海外と比較して見る日本のスポーツクリエイティブ
来シーズンのクリエイティブ構想を夢想する日々。
そんな中で今回は、一昨年の末からいろいろな面でお世話になっている五勝出さんのツイートを題材に「国内のスポーツクリエイティブが抱える問題」について、人材や環境因子など様々な面から意見を述べていこうと思います。
本題のツイートがこちら。
このツイートは現在のスポーツ業界におけるクリエイティブ事情を端的に表しています。
僕自身がファンアートをきっかけにクラブのデザイナーへステップアップした人間ということもあり、なぜスポーツデザインを志す人間が日本のスポーツクラブとマッチしないのか原因がわかるような気がしています。
まず前提として、「現状国内のスポーツクリエイティブは海外に比べて平均的にカッコよくない」です(超絶主観)。現在弊クラブでは来季のクリエイティブ構想を進めている最中で、よく海外の事例などを参考程度に確認したりしていますが、これは本当にそう思います。
なぜ国内スポーツは海外に比べクリエイティブが劣っているように見えるのか。
確実にお金の話が絡むとは思いつつもその辺りの話は詳しい人たちに任せておき、今回はデザイナー視点で技術的な部分を掘り下げていきます。
●欧州サッカーのSNSクリエイティブ分析
まず最初にタイトル通り、かっこいいスポーツクリエイティブ=欧州サッカーのクリエイティブと定義し、国内クリエイティブの比較対象として分析していくことにします。
扱う題材は “MATCHDAY” です。主に試合開催日の告知に使用されるクリエイティブとなります。
かっこいい。かっこいいですよね。なぜかっこいいと感じるのでしょうか。
その主な要因としては下記が挙げられます。
○写真の質が高い
肌の質感は凹凸が目立つライティング(もしくはデータの加工)がなされていたりして、スポーツ感が表現されています。
○日程が小さい・ビジュアル部分が大きくてかっこいい。
日程って一番訴求するべきものではないの…?と思ってしまいますよね。
そもそも日程を訴求するような画像自体が存在しないクラブさえありますし、そういったクラブと国内クラブではSNSの運用目的が異なるケースもあるのでしょう。おそらく海外では「今日は試合だよ!」といった当日の発信のため、そもそも目的は来場者数増加ではなくて別のところにあるのだと思います。
そのため情報量が少ない分、スマートにレイアウトされている上に選手の写真が画面を大きく占めてます。
大きく2つの部分で日本と大きな差分が出ていることが見て取れます。
次にその要因を分析していきましょう。
写真の質に関してはおそらく、
・日本のクラブには写真にこだわるほどのリソースがない
・日本のクラブがビジュアルにこだわる必要性を理解できていない(プライオリティが低い)
・そもそも国内でスポーツ写真を極めているフォトグラファーの母数が少ない
この3つが挙げられるかと思います。国内におけるスポーツ写真は、未だ広報媒体のひとつとしての役割が強く、クリエイティビティという切り口で言うとまだまだ必要性を理解しづらいのかもしれません。
情報のサイズ感に関しては、先日投稿したツイートが答えではないかと考えています。
日本という娯楽が多様な環境も影響しているかもしれませんし、逆に日本が日程を大きくしなければならないのではなく、娯楽としての立ち位置が確立されてる欧州だからこそ日程を目立たせなくて良いともいえます。
そのくらい欧米では、競技が文化として浸透しているということですね。
日本では可処分時間の奪い合いが激化する中、いかに顧客を現場に呼んで熱狂感を味わってもらうかという視点において「いつ試合をやっているのか」は重要な訴求ポイントの一つです。
●国内スポーツは強力なコンテンツではない
ここで五勝出さんのツイートの内容に戻ります。なぜ現状のスポーツクリエイティブはイケておらず、若者が作るスポーツクリエイティブは現場の求めるものと乖離してしまうのか。
それは「若者が最先端のもの=海外のイケてるクリエイティブに影響を受けすぎてしまっている」という部分にあると思います。
スポーツ文化が既に浸透している海外に対し、今の国内スポーツの立ち位置はどうでしょうか。昔に比べて地上波でスポーツが露出する機会はめっきり減り、コンテンツの認知度は右肩下がりとなっています。
そんな中で国内スポーツクリエイティブが果たすべきマーケティングのミッションは、「未認知から認知」そして「認知から購買」。いかに未認知顧客にリーチするか、認知のあとはいかに魅力を出して購買へ繋げるか。 ということなのです。
海外のカッコいい(造形美寄りの)デザインを見て勉強してきたクリエイターの卵は、一度その壁にぶつかってしまう。これは日本のデザイン教育のレベルの低さが露呈している事象かもしれません。
両極端
