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いつか、伝説になる前に

電車が大好きな中学生。カッコイイ特急が好きとかそういうレベルではない。プレゼントに貨物列車の時刻表をもらって大喜びするほどの強者だ。

JR路線はどんどん廃線に、辛うじて引き継がれた第三セクターの路線も風前の灯。

北海道はそれが特に顕著で、数年毎に廃線や、無人駅の廃止、そして今後の廃線の議論が交わされている。

(↑サイト内の画像をスライドすると過去と現在が見比べられます)

道南で一番好きな湯ノ岱温泉。移住直後にはまだ電車が通っていた。(当然のように電車と書いたが、道民は電車の事を汽車という。なぜなら動力が電気ではなくディーゼル車だからだ。函館では電車と言ったら路面電車のことを指す。都会な札幌はどうなのだろう。)

まだ道南のことがよく分かっていなかった移住当初。廃線のニュースを聞いてもピンとこなかった。今、とても後悔している。なぜ乗っておかなかったのかと。

奥深い所にあるので、雪道運転の不安もあり、未だに真冬には行ったことが無い。電車で吹雪の日に湯ノ岱駅に降り立ち、浸かる温泉はどんなに素晴らしかったことだろう。その体験をしたかった。

温泉も建て替えの噂がちらほら(ある年は看板が外された)。駅はないが、せめて真冬のあの古い佇まい、一度味わっておかねば。また後悔しないように。

昭和の最後期生まれ。目を閉じると思い浮かぶ当時の中野駅。まだ切符切りの係がいた。

「切符は駅に入る際に、そこに人がいてパチンと切り込みを入れられていたんだよ」それはすっかり昔話になってしまった。そもそも今の都会の少年、少女たちは切符を買ったことがあるのだろうか。そういえば、icカード専用で切符を使えない自動改札機も増えているのだったか。

冒頭の彼は、昔の路線図を見て空想の旅に出ているのだろう。実際に乗れたら良かったのにね。

さらに減っていく。でも、まだ間に合う。「いつか、伝説になる前に」彼に投げかけているようでいて、本当は自分に強く投げつけている。

急げ。

カリブーとの出会いは”間に合った”という不思議な思いを僕に抱かせた。あと五十年、あと百年早く生まれていれば…。過ぎ去った時代に思いを馳せる時、僕はいつもそんな気持ちにとらわれてきた。あらゆるものが目まぐるしいスピードで消え、伝説となっていく。
が、ふと考えてみると、アラスカ北極圏の原野を、幾千年前と変わることなくカリブーの大群が今も旅を続けている。

長い旅の途上 カリブーフェンス/星野道夫

私はカリブーがいなくなった地平線を見つめながら、深い感動と共に、消えてゆく一つの時代を見送っているようなある淋しさを覚えていた。
いつの日か、この極北の地にあこがれてやって来た若者は、遅く生まれ過ぎたことを悔やむのだろうか。

長い旅の途上 カリブーの旅/星野道夫

そう遠くない未来、伝説になってしまうであろう例の喫茶店。今も毎週通い続けている。語れる伝説も少し貯まってきた。音楽は相変わらず全く変わらない。昨日は入った時は無音、お水を出した後に音楽のスイッチが入った。オリジナルプレイリスト説が濃厚。聞けば一瞬で解ける謎。謎は謎のままで伝説になったほうが面白いという気持ちと、好奇心がせめぎ合っている。

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