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【総括:ブレーザー】言語を越えた"コミュニケーション"

2023/3/25
我々は初めて「彼」と遭遇した。

物々しい無線通信。世界観を物語る会話。そして、その異様なシルエットに多くのウルトラファンは胸を膨らませた。

2023/4/21
ついに「彼」は我々の前にその姿を現した。

銀色の肉体。身体中に刻まれた丹碧たんぺきのライン。見る者の目を引くクリスタル。そして、獣の如き咆哮。

「なんだこのウルトラマンは」
それが初めて見た感想だった。
まさしく未知との遭遇と言えるだろう。

2023/7/8
ネオンの街を蹂躙じゅうりんする未知の外敵・宇宙甲殻怪獣バザンガ。防衛隊の奮闘も虚しく、バザンガの猛攻は激しさを増していく。

誰もが終わりを予感したその時、「彼」は突然現れた。
呆然とする防衛隊一同。激しい攻防の末、バザンガを狩ったその巨人は夜空の果てに姿を消した。

GGF第1特殊機動団隊長・ヒルマゲントは、その巨人をこう名付けた。

「ウルトラマンブレーザー」と。


総括:ウルトラマンブレーザー



2024/1/20
 この日、『ウルトラマンブレーザー』はその物語に一旦の終止符を打った。全25話に渡って描かれた怪獣特撮、人間ドラマ、そして未知の存在とのコミュニケーションという大きなテーマ。30分という短い時間につづられた物語は、ファンを熱狂の渦に巻き込んだ。

 まずはこの素晴らしい作品をこの世に生み出してくださった製作陣の方々に感謝を申し上げたい。
本当にありがとうございました。

 今回はこの「ウルトラマンブレーザー」という作品について僕個人の見解を、良かった点と良くなかった点含めて述べていこうと思う。


■良かった点

・豊富な新規怪獣

 ウルトラシリーズを語る上で外せない要素、それは「怪獣」だ。ヒーローと並ぶ一大コンテンツ、「怪獣」。今作はそんな怪獣というコンテンツにこれでもかと言うほど力を注いでいることがプレミア発表会の時点で感じられた。
 
 壇上に並ぶまだ見ぬ怪獣達。第1話に登場したバザンガを始めとする、個性豊かな怪獣の数々。「今回は何かが違うぞ」、そう直感させる多様なデザイン。いざ本編を観てみると、どの怪獣も視聴者を飽きさせないギミックを備えていた。バザンガの時限式の爆撃、レヴィーラの液状化能力、モグージョンの頭の丸鋸や伸縮自在の腕。さらにタガヌラーやデルタンダルのような再登場怪獣も、以前登場した時とは別の側面を見せることで視聴者を魅了してきた。画面越しでも「今作は怪獣で魅せるぞ」という製作陣の気概を感じた。

・メインキャラ達のやり取り

 この作品の魅力は怪獣だけではない。主人公・ヒルマゲントを始めとする、特殊怪獣対応分遣隊・通称SKaRDの個性豊かな隊員の面々もこの作品の面白さに一役買っている。

 コミュ強で親しみやすい一面を持つが、その裏でスパイ活動を行うというギャップを持つSKaRDの諜報ちょうほう担当・アオベ エミ隊員。
アースガロンのエースパイロット(でもノーコン)且つSKaRDのリアクション担当・ミナミ アンリ隊員。
重度の機械オタクであり、機械と会話するという若干心配になる一面を持つSKaRDのメカニック担当・バンドウ ヤスノブ隊員。
農家生まれ故の命に対する慈愛と隊員達をサポートする冷静な判断力を併せ持つ、頼れるSKaRDの副隊長(おかん)・ナグラ テルアキ副隊長。
SKaRDのマスコット的存在であり、共に激戦を潜り抜けてきたブレーザーの戦友・23式特殊戦術機甲獣アーくんことアースガロン。
そして、いかなる戦況でも冷静さを欠くことなく作戦を成功へ導き、どんな状況でも仲間の命を絶体に見捨てない、「俺が行く」が口癖のSKaRDの隊長・ヒルマ ゲント隊長。

 この6人のやり取りがとても良いのだ。「これたまになるやつだ!」。そう言ってしまいたくなるような日常で起こる、なんとも言えない笑い。何度も見返したくなる。これもこの作品の個性の1つと言えるだろう。特に第2話はこの個性が顕著だった。

・様々なコミュニケーション

 この作品のテーマ、それは「コミュニケーション」だ。未知の存在との対話。隊員との対話。上層部との対話。怪獣との対話。妻や息子との対話。今作はあらゆる場面において「コミュニケーション」が鍵となっている。