デザインの学校教育において、近年になってからはデザイン画を描く作業、所謂「ガワ」の部分よりもコンセプトワークやマーケティング視点でコンテンツを設計するようなカリキュラムが取り入れられていると聞きます。
(一方で逆にデザインワークを蔑ろにする風潮もいかがなものかと感じていますが…)
参考ツイート:https://twitter.com/suikasu123/status/1415516337548324869?s=20
マーケティングの視点を持ってこそ初めて真のデザインと呼べる、これはツイートにもあるように必ず頭に入れておかなければなりません。そのスポーツに携わりたい熱い想いがあるからこそ、いまその競技がどんな立場に置かれているのかをきっちりと把握しておく必要があります。
参考記事:マーケティングセンスを感じる人 - えとみほ(江藤美帆)
https://note.com/etomiho/n/nb3fb02f7bddf
●機能美と造形美のはざま
さて、逆に一方で現場で制作をしている方々はビジュアル部分に拘る技術が足りていないことも事実として認めるべきだと感じています。
「見せる」と「魅せる」の違いで、現状国内は見せる要素の強いデザインがよく見かけられますが、具体的に言うと写真に臨場感あふれる加工を施したり、丁寧な切り抜きでリアリティのあるクリエイティブに仕立てたりする部分が足りていません。魅せるということは、スポーツにしかない魅力を引き出すために必ずクリエイターが意識しなければならないポイントです。
(マーケティング的デザインとブランディング的デザイン、という表し方もできるかもしれません。)
至極当たり前のことではありますが、現状国内のデザイナーは機能美を習得しているのが必須です。なぜならお金に直接つながるから…これがデザイナーの本筋です。
完全に分離できるような物ではありませんが、バランスを見ると機能美に偏っている印象です。
●スポーツは視覚で楽しむエンタメだということを忘れてはいけない
スポーツデザインにおいて、ビジュアルにこだわることは絶対に必要だと思っています。先述の通り日本は多種多様な娯楽がある環境であり、その中で生き残るためにはスポーツにしかない魅力をアピールしていかなければならないからです。
一方でその技術を習得することの障壁の高さ、優先順位の低さ、両立するデザイナーには資金的な理由で頼めない、どうしてもプライオリティが低いなど、今このような状況になっている要因はさまざまです。
●スポーツデザインの課題まとめ
今業界に関わっているクリエイターの課題は、可処分時間の奪い合いの中でスポーツにしかない魅力をビジュアルに落とし込む能力。
これから業界を目指すクリエイターの課題は、マーケティングにおいて顧客に伝えるべき情報を、魅せる力を発揮したまま、より伝わる形で表現するデザインセンス。
海外のスポーツクリエイティブの味(写真加工技術)を取り入れつつ、マーケティングとしての広告ノウハウ(情報レイアウト)を両立させていく。ミクロの針穴に糸を通すようなデザインが極論、スポーツには求められます。
そのためには社会人・学生の垣根を越えた相互関係が今後重要と感じます。今やスマホひとつでデザインが作れてしまう時代で、それこそ今ファンアート界隈でバズっているような方々の多くがスマホで制作にあたっています。
お互いの良さを認め合って機能美と造形美のはざまで最適解を見つけることが、国内スポーツクリエイティブのクオリティをあげる方法なのではないでしょうか。
「実体験」
ファンアートコミュニティで「試合告知画像制作会」という、好きなチームの試合開催を訴求する制作イベントを開催したことがあるのですが、やはり記事の内容通りで、今見返してもカッコ良くはあるがデザインとして機能しないものばかりが散見されます。情報の比重が少なく、ツイート通り日本のマーケットに乖離したデザインになってしまっていました。
また、これは自分にとって発見だったのですが…ファンアートを作る方々が必ずしも将来デザインを生業にしようと思っているわけではない、というのも事実です。
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【告知】 クリエイターコミュニティ ひのまるブリッジ
SHIN🇯🇵が主宰するスポーツのファンアートクリエイターが結集したコミュニティ「ひのまるブリッジ」が活動を開始します。
社会人サッカーリーグに所属する選手とコラボ企画やデザインテクニックのYouTube配信など、スポーツクリエイティブを次のステージへと進めるために活動して参りますので、興味のある方はぜひご支援のほどよろしくお願いします。
Twitter: @hinomaru_bridge
※本記事の内容は個人の見解であり、会社や団体の意見を代表するものではございません。
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