフラ側の負担が少ない。
インフラの準備にコストがかかる場合は、インフラの管理者にとって、アメかムチかのいずれかが必要である。
アメとは、儲かること。
ムチとは、法的になかば強制されることである。

点字ブロックがここまで普及するには、並々ならぬ苦労があった。

【付記】
<1>は、上村人史さんとの共同開発、<2>~<5>、<7>は、池上富雄さんとの共同開発。

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