 特に印象的な対話は、やはりゲント隊長とブレーザーの対話だろう。ウルトラマンブレーザー、彼は今までのウルトラマンとは一線を画す存在だ。特筆すべき点は、彼は言葉が話せないということだ。これまで多くのウルトラマンが地球を訪れているが、その殆どほとんどは地球の言語を習得していた(下手なやつもいた)。一方でブレーザーは言葉による意思疎通が取れない。それはつまり彼が何を考えているかを読み取ることが難しいということだ。

 実際、ゲント隊長もブレーザーとのコミュニケーションに手を焼いていた。突然意識を乗っ取り、テレビを観始めたり、野菜ジュースを飲み始めたりなど、不可解なものばかりだ。そして有ろうことか、その不可解な行動は戦いに支障をきたしてしまう。例えば、第10話ではデマーガ親子にトドメを刺そうとしたかと思えば、突然左腕でそれを静止し、防衛隊のミサイル群を迎撃。第11話では宇宙電磁怪獣ゲバルガを前にして敵前逃亡。これらの行動が原因となり、2人の間に軋轢あつれきが生じてしまう。コミュニケーションがテーマでありながら、意思疎通のかなめとも言える言語を廃するというのは中々思い切った判断だと思う。
 
 しかし、物語中盤にて彼の行動理念が明かされることになる。さかのぼること3年、ゲント隊長はある研究施設の救助任務中、ブレーザーに遭遇。こちらに手を伸ばす彼を助けようと隊長は光の中に飛び込んだ。これが2人が始めて邂逅かいこうを果たした瞬間である。この時、何のためにブレーザーは手を伸ばしていたのか。その理由は「命を救うため」。防衛隊の一員として、命を救うために光の中に飛び込んだゲント隊長。見ず知らずの星で、偶然出会った小さな命を救うために手を伸ばしたブレーザー。

 確かに言葉は通じないのかもしれない。それでも種族も、文化も、生まれた場所も、何もかもが違う2人が同じ意志を抱き、同じ行動をした。あの瞬間、そんな小さな奇跡がこの無限の宇宙の中で起こっていたのだ。それに気づいた時、2人は「命を救う」という同じ意志の元、再び戦場に赴く。

"誰かを護りたいという願いは言葉よりも強い勇気"

 ウルトラマンブレーザーエンディングテーマ
『Brave Blazer』より引用


 言葉は手段であって、全てではない。通じ合う方法はきっと1つではない。そう訴えかけるものが、この2人の関係性はあったのだ。


■良くなかった点

・悪い意味でのリアリティ

 今作の防衛隊SKaRDは、地球防衛隊GGF(Global Guardian Force)内に新設された部隊の1つという設定だ。しかし、GGFの指揮系統から独立しているため、SKaRDは独自行動を許されている。この設定は上手いと思った。今作は防衛隊関連の設定がリアル寄りであるため、SKaRDの行動にも相応に説得力のある理由付けが必要になる。この設定は、そのノルマを上手く達成していると思った。

 しかし物語中盤、アースガロンという戦術兵器を持ちながら、依然として戦果を上げられないSKaRDに対して、徐々に上層部からの風当たりが強くなっていく。個人的にこれがノイズになり、後半で少しノリきれなかった。ブレーザーが怪獣にトドメを刺す度に「またSKaRDの評判落ちるな…」と頭の片隅で考えてしまうのだ。せっかく主役がカッコいい活躍を見せているのに、視聴者がそれを素直に喜べないのは如何いかがなものかと思うのだ。

・アースガロンの戦績

 正直、これが今作最大の不満と言っても過言ではない。昨今のウルトラシリーズではすっかりお馴染みとなった味方ロボット枠。『ウルトラマンZ』にてセブンガーを筆頭とする特空機達が人気を博したことをきっかけに、『Z』以降の作品では味方ロボットの登場が恒例となっており、『トリガー』ではナースデッセイ号、『デッカー』ではテラフェイザーが味方ロボットとして登場した。そして、その3作のロボット達に共通する事。それは「強いこと」だ。

 セブンガーも、ナースデッセイも、テラフェイザーも、基本的に全員強いのだ。それは何故か。理由は簡単だ。単体で怪獣を撃破したという功績があるからだ。セブンガーはギガスを、ナースデッセイはサタンデロスやメカムサシンを、テラフェイザーはスフィアネオメガスを葬ってきた。

 アースガロンはどうだろう。初登場の第3話から最終回までを振り返って、単体で怪獣を撃破したことがあっただろうか。実はあった。18, 19話にて汚染獣イルーゴを複数体撃破している。だが、イルーゴは第19話にて宇宙汚染超獣ブルードゲバルガの「前座」であることが判明したのだ。
本当にそれでいいのか、そう言わざるを得ない。

