『働く環境』が変わる時代に企業は何を求められるのか
2020年の全世界が同時に直面した新型コロナウイルスが与えた影響は生命の危機はもちろん、個人の働き方における価値観の変化にも大きな影響を与えたはずです。今後の新しい生活様式と同様に新しい働き方として求められる働く環境とは何かをいくつかの視点で考えて見たいと思います。
労働市場での変化
今までの日本での働き方は企業(=雇用主)と従業員(=被雇用者)という分かりやすい構図で構成され、終身雇用に代表されるように、企業は従業員の生活を守る代わりに従業員は企業に対する忠誠心を持つという図式が成立していました。一方、日本を代表する企業のトヨタの豊田章男氏も終身雇用を否定するというニュースがメディアでも多く取り上げられ、労働市場での労働者の考え方も変化してきたように思えます。
総務省のデータでは、リーマンショック後の2010年には一度急激に減少した転職者数ですが、直近10年では毎年増加しており、2019年には過去最多の転職者数(351万人)を記録しています。
(出典:総務省)
一方、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた経済動向から2020年の正社員の転職率は前年対比で2.1ポイント減という結果になり、2016年以降は増加傾向にあった転職率は、2020年は2018年と同等までに戻るという結果に繋がりました。
(出典:マイナビ)
これらはあくまで転職者数と転職率という数値だが、目に見えない部分として注目している点としては、今までの日本では後ろ向きに考えられてきた『転職』が、日本の労働市場でも当たり前になってきた点です。さらに、先行きの見えない経済、『VUCAの時代』と言われる現代社会において、各々の働くことに対する考え方や求める価値観に変化が見られる点は興味深いポイントでしょう。
では、転職者は転職先の企業に対して何を求めているのでしょうか?もちろん収入を上げる、役職や職責を上げるという条件面への希望は引き続き割合が多く見られる一方、新型コロナウイルスの影響から今までには無かった希望条件をもつ人が増えているということが考えられます。
働く中で何を重要視するのか
現在の労働市場では仕事に対する価値観が変化してきたことが考えられます。実際にエン・ジャパンの調査では「転職のきっかけ」の1位項目が20代、30代、40代で「やりがい・達成感のなさ」になっています。
(出典:エン・ジャパン)
業界や職種によって違いが出てしまう点は加味せず、どのような組織内でも実行可能な要素としては、以下の2つが挙げられます。
・心理的安全性の担保
・リスペクティング行動
これらは従来の日本組織ではあまり重要視してこられなかった要素です。心理的安全性に関しては、①何を言っても大丈夫な環境、②困った同僚を助ける環境、③リスクよりもまず行動を起こしてみる、④今までにない斬新なアイディアを出せる 等々、一般的に保守的と言われる日本型組織では実行するのがなかなか難しい反面、これらの要素を兼ね備えている組織では従業員や伸び伸びと働くことが出来ることが想像できるため、「やりがい」に繋がってくる可能性が高まります。
リスペクティング行動に関しても同様に旧来式の組織ではあまり見られない行動かと思います。具体的には「認め合い」と「期待し合う」という行動を指しますが、トップダウン型の組織では「指示」「管理」などが中心の組織マネジメントとなるため、従業員の自主性を重んじることが少ない傾向が高くなるはずです。もちろん旧来式のマネジメントで成果を出している企業はあると思いますが、その企業で働く従業員の方々のやりがいに対するアンケートを取ってみると興味深い結果が出るのではないでしょうか?
自社独自の『文化』形成の必要性
ここまでの説明の通り、今後の社会では従業員がやりがいと感じられるための環境をどのように整備するのかがどの企業にも求められますが、重要な考え方としては自社独自の文化も大切にするという事だと思います。評判の良い企業の真似をしても、それが自社に必ずしも適合するとは限りません。むしろ、既存の従業員にとってはマイナスの影響を与えるリスクになることも考えられます。
自社が業界内でどのような価値提供を目指しているのか、ビジョン達成のためにはどのような人材が必要なのか、それらを軸としたオリジナルの文化形成をしていくことが今後はどの組織でも求められる時代になってきたと言えます。そのためには、「これまで」と「これから」を客観的に見つめなおし、自社の長所・短所などを整理し、新しい文化をつくる必要がある組織もあるはずです。
『選ばれる職場づくり』が大切になる
今後の日本社会では労働人口の減少が予想されるため、自社の求める人材を採用することは今まで以上に難しくなるはずです。また、求める人材を採用し、やりがいや達成感を感じてもらうことが企業の成長にも直接的に繋がることが考えられるため、企業は従業員のためを考えた組織をつくる必要があります。優れた企業は既に「いかに従業員や求職者に選んでもらえるか」を考え様々な施策を取り入れています。他方、従業員に選ばれない組織は、いくらビジネスモデルが秀逸だったとしても、常に労働力確保のために苦戦を強いられることになるでしょう。