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『カルロス菅野に似てますね』から続く
飲んだ帰りは最寄り駅からタクシーのお世話になることが多い。
最終バスの時間が早いのか、深酒をするからなのかは追求しないでおこう。
少し突拍子もないイントロになるが、
「お兄さん、カルロス菅野さんに似てるな!男前やわ。」と、タクシーの運転手さんに声をかけられることを想像してほしい。
普通に考えて、
「カルロス菅野」って誰やねん?
ということになるのではないか。
ただ、僕は違った。
カルロス菅野さんのことは知っている。
ちなみにカルロス菅野さんってこんな人です。↓
僕のことをカルロス菅野に似てると言って声をかけてきた運転手さんはOさんという方で、僕の最寄り駅を中心に流している人だ。
「えっ?!それって、あの熱帯JAZZ楽団の人ですか?昔(大学時代に)言われたことありますよ。」
という返しをしたことがキッカケで、僕がOさんのタクシーに偶然乗り合わせるたびに局所的な音楽トークをしている。
初めて出会ってからは、もう10年近い月日が経っている気がする。
50代後半じゃないかなというくらいの年恰好の方である。
Oさんが好きなのは、ピアニストの松岡直也さんのようだ。
こう言ってしまうと非常に失礼だが、風貌からは松岡直也好きとは思えない。
というのは、とても偏見に満ちた考えなので、松岡直也さんのことを少し調べてみる。
松岡 直也(まつおか なおや、1937年5月9日 - 2014年4月29日は、日本のジャズ・ピアニスト、ラテン・ジャズ、ラテンフュージョン音楽家、作曲家、編曲家である。神奈川県横浜市中区本牧生まれ。
7歳から独学でピアノを始め、15歳でプロデビューしたと。天才やね。
そして、多少は知っていたが相当ラテン音楽に傾倒した人のようだ。
そして、「松岡直也グループ」から、件のカルロス菅野を輩出することになる。
日本におけるラテン音楽の興隆にものすごく尽力し、後世に影響を与えた人ということだ。
Oさんが松岡直也好きに見えるか?という問いに戻るが、答えはやはり「NO」である。
長渕剛とかの方が見た目のイメージと合う。
運転手のOさんが、いかにして松岡さんと出会いどれくらいの好きなのか正確には分かりようもない。
ただ、初対面のお客さんに「カルロス菅野さんに似てる」と切り出してくるあたり、普通の感覚を良い意味で逸している。
気さくなOさんは、後に携帯電話の番号を僕に教えてくれた。
「⚪︎曜日と⚪︎曜日はここらへん流してるから、なんかあったら連絡してな!」と、キメ顔で言ってくれたが、いまだに電話したことはない。
少し違う話をする。
こないだ酔ってタクシーに乗った時、車内で聴いたことのある音楽がかかっていた。
それが、スティービーワンダーの「superstiton」だと気づくまでに少しだけ時間がかかった。
僕が、「あっ、スティービーワンダー…」と呟いたら、運転手さんが反応した。
「ご存知ですか?」
「はい、もうちょっと大きな音でかけてもらってもいいですよ。」
「ありがとうございます。」
みたいな謎のやり取りがあり、運転手さんはスマホの音量ボタンを操作した。
その運転手さんは、スティービーワンダーにまつわる話を少ししてしてくれたのだが、失礼ながら内容は忘れてしまった。
また少し違う話をする。
2年ほど前に、川上未映子さんによる村上春樹さんのインタビュー集「みみずくは黄昏に飛び立つ」を読んだ。
何か引っかかりがあったので、記録しておいた一節を引用する。
人間誰だって語るに足る中身くらい持ち合わせています。
タクシーの運転手さんに限った話ではなく、みんな語るに足るものがあるんだろうなと。
僕はたまたまOさんの語りを聞くことができたが、世間には膨大な語られないテクストが溢れていることに、改めて気づいた深まらない秋の夜。