ウクライナの精神的支柱、タラス・シェフチェンコの詩「遺言」
「遺言」
わたしが死んだら、
なつかしいウクライナの
ひろびとろとした草原(ステップ)にいだかれた
高き塚(モヒラ)の上に 葬ってほしい。
果てしない野の連なりと
ドニエプル、切り立つ崖が
見渡せるように。
哮(たけ)り立つとどろきが聞こえるように。
ドニエプルの流れが
ウクライナから敵の血を
青い海へと流し去ったら、
そのときこそ、野も山も――
すべてを棄てよう。
神の御許(みもと)に翔けのぼり、
祈りをささげよう……だがそれまでは
わたしは神を知らない。
わたしを葬り、立ち上がってほしい。
鎖を断ち切り、
凶悪な敵の血潮で
われらの自由に洗礼を授けてほしい。
そして、素晴らしい家族、
自由で新しい家族に囲まれても、
わたしを忘れず、思い出してほしい、
こころのこもった静かな言葉で。
1845年12月25日 ペレヤスラウにて
※モヒラ=墳墓
※ドニエプル=ロシア北西部から白ロシア、ウクライナを経て黒海に注ぐ ヨーロッパ第三の大河。ウクライナ語ではドニプロ。シェフチェンコは「ドニプル」も使っている。
群像社 シェフチェンコ詩集「コブザール」 藤井悦子 編訳