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星影の軌跡 第3話「新たな出会い」
朝焼けが村の家々を照らす中、セイは荷物を背負い、家を後にした。昨夜、母に別れを告げた時のことが胸に蘇る。母は静かに涙を流しながら、彼の頬に触れて言った。
「セイ、どんなに遠く離れていても、私はいつもあなたの無事を祈っています。星々があなたを守ってくれるはずよ。」
母はその手に握りしめた古びた布を見せながら続けた。「これは、あなたが小さい頃に父が残してくれたものよ。いつも星を見上げて、家族を守りたいと言っていた父の願いがこもっているの。セイ、あなたもきっと同じように強くなれるわ。」
その声には不安と誇りが入り混じっていた。セイはその手をそっと握り返し、「僕は必ず帰るよ。村とみんなを守る力を持って。」と決意を込めて答えた。そして村長の真剣な言葉、「星の導きに従え、恐れるな。その道が必ず希望へと繋がる」を思い出しながら、前に進む足を止めなかった。
幼馴染のミリアが村の出口で待っていた。彼女は少し赤くなった目をこすりながら微笑んだ。
「セイ、気をつけてね。星々があなたを守ってくれるわ。」
「ありがとう、ミリア。僕、必ずもっと強くなって帰ってくる。」
彼の言葉にミリアは小さく頷き、差し出した小さな布袋を手渡した。
「これは、お守り代わりに持って行って。何かの役に立つかもしれないから。」
ミリアは小さな布袋を手渡しながら続けた。「この星の形をした石は、私が子どもの頃、星の丘で拾ったものなの。それ以来、何か大切な願いがある時に持ち歩いてたわ。薬草も母が教えてくれたもの。これで少しでも役に立てれば嬉しい。」
彼女の瞳には、セイを心から応援する気持ちが宿っていた。
布袋の中には、小さな星の形をした石と乾燥した薬草が入っていた。セイはそれを握りしめ、深く頭を下げた。
村長もまた見送りに現れた。
「セイ、星の導きに従い、恐れずに進むのだ。この村の希望はお前に託された。昔からこの村は星々の加護を受け、危機を乗り越えてきた。お前の父も、そしてその前の世代も、星を信じ、その導きに従ったのだ。その意志を継ぐ者として、星々の声を信じて進むのだ。」
その言葉に重責を感じながらも、セイは強い意志を込めて答えた。
「はい。僕は星を守る者として、行動します。」
村の住人たちも通りに集まり、遠くから声をかけてくれた。「気をつけてな」「セイ、応援してるぞ!」
セイは振り返り、村全体を見渡した。星影の丘も、家々も、彼が守りたい場所そのものだった。
「僕は行くよ。この村のためにも。」
村を離れて数日後、彼は深い森に足を踏み入れていた。森は静まり返り、昼間だというのに薄暗く、どこか不気味な空気が漂っている。木々の間を歩くたびに足音が吸い込まれ、まるで森そのものが生きているような感覚を覚えた。
「ここを抜ければ次の村にたどり着けるはずだ…」
星の結晶を頼りに進むセイは、突然、木々の間から低い唸り声を耳にした。体が一瞬こわばり、冷たい汗が背中を伝う。「影喰いの眷属か…?」息を殺して耳を澄ませ、音の方向を慎重に探る。剣を構え、一歩ずつ慎重に近づくと、茂みの中から現れたのは、傷ついた狼のような姿をした獣だった。
「お前は…影喰いじゃない?」
セイが剣を下ろすと、獣は弱々しくうなりながら地面に伏した。その背には大きな傷があり、鋭利な爪で引き裂かれたような痕跡がはっきりと残っている。さらに、体の一部には焦げたような跡もあり、火を使う敵との激しい戦闘を物語っていた。セイは一瞬ためらったが、星の結晶が淡い光を放ち、彼に語りかけた。
「この者を助けるのだ。お前が希望を広げる者であるならば。」
結晶の声は静かだが、どこか力強く響いていた。それは単なる命令ではなく、セイの中に眠る使命感を呼び起こすものであった。セイは一瞬、星々がすべてを見通しているかのような感覚に包まれ、背筋を正した。この光はただの力ではなく、世界に希望を取り戻すための意志そのものだと感じた。