 アースガロンには3つの強化形態が存在する。砲撃特化のMod.2、高速飛行特化のMod.3、最強形態のMod.4。しかし、Mod.2は初登場の次の回である第9話にてガラモンと対峙するが、ガラモンの強固な装甲には自慢の砲撃は歯が立たず、体当たりを受けてあっさり機能停止。Mod.3は初登場の第21話にて月光怪獣デルタンダルBと激しい空戦を繰り広げ、最終的にデルタンダルBに致命傷を負わせることに成功……したはいいものの、結局トドメはブレーザーが刺した。そして、Mod.4は第24話で、月面を舞台にラスボス・宇宙爆弾怪獣ヴァラロンと対決。しかしながら、ヴァラロンの有機爆弾の爆発をもろに食らい、機能停止。強化形態ですら、この有り様だ。今年はDXアースガロンがかなりの良玩具だったのもあって、アースガロンの本編での戦績には正直ガッカリした。

 と言うように、ここまで散々ボロクソに言ってきたアースガロンだが、僕はアースガロンが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。愛嬌のある顔に、スマートなフォルム。そして、多彩な武装の数々。浪漫が詰まっている。しかも、玩具のクオリティも神がかっている。本編の戦績の除けば、良い扱いを受けていると思う。

 また、確かに戦績に関しては悪いとしか言えないが、「活躍」という視点で見れば、アースガロンははっきり言って大活躍している。

 まず初登場の第3話から、アースファイアを発射し、甲虫怪獣タガヌラーの右腕の鎌を溶断。その後も電撃を喰らって機能停止するまでの間、格闘戦で着実にタガヌラーを追い詰めていた。さらに、機能停止後もテイルVLSによってブレーザーのサポートを行っていた。

 第6話ではオーロラ怪人カナン星人によって洗脳されるも、洗脳に抗い絶体絶命のヤスノブの命を救った。

 第8話ではMod.2ユニットのレールキャノンを天弓怪獣ニジカガチの額にあるクリスタルに命中させ、勝利の契機を作った。この戦いはアースガロンがいなければ負けていた可能性が高い。

 第12話ではゲバルガのEMP攻撃に対応するため、新兵器チルソナイトスピアを使用。狙撃によってEMP発生器官の破壊に成功。その後、ゲバルガの反撃を受けるが、復活したブレーザーの介入により危機を脱する。ここで活躍が終わると思いきや、なんとブレーザーはゲバルガに刺さったチルソナイトから新たな武器・チルソナイトソードを生成。見事ゲバルガを撃破した。

 最終回においても、アースガロンがV99由来の技術で製造されたという衝撃の事実が判明。その特性を利用し、地球へ侵攻しようとするV99の船団と通信。対話によって、「コミュニケーション」という今作のテーマに沿った解決法で全面戦争を回避させた。

 割愛したが、これ以外にもアースガロンは両手に収まりきらない程の活躍を残している。先程は戦績に関してアースガロンを酷評したが、寧ろアースガロンがいなければ、負けていた戦いの方が多いと言えるだろう。そう、アースガロンは決していらない味方ロボットではないのだ。


■まとめ

 半年間「コミュニケーション」という大きなテーマを掲げ、物語を紡いできた『ウルトラマンブレーザー』。無防備であったV99の宇宙船を撃ってしまった土橋 祐。そんなディスコミュニケーションからこの物語は始まった。一歩間違えれば、人類とV99の間で戦争が勃発していたかもしれない。そんな状況でも「同じ間違いを繰り返してはいけない」という強い意志の元、行われた対話によって負の連鎖は絶たれたのだ。

 今回は相手が理解を示してくれたから丸く収まったが、例え対話を試みても解り合えない時もある。時には力で解決しなけばならない時もある。人間と怪獣がまさにそうだろう。人間の事情と怪獣の事情が衝突し、また争いが始まる。それでも今回のように解り合おうとすることを諦めない限り、きっと未来はあるだろう。
 
 発表当初、独特なビジュアルでファンを驚愕させたウルトラマンブレーザー。最初は、「蛮族」や「何を考えているか分からない」など色々言われていたブレーザーだが、今の我々なら彼がどういう思いで行動しているかがわかるはずだ。この半年という期間の中で彼と触れ合い、対話してきた今の我々なら。

 単なる超人ではない。約60年間、遠く離れた星の知的生命体と絆を繋いできた戦士達の名前。

彼は紛れもなく「ウルトラマン」だったのだ。 


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