セイは頷き、荷物の中から布を取り出して傷を包帯で覆った。そして、結晶の力を使って傷口に光を当てた。光が獣の体に浸透し、少しずつ傷が癒えていく。
「大丈夫、もう怖がらなくていい。」
獣は弱々しくも感謝のような視線をセイに向けた。その目には、かすかに知性が宿っているように感じられた。
翌朝、セイが目を覚ますと、獣は元気を取り戻し、彼のそばに座っていた。その目は力強く、そしてどこか友好的だった。
「お前、ついてくるのか?」
獣は静かに頷くように見えた。その瞬間、星の結晶が再び光を放ち、セイの心に言葉が響いた。
「この者は星々に選ばれし存在。共に行くがよい。」
セイは新たな仲間を得たことを確信した。獣は彼に寄り添いながら、一緒に森を進むようになった。その道中、獣はセイを助けるような行動を見せることが増えていった。たとえば、倒れた木を避ける道を見つけたり、危険な植物を教えてくれたりと、彼の旅を支えてくれる存在となった。
セイは新たな仲間に名前をつけることにした。
「君に名前をつけよう。どうだろう、アストラなんてどうかな?星のように輝いていたから。」
セイは星空を見上げながら続けた。「星は昔から僕にとって希望そのものだった。君もそんな存在だよ。僕は一度、父を失った時に星を見るのをやめたことがあった。希望なんて何の役にも立たないって思ったんだ。でも、村の星影の丘で父が遺した言葉を思い出してから、星空を見上げるたびに少しずつ強くなれた気がした。光を失いかけた僕の旅路を、君がこうして支えてくれる。」
アストラはその言葉に応えるように、小さくうなり、満足げな様子を見せた。それが彼の名となった。
獣はその名前を聞くと小さくうなり、満足げな様子を見せた。それが彼の名となった。アストラはセイに対して信頼を寄せるようになり、セイもまたアストラを仲間として心から認めた。
夜、星空の下で休息をとっていると、セイは星の結晶を手にしながらアストラに語りかけた。
「アストラ、僕はもっと強くならなくちゃいけない。この力で、みんなを守るために。」
アストラはセイの膝に頭を乗せ、まるで励ますように静かに寄り添った。その瞬間、星の結晶が淡く光り、二人の絆が強まったような感覚がセイを包んだ。
森を抜けた先には、広大な谷が広がっていた。そこにたどり着くまでの道中、セイとアストラは幾度も試練に直面していた。倒木を乗り越え、深い霧の中で迷いかけた時、アストラは鼻を使って正しい道を示してくれた。また、突然の雨により足元が滑りやすくなった斜面を降りる際、アストラはセイを支えるように歩幅を合わせて進んだ。
谷の中央には、天空に向かってそびえる巨大な岩の柱が立っていた。柱の表面は滑らかでありながら、無数の星座を描いたような紋様が刻まれており、淡い青白い光を放っていた。その光はまるで生きているかのように揺らめき、見る者を引き込むような神秘的な雰囲気を漂わせている。周囲には小さな光の粒が漂い、柱を守る結界のようにゆっくりと回っていた。セイは直感的に、この地が何か特別な場所であることを感じ取った。
「ここが星々の次なる試練の地なのか…?」
星の結晶が輝きを増し、彼を柱の方へと導いた。アストラと共に進むセイの心には不安と期待が入り混じっていた。しかし、彼の足は止まらなかった。星々の声と新たな仲間、アストラの存在が彼を支えていたのだ。
「行こう、アストラ。僕たちならきっとできる。」
セイは自らに言い聞かせるように呟いた。これまで独りで進む覚悟をしていたが、今は隣に信頼できる仲間がいる。アストラが彼を見上げ、静かに寄り添う姿に、孤独ではないという安堵が心に広がった。セイはこの信頼に応えなければならないと強く思い、さらに足を速めた。
セイとアストラの冒険は、これからさらに過酷で美しいものとなっていく。